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第一章 風の始まり

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第一章 風の始まり

 俺の名はミキス・クロウディ、この世界『ミュライス』を旅している者だ。

ミュライスは自然が豊富な世界。空気は澄んでいて海は透き通るほどきれいで、人間が住むにはとても理想的間世界である。だけどいいところばかりではない。
それはなぜか…それは世界に住むものが『人間』以外にもいるからだ。
奴らは一般的に『モンスター』と呼ばれていて、人々を襲う。
遥か昔はそれが続き、人間が全滅しかけたこともあったらしい。だけど今は違う、俺を含めた数多くの旅人のおかげで人々は平和な日々を送っている。





「はぁはぁ…しつこい!」
俺は今、犬種のモンスター『ビジュック』×約15匹に追われ走り続けている。ビジュクは素早い上に鼻が効くため、一度目をつけられると逃げることができない厄介なモンスターだ。
このまま逃げ続けてもラチがあかない、戦うしか生きる道は残されていないな!

 【チャキィン!】

俺は剣を抜きつつ足を止め戦闘態勢に入る。
「こいっ!」

 【ブシャャャ!】

 俺は襲い来るビジュックを順番に、確実に一撃で切り裂いていく。一体一体ならどうってことない相手だけど、こうも数が多いとこっちの身が持たなくなる、このままじゃじり貧だ。
体力が少ないからあまりやりたくなかったけど、一か八か”あれ”をやるしかない。
「こっちだ、全員ついて来い!」
俺は再び走りだす。走りながら全神経を集中させ体中を駆け巡る気をコントロールする。すると風が少しずつ剣周辺に集いはじめる。そしてそれが頂点に達した瞬間に俺は振り返り、
”それ”を一気に放つ!
「かき消せぇ、風翔激滅波!」

【ブシャャャャ!】

剣から放たれた風の刃は残り数十匹いたビジックを一掃していった。
「…はぁ、なんとかなった」
何とかなったが、力が入らない。やっぱり使わない方が良かったと思いつつ、俺は戦闘の勝利に安堵するのだった。
しかし最近は戦闘が多い上に、風の力を使うことが多い。風の力は威力は高いけど体力の消耗が激しい上に精神的にもつらくなってくる。どこかでしっかり休まないと。
確か近くにサイヒシティがあったはず…そこで一度休もうかな。


ビジュクとの戦闘後、俺はなんとか夕暮れ前にサイヒシティに到着することができた。早く宿を探さないと…
「やめてください!!」
悲鳴?あの人だかりから聞こえたみたいだけど…ちょっと行ってみるか。俺は人だかりをかき分けて中心部へと向かった。
人だかりを進んでいると、周りから「大丈夫かねあの子・・・」「誰か助けてあげないのか?」と誰かを心配する声が俺に聞こえてきた。誰かが捕まっているのか?俺が人だかりを抜けると、エプロンを着ている1人の女性と、ムダに細い体系の男が何やらもめている光景が見えてきた。
「放してください!」
「いいじゃねえか~楽しいことしようぜ。でないとこの剣でグサリだよ?」
 細身の男は女の喉に剣を近づけながらそう言った。ナンパにしては強引なやり方だ。「剣を使っておどすなんて最低だぞ!」「そうだそうだ!」という町の人たちの批判の声が飛び交った。町の人のいうことはもっともだ…でも。
「誰のおかげで町の中で平和に暮らせてると思ってんだ!あぁ?」
 でも彼らのような冒険者や旅人のおかげで町や村が守られているのが今の現実。だから、町や村の人達は旅人に何も言い返すことが出来ない…そこを付けねらって悪さをする連中が最近増えてきている。
「わかったか?貴様らは俺に助けられてんだよ、いい思いして何が悪い!」
でも、だからと言って何をしてもいいわけはない。
「いやっ、はなして!誰か助けて!!」
ましてやそんなのが、旅人であるはずがない!

【バシッ!】

「いって!誰れだ…誰れだ俺に石を投げやがったの!」
「俺だ」
俺は男の顔に石ころを投げつけた。性分と言うかなんと言うか…やっぱり、こういうことを見て見ぬ振りなんかできないよな。誰かを助ける事に理由なんて必要ない。
「なにが『俺だ』だ!!ふざけやがって、今すぐぶったぎってやるよ!!」
「きゃっ!」
 男は女を突き飛ばし、一直線に俺に斬りかかってきた。
「死ねぇぇぇ!」
「冗談!」

【ドコッ!】

「ぐはっ!」
男が剣を振り下ろした瞬間、男のみぞおちに剣の柄頭(剣先の反対側)を打ち込んでやった。こんな奴相手に剣を抜くまでもない。
「ぐっ…」

 【バタッ!】

男の膝はガクッと地面に落ちた。
「…俺達はモンスターを倒しているんだ、いい思いして何が悪い!」
「力を持っているからって、それを行使していいわけじゃないだろう…まだ、やるというなら」
 
【チャキン!】

 俺は鞘から剣をゆっくりと抜いき、それと同時に風を周囲に発生させた。

 【ブワッ!!】

「うわっ!な、なんだ、風がいきなり?お前まさか、風の力を使うあのミキス・クロウディか!?」
「ああ、そうだ」
「ははは…ま、マジかよ。じょ、冗談だよ冗談。ちょっと調子乗っちまっただけさ。だから命だけは勘弁してくれよ、なっ?」
「ならさっさとここから立ち去れ!」
「はい!」
 男は大急ぎで逃げていった。俺はこの大陸では結構名が知り渡っていて、名前を聞いたり、風の能力を見せただけで逃げてく奴が多かったりする。褒められたことではないけれど。

【パチパチパチパチ!】

俺が剣を鞘に納めていると、周りから拍手が聞こえてきた。
「すごいぜ兄ちゃん」「あなたのおかげでシューちゃんが助かったわ」「あんたこそ本当に剣士だ!」
周りにいた人達からの感謝の声が俺に集まってきた。
「い、いや、そんな…」
 なんだか照れるな、こういうの。
「あの」
そのとき、人質になっていたエプロン姿の女性が声をかけてきた。
「あ、大丈夫だった?」
「はい…ミキス・クロウディさん、ありがとうございました。本当にありがとうございました」
 女性は何回も何回も頭を下げた。
「そ、そんなに頭下げないでよ。とにかく俺はもう行くよ、宿探さないといけないから」
「宿を探しているのですか?…それなら私に任せてもらえませんでしょうか!」
「え?」
 俺は訳も分からぬまま、彼女の顔をじっと見ていた。
4, 3

  



【バフッ】

「ふ~…食べ過ぎた」
 俺は満腹の腹を押さえながらベッドに横たわった。久しぶりのベッドは気持ちがいいな。だけどまさかシューちゃんの家が宿屋だったなんて、おかげで宿を探す手間が省けた。夕食おいしかったな…あれがお袋の味ってやつなのかな。
俺は小さい頃シビスと言う森で拾われた。拾われた後、俺は村に住む1人のおばあさんに育ててもらったため本当の親の顔を見たことが無い。
別にあの場所が嫌だった訳ではない。おばあさんや村の人達はみんな優しい人達ばかりだったし、空気もきれいで、俺も好きな村だ。でも「一度だけでいい、親に会いたい」という思いが心のどこかにあったのだろう。だから俺は、物心ついたころには旅に出たいと思うようになったんだと思う。

【コンコンッ】

「はい」
「ミキスさん、お茶をお持ちしました」
先ほど助けた女性、シューちゃんの声だった。
「入ってもいいですか?」
「どうぞ」
 シューちゃんはお盆を片手に持って部屋に入ってきた。
「お茶、ここに置いときますね」
「ありがとう。しかしシューちゃんのお母さんの料理、すっごくおいしかったよ」
「ふふ、お母さんに言ったらきっと喜びます」
 シューちゃんは微笑みながらテーブルにお茶を置いた。
「そういえばミキスさんもペルシニム王国に行くのですか?」
ペルシニム王国とはこの世界の王が住み、この世界一大きな町がある場所である。
「ペルシニム王国?別に行く予定は無いけど」
「そうなんですか?私はてっきり、ここに泊まっている旅人さんたちと一緒でお城に向かうものだとばかり思っていました」
旅人達がペルシニム王国に?確かにあそこは大きな町、だけど旅人が集まるような催し物があるなんて耳にしてないけど…
「聞いた話で詳しいことは知らないのですけど、なんでも5日後王様直々の勅命があるらしいですよ。ミキスさん知らなかったんですか?」
「ああ、この数日いろいろあって村や町に寄ることがなくって、真新しい情報は耳にしてないんだ…それで内容は?」
「詳しいことはよく分からないですけど、なんでも旅人ばかりを集めていると聞きしました。」
 旅人ばかりを集めている?気になるな。今までに民衆への勅命は何度かあった、でも旅人への勅命なんて一度もなかったのに。
「そう言えばこの宿に泊まってらっしゃる旅人さんが言っていました。『この仕事が成功すれば一生遊んで暮らせるらしい』とか」
 遊んで暮らせるか…妙だな。王様は民にも慕われる堅実な方だ、そんな方がお金が絡む勅令を出すだなんて…俺も行く必要があるみたいだな。
「俺も行ってみるよ」
「ミキスさんも行くのですか?」
「うん、少し気になることもあるし」
「それなら、お父さんに馬車で送ってもらってください」
「え、いいよ。それにお店だってあるだろう?」
「『いいよ』じゃありません。私はまだミキスさんにお礼しきれてないんです、これぐらいさせてください。それにお店の方は大丈夫です、従業員さんがいますから」
「…わかった。ありがとう、お願いするよ」
「いえ、それではゆっくりと休んでください」
「うん、そうさせてもらう」
 そう言うとシューちゃんは部屋を後にした。明後日、いったいどんな勅命が下されるんだろうか…考えてもしかたがない、今はとにかく休まないと。



勅命が出されると言われている日の朝、俺はシューちゃんのお父さんの馬車でペルシニム王国の入り口に到着した。
俺は馬車を下りると、馬車に乗っている男のほうへ足を進める。
「ありがとうございました」
「娘を助けてもらったんだ、それよりもがんばりなよ」
「はい、それでは」
俺はお辞儀をするとペルシニム王国の門へと足を向ける。
「ミキスさん!!」
 その時シューちゃんの声が城に行こうとする俺の足を止めた。
「また絶対に立ち寄ってくださいね!」
「ああ、絶対立ち寄るよ!」
 俺はそういうとシューちゃんに手を振り、再び城へと足を向けた。
門をくぐるとそこは賑やかで活気がある城下町。しかし俺は城下町なんて見向きもせず、急ぎ城へと向かって行った。
「間に合ったな」
急いできたおかげで城の門まで数分で着くことができた。大勢の人の声が聞こえるな、もう結構人が集まっているみたいだ。噂は本当か…立ち止まっているわけには行かないな。
「…よし」
俺は決意を胸に王宮の門へと入っていった。するとそこには数十人の人々が、声を張り上げ王の勅命を待っていた。
俺達一般人は王宮の門をくぐることは出来ても、城の中に入ることはできない。故にいつも俺達一般人は城の入り口と門との間で王の勅命を聞いているのだ。しかしシューちゃんの言っていたことは正しかったみたいだな、ここにいる奴らほとんどが旅人のようだ。いったいこれからどんな勅命が下されるっていうんだ。

【パッパラッパー!】

 トランペットがかき鳴らされ、その音が頃合になったころ王はベランダに姿を現した。
「みなの者、よく集まってくれた。これから旅の者だけに勅命を言い渡す」
旅人だけ…噂は本当だったようだな。
「これより旅の者はマグレス山脈に行き、パスレイスストーンを捕ってきて欲しい」
「なっ!?」
 マグレス山脈だと!?本気で言っているのか、マグレス山脈はモンスターが強すぎて誰一人帰ってこない未知の場所、一体何を考えているんだ国王は。
「しかしこの勅命には危険が伴っているであろう。よって成功した者には五千万ガルムと、城の警備の仕事に就かせたいと思う」
それ聞いた旅人達はざわつき始めた、「すげー!!」「五千万ガルムなんて一生かかっても手に入らないぞ」「それに城の警備の仕事をやってれば生活に困ることもないぜ!」欲が人の思考を鈍らせる。危険とわかっていても動いてしまう、このままじゃ…
「さあ旅の者達よ!必ずパスレイスストーンを採って参るのじゃ!!」
「うぉ――!!」
やっぱり、旅人全員行く気になってしまった。みんなわかっているのか?生きて帰ってきたものがいない場所なんだぞ?金に踊らされているだけだとなんで気付かないんだ!
だけど、パスレイスストーンとはいったい…

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