2.「斉藤恵那」18/01/29~
斉藤恵那
”私の気が変わらないうちに、私の友達と、ある一つの出来事についてしたためます。”
私にはリンという親友がいます。
リンとは幼い頃からの付き合いで、初めて会った場所がどこか、たぶん幼稚園に通っていた頃に、私の方から「やあ」と声をかけて、リンが「うん」と応じたか、 親同士スーパーなんかで話してる間に「ねえねえ君は何してるの」と私が声をかけてみたふうに、そういうありふれた具合に顔見知りになったんだと思います。
私の住んでいる山梨の見延という町では、同じ年代は居ても、同い年の、それも一人っ子の女の子同士が近くに住んでいるというのはとても珍しいことなので、私たちはそれほど時間を置くことなく仲良くなっていきました。
私の名字が「さ」で、リンは「し」だったこともあって、小学生の頃はいつも私が振り返る立場でした。
リンは読書が好きな物静かな女の子で、私はどちらかといえば自由気ままマイペースな感じだったので、私の位置づけはお姉さんタイプ? そして、妹役のリンは小悪魔的で、クールぶってはいるんだけど結局最後は私にしてやられてちょっと悔しそうなのが、わはは、こいつめかわいいな、って、そんなふうに彼女をずっと眺めて続けていました。
高校生になった今でも、善き理解者として。
ep.1
「斉藤さんが言いたいのは、そのお友達のリンちゃんが、”なでしこ”なる、”幽霊”と、キャンプをしていると」
犬山さんは含み笑いもせず、私の言葉のひとつひとつを繋げて、私でも荒唐無稽だと思う物語を理解しようと試みています。
「うん、十月頃だったかな。リンは言うんだよ。本栖湖のキャンプ場でなでしこって子と出会ったって……十月だよ? しかも同じ学校の女の子なんだって。そんな時期に転校してきた子なんていないよって、リンに言ったら口も利いてくれなくなって」
「結構根深い問題なんやねえ」
犬山さんたちの野外活動サークルは、たまに校庭の落ち葉で焚き火をして暖を取っているらしい。焚き火の上では鉄製のケトルが三点のポールに吊るされて、沸騰するのを待っています。
「トライポッド言うんよ。斉藤さんもココア飲む?」
「ありがとう。こんな面白いものがあるんだね」
リンもこういう部活動に入って、仲間と楽しくわいわいやっていれば変な道に入ってしまうこともなかったのだろうか。そもそも、一人のキャンプなんかせずにいたら……。
冬の早くに暮れていく空をぼんやりと眺めながら物思いに耽っていると、隣で押し黙り続けていた大垣さんが「やっと思い出した――――!」と突然立ち上がって叫ぶと、「そいつしまりんだろ!」「あいつそんなことになってるのか!」「こじらせすぎだろ!」と続けて、犬山さんに「アキ、斉藤さんが驚くやろ」となだめられた手前、居処がわるくなったのかまたきちんと座り直し「わたしさ、あいつ知ってたわ。わたしも家族とキャンプをよくやってて、中学生の時に本栖湖で偶然しまりんと会ったんだよ、すごいよな、あいつのキャンプスタイル。自転車で本栖みちを駆け上って、一人でムーンライトの三人用のテント張って。尋常じゃないよ。それで、わたしは、ねえなにしてるの?って普通にしまりんに聞いてみたんだけど、普通にぷいって無視されたんだよ。きっとわたし嫌われてるんだろうな」
「いやいや、同世代の子に会いたくなかったんとちゃうかな。一人のキャンプを見られるのが嫌で」
「まあそれでもいいけどさあ、で、なんでそのしまりんのために、クリスマスキャンプしなくちゃならないんだ?いや、意味はわかってるよ」
そのなでしこという幽霊?は、キャンプ場にしか出ないからしまりんの実生活には影響がないらしいんじゃないの。それなのに、そのしまりんをどうかしたいって斉藤さんのエゴじゃないの。
「言い過ぎよアキ、どうせクリスマスも私たち暇やし、それにみんなで幽霊を成仏させるって、なんか昔見たドラマみたいで楽しそうやん」
犬山さんだけは真剣に考えているのだと信じていたら、私の悩みが結局ドラマの類にしか思っていないことが分かって、少しがっかりしました。
「私はただ、以前のリンに戻ってほしいだけだよ」
大垣さんは頭を掻いて言いました。
「頭のいい斉藤さんに言うのもアレなんだけどさぁ、人は悲しいぐらい変わっていく生き物なんだよ」
▼
ピンクの長髪を翻して、子犬のような人懐っこさと愛嬌と、溢れんばかりの元気さで、リンの元へとその「なでしこ」は駆け寄っていく。リンは普段私には見せないような柔らかい表情で、そのなでしこと話しているようでした。
リンがいつも私に向けてくれる視線は特別なものだろうし、なでしこに向けているものもまた、当然特別なものなだろうと思う。でも、赤の他人へ向けられるものはどうとでもいいと思えるのに、どうしてだろう、リンと、そのなでしこの関係性には、つい、やきもきしてします。
「志摩さん、なんか一人で食べさえあいしとるねえ、マシュマロかなあれ」
いつの間にかオペラグラスを手にした犬山さんと、その横に大垣さんがいました。
「私たちはさっき来たとこ。斉藤さん、なんだかかわいい犬を抱えてるね」
「この子の名前はチワワのちくわって言うんだ……って、うわっ」
私の手をすり抜けてちくわは、勢い良く一直線にリンのテントの元へと向かって、私はそれがリンと何か言葉を交わす契機になるのだろうという予感に満ちて、胸が疼いて。
「あらら、行っちゃった」
私はやれやれと二人に向き直して、どうしようといたずらっぽく演技しました。
「追いかけていったほうがええんちゃう?」
まあそうだよね。
「しまりんと最近話してないんだろ?いい機会なんだから、二人、いや三人で話してみれば?」
それもそうなのかな。
二人の言葉に背中を押し出される形でとぼとぼとリンのテントへと歩き出しました。
目の前からちくわを抱きかかえたリンもやってきて、これは私も想像してなかった展開で、でも急ごしらえの取り澄ました顔で「やあ」と精一杯声をかけます。
「ちくわ、こっちに来てたよ」「そうだったんだ」「クリスマスキャンプ」「え?」「誘ってくれてありがとう」「うん」「私は大丈夫だから」いや、なにが。「大丈夫って、私はリンが心配だよ。だってそうでしょ?一人になった時に、子供がおままごとをするみたいに、見えないものとやり取りするなんて」「見てたんだ」「電車の中で電話をする人っているでしょ?電話をしてるって気づかなかったらまるで違う世界の話を呟いてるようで、私ぞっとするんだ。今、リンを見てるとそういう気分になる」「斉藤はいつも私のことが気になるんだね……、斉藤には分かってもらえないかもしれないけど、なでしこは……いい子だから。本当に心配いらないんだよ」
リンの抱えていたちくわが腕の中で暴れて勢い良く地面に着地して、私の膝下に擦り寄ってきました。
「斉藤のやりたいことは分かる」
踵を犬山さんや大垣さんの方へと足を進めて、
「私の中にある、なでしこを消したいんでしょ。させないよ、そんなこと」
そう言いのけたので、私は彼女の後ろを黙ってついていくしか他ありません。
大垣さん達と合流したあとに、クリスマスキャンプは和やかに執り行われました。犬山さんが懸賞で当てた高級なお肉が、すき焼きとして振る舞われ、トマトすき焼き、そこにパスタを入れたチーズパスタへと変貌していく様には「もうお腹いっぱいくーえーん」と、お腹の幸福に身悶えます。久しぶりに見たリンの笑顔にも、私は少なからずの安心を覚えました。これで、また、昔のように笑い合える日々が来ればいいのに。
「斉藤さん、なでしこちゃんが消えちゃう感じ、ある?」
犬山さんがリンの目を盗んで密かに聞いてきますが、どう変化したらそれが”いなくなった”と判断するのか、私にも正直わかりませんでした。
「うーん、どうだろうねえ……」
すると突然、リンがすくと立ち上がり、「斉藤、まだすき焼きの割り下ある?」と尋ねてきました。
「あるけど――、どうするの?」
「なでしこが朝食に使いたいからって。ボンベも無くなったから、私、コンビニで買ってくるよ」
何気のないその一言に、ああ、私はリンの孤独を私は埋められなかったんだな、と思うと、バイクの方へと歩いていくリンの姿が、私と今のリンの距離を表象しているように思えてなりません。
「斉藤さん、家族の人が来とるよ、ちくわちゃん連れて帰るんだって」
「小型犬は寒さに弱いからね」
「なあ斉藤、どうやら残念だったようだけど、やることはやったしさ。また違う関わり方でリンと、やっていけばいいんじゃないかな」
大垣さんがちくわを拾い上げると、慰めの言葉と共に私にちくわを差し出しました。「うん。そうする」今は本当にそうするしかありません。どんなに厄介な状態でも、私はリンを守るナイトでなければならないのです。
やってきたパパに、眠ったちくわを差し出そうと手を伸ばした時に、車のライトに当たって眩しかったのか、急に体をもぞもぞさせて、手ずから逃げ出してしまいました。
私は追っていきます。
車の前照灯が灯す光源の先へ、先へ、その明かりの射し込む末端の、これ以上は闇の中というところまでやってきて、ちくわは振り返ります。
「えへへ、かわいいお犬さんだね」
黒い塊がむくと立ち上がると、私の方へと歩みより、徐々に輪郭を持ち始めました。
「どうしたの?恵那ちゃん?」
それは、私の下の名前を呼びます。まるで昔から見知った仲のように。
だから私は、こう返すしかありません。
「なでしこちゃん?」
▼
私にはリンという親友がいます。
リンとは幼い頃からの付き合いで、初めて会った場所がどこか、たぶん幼稚園に通っていた頃に、私の方から「やあ」と声をかけて、リンが「うん」と応じたか、 親同士スーパーなんかで話してる間に「ねえねえ君は何してるの」と私が声をかけてみたふうに、そういうありふれた具合に顔見知りになったんだと思います。
私の住んでいる山梨の見延という町では、同じ年代は居ても、同い年の、それも一人っ子の女の子同士が近くに住んでいるというのはとても珍しいことなので、私たちはそれほど時間を置くことなく仲良くなっていきました。
私の名字が「さ」で、リンは「し」だったこともあって、小学生の頃はいつも私が振り返る立場でした。
リンは読書が好きな物静かな女の子で、私はどちらかといえば自由気ままマイペースな感じだったので、私の位置づけはお姉さんタイプ? そして、妹役のリンは小悪魔的で、クールぶってはいるんだけど結局最後は私にしてやられてちょっと悔しそうなのが、わはは、こいつめかわいいな、って、そんなふうに彼女をずっと眺めて続けていました。
高校生になった今でも、善き理解者として。
ep.1
「斉藤さんが言いたいのは、そのお友達のリンちゃんが、”なでしこ”なる、”幽霊”と、キャンプをしていると」
犬山さんは含み笑いもせず、私の言葉のひとつひとつを繋げて、私でも荒唐無稽だと思う物語を理解しようと試みています。
「うん、十月頃だったかな。リンは言うんだよ。本栖湖のキャンプ場でなでしこって子と出会ったって……十月だよ? しかも同じ学校の女の子なんだって。そんな時期に転校してきた子なんていないよって、リンに言ったら口も利いてくれなくなって」
「結構根深い問題なんやねえ」
犬山さんたちの野外活動サークルは、たまに校庭の落ち葉で焚き火をして暖を取っているらしい。焚き火の上では鉄製のケトルが三点のポールに吊るされて、沸騰するのを待っています。
「トライポッド言うんよ。斉藤さんもココア飲む?」
「ありがとう。こんな面白いものがあるんだね」
リンもこういう部活動に入って、仲間と楽しくわいわいやっていれば変な道に入ってしまうこともなかったのだろうか。そもそも、一人のキャンプなんかせずにいたら……。
冬の早くに暮れていく空をぼんやりと眺めながら物思いに耽っていると、隣で押し黙り続けていた大垣さんが「やっと思い出した――――!」と突然立ち上がって叫ぶと、「そいつしまりんだろ!」「あいつそんなことになってるのか!」「こじらせすぎだろ!」と続けて、犬山さんに「アキ、斉藤さんが驚くやろ」となだめられた手前、居処がわるくなったのかまたきちんと座り直し「わたしさ、あいつ知ってたわ。わたしも家族とキャンプをよくやってて、中学生の時に本栖湖で偶然しまりんと会ったんだよ、すごいよな、あいつのキャンプスタイル。自転車で本栖みちを駆け上って、一人でムーンライトの三人用のテント張って。尋常じゃないよ。それで、わたしは、ねえなにしてるの?って普通にしまりんに聞いてみたんだけど、普通にぷいって無視されたんだよ。きっとわたし嫌われてるんだろうな」
「いやいや、同世代の子に会いたくなかったんとちゃうかな。一人のキャンプを見られるのが嫌で」
「まあそれでもいいけどさあ、で、なんでそのしまりんのために、クリスマスキャンプしなくちゃならないんだ?いや、意味はわかってるよ」
そのなでしこという幽霊?は、キャンプ場にしか出ないからしまりんの実生活には影響がないらしいんじゃないの。それなのに、そのしまりんをどうかしたいって斉藤さんのエゴじゃないの。
「言い過ぎよアキ、どうせクリスマスも私たち暇やし、それにみんなで幽霊を成仏させるって、なんか昔見たドラマみたいで楽しそうやん」
犬山さんだけは真剣に考えているのだと信じていたら、私の悩みが結局ドラマの類にしか思っていないことが分かって、少しがっかりしました。
「私はただ、以前のリンに戻ってほしいだけだよ」
大垣さんは頭を掻いて言いました。
「頭のいい斉藤さんに言うのもアレなんだけどさぁ、人は悲しいぐらい変わっていく生き物なんだよ」
▼
ピンクの長髪を翻して、子犬のような人懐っこさと愛嬌と、溢れんばかりの元気さで、リンの元へとその「なでしこ」は駆け寄っていく。リンは普段私には見せないような柔らかい表情で、そのなでしこと話しているようでした。
リンがいつも私に向けてくれる視線は特別なものだろうし、なでしこに向けているものもまた、当然特別なものなだろうと思う。でも、赤の他人へ向けられるものはどうとでもいいと思えるのに、どうしてだろう、リンと、そのなでしこの関係性には、つい、やきもきしてします。
「志摩さん、なんか一人で食べさえあいしとるねえ、マシュマロかなあれ」
いつの間にかオペラグラスを手にした犬山さんと、その横に大垣さんがいました。
「私たちはさっき来たとこ。斉藤さん、なんだかかわいい犬を抱えてるね」
「この子の名前はチワワのちくわって言うんだ……って、うわっ」
私の手をすり抜けてちくわは、勢い良く一直線にリンのテントの元へと向かって、私はそれがリンと何か言葉を交わす契機になるのだろうという予感に満ちて、胸が疼いて。
「あらら、行っちゃった」
私はやれやれと二人に向き直して、どうしようといたずらっぽく演技しました。
「追いかけていったほうがええんちゃう?」
まあそうだよね。
「しまりんと最近話してないんだろ?いい機会なんだから、二人、いや三人で話してみれば?」
それもそうなのかな。
二人の言葉に背中を押し出される形でとぼとぼとリンのテントへと歩き出しました。
目の前からちくわを抱きかかえたリンもやってきて、これは私も想像してなかった展開で、でも急ごしらえの取り澄ました顔で「やあ」と精一杯声をかけます。
「ちくわ、こっちに来てたよ」「そうだったんだ」「クリスマスキャンプ」「え?」「誘ってくれてありがとう」「うん」「私は大丈夫だから」いや、なにが。「大丈夫って、私はリンが心配だよ。だってそうでしょ?一人になった時に、子供がおままごとをするみたいに、見えないものとやり取りするなんて」「見てたんだ」「電車の中で電話をする人っているでしょ?電話をしてるって気づかなかったらまるで違う世界の話を呟いてるようで、私ぞっとするんだ。今、リンを見てるとそういう気分になる」「斉藤はいつも私のことが気になるんだね……、斉藤には分かってもらえないかもしれないけど、なでしこは……いい子だから。本当に心配いらないんだよ」
リンの抱えていたちくわが腕の中で暴れて勢い良く地面に着地して、私の膝下に擦り寄ってきました。
「斉藤のやりたいことは分かる」
踵を犬山さんや大垣さんの方へと足を進めて、
「私の中にある、なでしこを消したいんでしょ。させないよ、そんなこと」
そう言いのけたので、私は彼女の後ろを黙ってついていくしか他ありません。
大垣さん達と合流したあとに、クリスマスキャンプは和やかに執り行われました。犬山さんが懸賞で当てた高級なお肉が、すき焼きとして振る舞われ、トマトすき焼き、そこにパスタを入れたチーズパスタへと変貌していく様には「もうお腹いっぱいくーえーん」と、お腹の幸福に身悶えます。久しぶりに見たリンの笑顔にも、私は少なからずの安心を覚えました。これで、また、昔のように笑い合える日々が来ればいいのに。
「斉藤さん、なでしこちゃんが消えちゃう感じ、ある?」
犬山さんがリンの目を盗んで密かに聞いてきますが、どう変化したらそれが”いなくなった”と判断するのか、私にも正直わかりませんでした。
「うーん、どうだろうねえ……」
すると突然、リンがすくと立ち上がり、「斉藤、まだすき焼きの割り下ある?」と尋ねてきました。
「あるけど――、どうするの?」
「なでしこが朝食に使いたいからって。ボンベも無くなったから、私、コンビニで買ってくるよ」
何気のないその一言に、ああ、私はリンの孤独を私は埋められなかったんだな、と思うと、バイクの方へと歩いていくリンの姿が、私と今のリンの距離を表象しているように思えてなりません。
「斉藤さん、家族の人が来とるよ、ちくわちゃん連れて帰るんだって」
「小型犬は寒さに弱いからね」
「なあ斉藤、どうやら残念だったようだけど、やることはやったしさ。また違う関わり方でリンと、やっていけばいいんじゃないかな」
大垣さんがちくわを拾い上げると、慰めの言葉と共に私にちくわを差し出しました。「うん。そうする」今は本当にそうするしかありません。どんなに厄介な状態でも、私はリンを守るナイトでなければならないのです。
やってきたパパに、眠ったちくわを差し出そうと手を伸ばした時に、車のライトに当たって眩しかったのか、急に体をもぞもぞさせて、手ずから逃げ出してしまいました。
私は追っていきます。
車の前照灯が灯す光源の先へ、先へ、その明かりの射し込む末端の、これ以上は闇の中というところまでやってきて、ちくわは振り返ります。
「えへへ、かわいいお犬さんだね」
黒い塊がむくと立ち上がると、私の方へと歩みより、徐々に輪郭を持ち始めました。
「どうしたの?恵那ちゃん?」
それは、私の下の名前を呼びます。まるで昔から見知った仲のように。
だから私は、こう返すしかありません。
「なでしこちゃん?」
▼