深緋、蘇芳の合金属により体を生し、人工筋肉帯の露が弱みを曝そうとも傷付かぬ強さを顕す。イビリウム粒子の輝きに気付いた敵は一目散に逃げ出す帝国最強の戦士。彼の名は……
いつかのそんな機関紙のプロバガンダのように、彼は英雄であった。そして、帝国民は未だにそうだと信じている。彼の強さは未だに英雄級であるに違いない。プログラム的には未だ戦闘態勢に入っていない筈なのに、直立する彼に恐れを感じている。そんな自分を恥じるとともに、仕方のないことだと感じた。
彼に初めて会ったのは、どこにでもある反乱の一幕であった。資金を余剰に持たぬ反乱軍との戦いは、彼さえ間に合えばその戦局においてミクロ的に負けることは有り得なかった。燃料補給だけをすればまたすぐ次の戦場に飛んでいく。それが彼の常であった。当時、一介の補給員に過ぎなかった私。彼の右手の黒さを覚えている。「影」に侵されていると言うらしい。強さの代償であるらしいが、その詳細を下っ端が知る方法も理由も無かった。痛くないのか、と聞いた。彼はこちらを見た。痛くはないんだ、と答えた。何故かそれだけで、恐れる必要はないのだと思えた。
あれから時は過ぎ、「影」は彼の右半身全体に及んでいた。頭部の演算・制御装置と記憶装置は死んでるだろう。左胸の循環装置まで死んでくれていたら楽なんだけど。もはやただの殺戮機械。英雄を英雄のまま殺してやるのが俺達の仕事だ。行くぞ。部隊に司令を送る。包囲網から一斉に放たれる火弾。臨戦態勢に入った途端、彼のオーラが変わる。楽な仕事ってのはどこの世界にもない。殺すか殺されるか。二択以外の可能性は排除しないと殺される。英雄か英雄じゃないか。どっちも一緒だ。被弾直前、彼の鋭い視線が突き刺さった気がした。