エフ氏は休日の朝は特注のコーヒー豆をお気に入りのミルで曳(ひ)き、一時の静寂を愉(たの)しむこととしている。
まったりと薬缶(やかん)の湯を注いでいると玄関の呼び鈴が急な来訪者を告げた。
「やれやれどうやらドアノブに高圧電流をかけた方がよさそうだ」
そう嘯(うそぶ)くと難儀に重い腰を上げエフ氏は玄関の扉を開いた。
すると妙齢の女性がエフ氏の正面に直立不動の姿勢で立っているのである。
「イカし屋ですのよ」
気づいたときには遅きに失した、もはやエフ氏は女の腕(かいな)に抱かれていたのであるから。
「ボッコ!」
エフ氏の早朝のコーヒーにミルクが添えられたことは言うまでもない。
‐日本沈没‐