悪の清掃活動
午前7時40分。ガオー、ガオー……と目覚ましが鳴り、私は目覚める。
「う~ん……」
私のベッドは、窓際に配置されている。この配置だと常に布団を干していることになる。手間が省けるのだ。
「いい空だ。今日もよく晴れそうだな」
私は黒マントを纏い、部屋を出る。
何しろ、私は多忙である。それこそ、布団を干す暇さえないほどに――
「偉大なるエコロンガー総統に敬礼ッッ!!」
頼んだわけではないが、毎朝、幹部の号令で部下達が一斉に敬礼してくる。無為な時間だ。こうしている暇があるのなら、少しでも多く自分の為すべきことを為せと言いたい。しかし、彼等も私を思ってこうしている。それなのに、敬われる側の私がどうしてそのようなことを言えようか? 結果として、私は甘んじて受け入れているのだ。
短い挨拶をするため、私は登壇する。
「皆、お早う。よく眠れたか? 本日も晴天也。一生懸命働こうではないか」
短い挨拶を終えた。私は降壇する。
今日の作業は、過酷であろう。
部下達にきちんと水分補給させるために、私はコンビニエンスストアに赴いた。
分かる。入った瞬間感じる、違和感。
店の警戒レベルがはね上がった。店員も態度には表していないものの、明らかだ。
寂しさを微塵も感じないと言えば嘘になる。寂しさはある。しかし、仕方ないと思うし、構わないとも思う。瑣末なことだ、と何度も反芻した。そう、瑣末なことだ。我々の目的には、何ら影響しない事柄だ。
販売拒否などされはしない限りは、あくまでも瑣末なことだと通していく。この日、私はこの店の飲料全てを購入した。
支配とは、どのようなものなのだろうか?
実際に〝支配〟する立場になった今でも、答えは浮かんでこない。高圧的な態度で支配される側を虐げることのみが支配の形ではあるまい。だがしかし、共存共栄を望むということ自体が、本来の支配とは異なる思想なのではないか?
結論など出ないまま、私は私の信条を通している。
生物が生物として生きるには、この星はあまりにも汚染されすぎている。それを個人の力で変えようと活動してきた。ほんの数年前のことだ。しかし、私個人の力は極めて脆弱で、政府レベルの考えを修正することなど、夢のまた夢という状況だった。忘れもしない、あの鮮烈な瞬間を迎えるまでは――
皮肉にも、私が今の力を手に入れるきっかけとなったのは、人間が生み出した大量の産業廃棄物だった。何よりも憎む、不法廃棄物という存在。その怒りが、私というモノの構造を根本から入れ替えていった。
だが、不思議なものである。今では、人間への憎しみなど、消えてしまった。私自身が人間ではなくなってしまったからだろうか。いや、恐らくは違う。人間など、他者など、もはや関係ない。
私は、この星を救いたい――その思いが、何にも勝っているだけだ。それゆえに、私は全ての部下に清掃活動をさせている。
本部のある日本では8万の部下が。
北アメリカでは15万人。
EU圏では6万人。
そして、日本を除くアジア圏では40万人を割いている。中国が一番環境に対してルーズであるからだ。
世界を征服することは、容易かった。少なくとも、この星を救うことよりも遥かに容易かった……
この戦いに終わりは見えない。ただ、一つだけ確かなことがある。
屈した時こそ、負けなのだ。