図書室
「…………」
一人
「…………」
ここは図書室。
僕の数少ない憩いの場。中学生のころからやっていたのだが、一つの本棚を決め、そこにある本をすべて読むのだ。基本的に知っている本がある場所を選ぶ。一つの本棚にあるということは基本的に同じジャンルの作品が固まっていることが多い。それなら基本的に楽しく読める。
まずは一番左上にある本から数えて三冊引っ張り出すとカウンターへと持って行く。全部読むまで一週間はかかるだろう。これが終わったら次の本棚へ移るのだ。
ちなみに僕は今日、初めて本を借りる。なぜならこの一週間は学校に慣れるためと借りるための図書カードができるまで少々時間がかかったからだ。
そして最大の理由は図書委員だ。
「あれー、撲君じゃん。何か借りるの?」
「…………これ」
「いやん、無愛想」
「……………」
超うるさい。
なぜこいつ、霞ヶ丘百合子が図書委員なのだ。
こんなに元気が有り余っているのなら、体育委員でもやってればいいのにと思うのだが、どういう訳かこんな地味な委員を選んだんだ。まぁ、実際口にして言ったりはしないがそんな思いでいっぱいだ。
彼女はてきぱきと仕事をこなしながら話しかけてくる。
器用な奴だ。
「私が図書委員って意外?」
「いや、別に」
嘘だ。意外だと思っている。
彼女は僕の嘘には気が付かず、話を続ける。
「友達には意外だって言われるんだ。まぁ、こんな元気がいい性格してるものねー」
「…………」
「でも実はねー、私って運動あまり得意じゃないんだ」
「へー」
それは驚きだった。
彼女は僕からの反応があったことに少し喜んだ顔を見せる。
「うん、体力は普通にあるんだけどいざスポーツとかなると、なぜかうまくいかないんだよね。ルールが絡むといまいちうまくいかないみたい」
「……それは」
「脳みそ筋肉でできてるのかもね、ハハハ」
「…………」
「あれ? 面白くなかった?」
「…………いや」
「表情筋が固まってるだけか」
あえて否定しないことにする。
話しながらもしっかりと仕事を終えた彼女は本を僕に手渡した。
「はい、返却は二週間後ね」
「ん」
少し頷いて受け取る。
一応感謝を示したのだが、伝わっているのかどうかはよくわからないが口には出さないことにする。口にすると何かまた絡まれると思ったからだ。急いで帰ろうとした。しかしそうは問屋が卸してくれない。
しゃべらなくても絡んできた。
「あれ、帰るの?」
「……そうだけど」
「もうちょっと話し相手になってよー」
「え……」
「え、って酷くない?」
「…………」
酷くない、と思うのは自分だけなのだろうか、そんなことはないと思うが。
僕はもう彼女のことを完全に無視してさっさと教室に戻ろうかと思った。しかし、ちらりと霞ヶ丘百合子の方を見るとなんだか捨てられた子猫のような眼をしてこっちを見ている。なんだか哀れな姿だ。
今までならほぼ間違いなく無視をしているが、状況が少し違う。
世界の終わりが相手では分が悪い。
はぁ、とため息をついて時計を見る。どうやら昼休みは後十五分も残ってない。
これでは教室に戻ってもまともに読むことはできないだろう。もういろいろとあきらめることにした。
僕は近くの椅子に座るとそこで本を開く。そしてと小さな声で言う。
「ここで読んでるから」
「?」
「しゃべりたければ勝手にすれば」
「あー」
霞ヶ丘百合子はニマーと嫌な笑みを浮かべるとこう言った。
「天邪鬼だねー」
「…………」
話を聞くだけありがたく思ってほしかった。
結局霞ヶ丘百合子が何を話していたかこれっぽちも覚えていないし、ほとんど聞いていないのは何となく察していただろうが、それでも彼女は普通に楽しそうだった。相当単純なのだなと呆れざるを得なかった。