「……ひどいな」
鼻を突く異臭に、私の口からは自然、そんな言葉が漏れていた。
夕明かりに彩られて赤銅色に染まるその光景は、なかなかに美しいものだろう。
そこを、おびただしいほどの骸に埋め尽くされていなければ。
『興味本位なら行かないほうがいい』、そう言っていた御者の不安そうな、それでいて不愉快そうな顔を思い出す。
無残に朽ち果てた教会、怨念のように並ぶ磔の十字架、山のように積み重なっている骸骨。とても見ていて気持ちの良いものではないのは確かだった。
そうであることは確かなのだが、私は引き返す気にはなれない。物書きとしての『好奇心』、それが私を今日ここに誘ったものだから。『好奇心は猫を殺す』というが、それならそれで構わない。好奇心なき人生に何の価値があるものなのか。
惨劇の跡地。これほど背徳的で、官能的な場所はそう存在しない。私はあたりを見渡す。恐らくは血の跡であろう赤ずんだ汚れの多さが、私に惨劇の凄惨さを教えてくれた。
ふと、私は十字架の一つに目を落とす。磔にされたイエスの頭が赤黒く染まっている。……ここに眠っている髑髏どもの神だ。
彼らは自らが命を落とす最後まで十字架の神に祈り、敬虔な信徒としてその一生を終えたのだろうか。
私は何となしに足元を覗き込む。奇跡的に形の良い頭骨が私を見上げているのが見える。無論、ただの髑髏に表情はない。だが私には『それ』が私を見て微笑んでいるように感じた。
――憐憫か、あるいは嘲笑か。
私はその髑髏を思い切り踏み潰す。何てことはない。髑髏はパキ、と小気味良い音をたてて他愛もなく崩れ去っていく。長い年月で弱りきっていた骨は粉状に砕かれ、それを足元を撫ぜる風が掬っていってしまう。
そうして、元から何もなかったかのように風景は佇む。
「私はさしずめ、地獄行きか」
誰にでもなく、ひとりごつ。
信じるものは、救われる。ならば信じないものは、救われないのか。……別に救いを必要としていなければ、救いを望んでもいない。
私は一つ息をつき、また歩き出した。