その物語は、なんてことのない平凡な物語なんだけど
一団の冒険者が東を目指す物語なんだ
一団といっても、たったの四人なんだけど
一人は、マントを羽織った黒髪の傭兵くずれで
剣の腕は凄いんだけど、とっても不安定で
一人は、何も持ったことはなく、何人からも愛されたことのないシーフの少女で
その笑顔からは想像もできないほどシニカルで
一人は、僧侶のしょぼくれたおっさんで
何にでも大仰に騒ぎ立てるんだけど、宗教的熱意を除いていいとこなしで
一人は、何だかよく分からない爬虫類っぽい人で
頭に角まで生えていて、なぜかときどき火まで吹くんだど
こんなバラバラで大したことのない一団なんだ
目的も漠然としていて
何か巨悪を倒そうとしているわけでもなくて
何か大切なアイテムを探しているわけでもなくて
ただただ、馬車一台を駆って、荒野を東へ向かうだけなんだ
どこかにあるはずだ。いこう。よい暮らしを求めて
そんなことを呟きながら、ひたすら東を目指すんだ
たったそれだけなのに、でも、物語はそれだけじゃないなんだ
その旅の厳しさは本物で
峻厳たる荒野は容赦なんかしないんだ
一歩進むごとに凄まじい試練を突きつけて、徹底的に覚悟を問うんだ
そんな圧力が生の感情が露わにして
時にそれは物凄く醜くて
目を背けたくなってしまうこともあるんだ
でも四人が暗い洞穴を抜けたとき
あるいは暗い廃墟ないしは峡谷を抜けたとき
そこは光に満ちていて
四人の目指す東の楽園に
一歩近づけたと希望が見出せて
旅は神話味を帯びていくんだ
もちろん、あなたに四人の考え方も分からなければ
四人の価値観や宗教も分かりはしない
でも物語を読んでいくうちに、そんなことは問題じゃなくなっていくんだ
四人があなたの中で動き始めるのが分かるんだ
物語が年代記やサガをモデルにしているのは明らかなんだけど
それに気がつく度に四人を思い出すんだ
鮮やかに、四人の旅を
四人の物語を
そして、あなたは悟るんだ
四人の旅が今も、どこかで続いていることを
あなたがそれに勇気づけられればいいのだけど
ほんのわずかでも、勇気づけられればいいのだけど