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感受性

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流れる日々は止まらない。
俺は主人公ではなく、じゃあ誰が主人公なのかと言われればそんな人間はいないのだろうけど、少なくともここまでの歴史上数多の人間が生まれてきたのだから、戦国時代の武将なんかは主人公みたいな人生を送ったのかもしれない。
人生の最後が負けなのが多い気もするが、物語の主人公は最期が描かれないのが多いし、案外ほとんど負けて死んでるのかも。
少なくとも完全な安全を手に入れてないタイプの作品だと、その可能性は高いだろうな。

現代でも芸能界あたりのトップ層はわりと主人公ではないか。流行りのミュージシャンはどうだろう。案外ふつうで面白みがない話なのか。
俺は主人公ではないが不思議なことは起こっている。両親は死んだし、変な女は送られてくるし。だが、俺は普通の人なのでそれ以上のことは起こらない。これで打ち止めだ。ここまでの舞台でも結局は俺の人生は俺のレベル以上のことが起こらないし、展開されないのだ。
もし彼女という『プレゼント』も、別の、主人公みたいな人間の元に起こってたら、もっと面白い感じになったのか。
別の人間に、主人公に……。

彼女と生活して2年が過ぎた。あと一年か。
彼女の方を見る。彼女はこちらを見て微笑んだ。
あれ以降何も起こらなかった。
少しばかり外に出ようと心がけたが、やはりどうにもならず、彼女も共に侍らせ外に連れ出し、なんとか散歩くらいはと思ったのだが、日光が俺を照らすのが何かの罰を思案している視線のようでどうにも落ち着かないのだった。

彼女と暮らして2年になるが、まともに『暮らしている』というと、やはりこの一年だろう。
誰か一人いるだけでも違うものだと改めて思った。それが偽物の人間でも。
だいたい引きこもっているとやることなんて限られて、また繰り返しになっていく。
ゲームなどをしたり配信サイトで映画を見たり、そういったことをしているとすぐに時間が経つのでご飯を食べてまた好きなように過ごし、眠くなったら寝て、たまに性欲がたまれば彼女と寝ればいい。それだけだ。
それだけの人生だ。

光がないのがわかると暴力的な欲望が湧いてくるが、彼女の笑顔を見ると今殴れば彼女はトラウマで壊れてしまうのではないかと心配になりやめてしまう。彼女曰く壊れることはできないみたいでそのギリギリを保ち続けるらしいが、また、かの時のように俺に危害を加えられてはもう二度と立ち直ることはできないだろう。
俺の中で彼女の存在、というより一人ではないという状況が当たり前になり、また一人での生活になれば寂しさを抑え切れなくなるだろうという恐怖もあって、手が出せないまま何とか堪えている。

彼女はそういう俺の精神状態に気付いているようで、よく抱きついたりキスをしたり体を求めてきたりする。彼女はもともと俺を慰めるためにあのフードの人間?じゃないよな、まぁそのあいつが連れてきたものでそういった媚びのようなものに長けているらしい。彼女自体その具合も完璧に近く作られてるらしくまたこちらの気分を高めるためか、かなり感度が良く、快感には弱いという。
殴られても回復するが頭の中に残ったものについては特に破棄する手段がないらしく、未だにふとした瞬間に与えられた刺激が蘇ってくるらしい。

なので彼女を受け入れた頃の最初は、切り刻まれたり殴られたりする記憶が蘇り、例の発狂ギリギリまで追い詰められることが多々あったが、最近はむしろ抱かれることが多くなったので行為中のことを思い出し発情するようになったとのことだ。
彼女から俺を求めることは許されてないらしく(おそらくフードに)、俺がその気になるまで彼女は抱きついたり、もしくは押し倒すぐらいまではできるだろうが俺を本気で犯そうとしたり、夜寝てる隙に襲うとかそういう事はできない。
そういった関係もあって送られてきた時よりも彼女の意思の分、媚びが半端ではなくなっているのだ。
俺はもちろん特に止める必要もないので求められれば使うようにしてるが、彼女の感度は日に日に上がっていくようでこちらが一度達するまでに30か40は絶頂している。彼女はなるべく迷惑をかけないようにか、声を押し殺しているが10回を超えてからは限界らしく腕を強くこちらの体に絡めてひっつきながら呼吸が止まらないよう喘いでいる。彼女自身強く自制しようとする心が働くらしく、歯を食いしばるがそのせいでうううと唸るような喘ぎ声になるようだ。しかし美少女が限界を超えて連続で絶頂に達しながら呻き声を上げて涙目でしがみついてくるというのは特に悪い気はしないので、俺は特に気にせず使っている。
彼女曰く気持ちがいい場合も失神は出来ないらしく、酸素が脳に達してない状態で快感を与えられると脳は苦痛を和らげるため麻薬などに近い快楽物質をドバドバと垂れ流し、感度が上がった性感帯からは直接的な快楽が差すように与えられてくるので、イメージでは快楽のソースに脳味噌をそのままドップリと漬けながら鋭い串でグサグサと刺されるような感じだと、我慢ができないように股間へと手を当てこちらへ懇願するように話した。
彼女はもう制御できない堕落人形になっていた。
これはどうしようのないことだが、俺はそれにたまらなくイラついた。

俺が彼女を殴ったのはちょうど二周期を迎えて2ヶ月ほどたった頃の話だ。
どうしようもなく快楽を保てない彼女を静止させるため、また警告の意味も込めてお腹の辺り、ちょうど子宮の辺りを軽くだが殴ったのだ。
すると彼女は一瞬ビクッと激しく振動したと思ったら突然言葉にならない言葉で奇声をあげ床をのたうちまわった。
今まで色んなことをしたが、ここまで『壊れた』反応をしたことはない。酷い拷問をしていたときでさえ彼女は泣き叫びこそしたものの、その発言内容はきちんとした日本語での懇願だった。
床をのたうちまわった彼女は目を見開きながら『えうるうれえへらわ』
無理やり書き起こすならこんな感じのことを言っていた。
呼吸は荒いがハッハッと落ち着けるような仕方だ。彼女はこちらに視線を向け、俺もそれに合わせる形で向けると目が合った。
その瞬間またビクンと体が跳ね「ぎゅううううう」と彼女が叫んだ。おそらく舌をうまく操れてないのだろう。喉の奥に詰まるようにして声を上げた結果、そのような叫び声になったのだ。彼女はそれを何度か繰り返したあと、こちらを見てひどく怯えた様子でごめんなさいと告げた。やっと言葉が話せるようになったみたいだ。

彼女からその後ゆっくり話を聞いてみると、どうやら殴られた瞬間、脳味噌に電流のようなものが走り、昔受けた拷問の記憶が一瞬で蘇って、その記憶の呼び出しに引きずられるようにして雪崩のように今まで受けてきた快楽がいっぺんに脳味噌に行き渡り、しばらくの間脳味噌の隅々まで犯され続けたようだ。その快感を例えるならば、脳味噌をそのまま雑巾のように絞って中身が何も出なくなるまで強く何度も何度も捻られ繰り返されるような快感らしく、今までで一番強い刺激だったとの事で言葉を発する余裕すらなく、その脳に与えられる反応に耐え受け流すので精一杯だったらしい。

俺はそんな彼女を落ち着けるとその体験談により少しムラっと来ていたので、彼女を抱いた。既に常時発情で固定されている彼女は最近相手にしない俺とできることに喜びがあったらしく、あんなことがあったのにノリノリで受け入れ始めた。準備をし、入れた瞬間いつものように彼女の体が弱く跳ねた。しかしどうやら様子がおかしく体は不気味なほど振動しているのに絶頂には達することが出来ずにいるようだ。俺はもう限界だったので心配をするのはそこでやめ挿入を続けた。出し入れするたびに彼女は喘ぎ、自ら一番の性感帯を擦り続けるがどうしてもイケないらしい。
瞳には涙が浮かび顔は焦りと絶望で濁っていた。俺が終わった後もしばらく彼女は自慰を続けていたが達することはできなかったらしく俺に土下座で暴力を頼んできた。一度出した後だし、乗り気ではないのは確かだが、彼女が困っているのならそれを助けたい気持ちの方が強く、軽く殴ったり蹴ったり踏んづけたりもしたがどうしてもいけないらしい。
そこで俺は少し考えて『あれ』を持ってくることにした。彼女を痛めつけるのに使ったプラスチック製のバットだ。もう折れて使えなくなったが血がついていたり、そもそもどうやって捨てるのかが分からなくて仕舞っておいたのだ。
彼女はそれを見た瞬間軽くイッたらしく、歯を食いしばる口元からは唾液がだらしなく流れていた。
恐怖にも似た感情で固まっている見開いた目からは先ほどまで絶え間なく溢れていた絶頂できないが故の苦悶の涙が、頬で固まっていた。目元にはまた新しい涙が潤って溜まっている。俺はもう千切れそうで先の方がブラブラ揺れているバットを彼女の目の前に持っていくと「寝ろ」と言い放った。
素っ裸で床に寝そべる彼女に、俺はそのバットを振り下ろすでもなくそっと、お腹にトンと置いた。
その瞬間彼女は恐ろしく蠱惑的な顔で絶頂へと達した。彼女の顔は快楽に歪んでいたが、元がかなりの美形なのでそのみっともなさが逆に欲情を誘った。俺は揺れる彼女の体に挿入すると、彼女はイってる最中だからか、それに上乗せする形で快楽を増強させているらしい。一度この状態に入るとセックスでも感じることができるというわけだ。ただ実際は上乗せではなく倍々へとなっていたというのだが。恐ろしいほどの快楽を受け、しかし脳はその快楽を処理するのに全ての機能を使っているらしく、体は無意識の部分で筋肉が反応してビクンビクンと跳ねるだけで暴れたりの抵抗を受けることはなかった。『できなかった』と言い換えてもいい。

それ以降彼女はバットでもいけなくなった。さらにその後、いくらセックスをしてもイケない焦燥感に苛まれ、彼女はいよいよ狂いそうに見えた。ただ俺にはひとつだけ最後の手段の心当たりがあった。俺は最後に彼女へ使ったあのナイフの話をした。彼女はナイフという単語を聞いただけで軽く体を揺らした。俺はその隙に彼女へ挿入したが軽い絶頂だけでまだ本命の不満はあるようだ。俺は彼女と繋がったまま、別に今すぐに使ってもいいが……と話を振ると、彼女は必死に縋るようそれを求めたが、それを気にせずもう一つの案を語った。
それは彼女が消える三年目のギリギリに使うと言うことだ。つまり後数ヶ月後、その時に最後に使うことで安心していけるのではないかと。彼女はその提案に絶望を感じた。表情で全てわかる。ただでさえ既に限界なのに、ここから後数ヶ月は焦らされ続けるのだ。しかし、今使ってしまえば間違いなくもう昔の記憶を呼び覚ますものがなくなり、二度といけないままこの焦燥を抱えた状態でこの世から消えるのだ。それはあんまりだと思った。そんなことになれば耐えられない。しかし自分は耐えてしまうのだ。現に今も普通なら耐えられないこの疼きに正気のまま耐えてしまっている。絶望だった。終わってしまいたかった。ここでナイフを使って狂ってしまいたかったがそれはできない。自分なら耐えてしまうだろう。そして数ヶ月後に狂いそうになる性欲に苛まれたまま消えるのだ。それはいやだ。でも苦しい。イキたい。でも……

俺は伝えた。今使うか最後に使うかだ。
それ以外では途中、何があっても使わせない。
せっかくここで耐えたのに最後の前に使ってしまってはもったいないだろう。だから今決めるんだ。今、確実に……

彼女は決心した。決断したのだ。自らの人生?に。
彼女は最後に使うことにした。最後の希望にかけたのだ。もちろんナイフを使ってもイけない可能性についても話した。無駄な希望である可能性を。しかしそれなら今使ってもどうせイけないのだし、絶望のまま生きるより最後の希望を信じて生きたいと。
言葉だけ見ればポジティブだが彼女はそれを泣きじゃくりながら、自らの性器をいじくりまわしながら伝えた。狂えないことの弊害か。まともな選択をしてしまいそれが狂いかけた脳を自らが苛めるのだ。
彼女が自慰に耽っている間、俺は彼女を特に気にせず生活した。一人の生活に戻ったようだがすぐそこに最悪に苦しむ者がいるだけで気持ちは違った。たまにちょっかいをかける。

直接性的なことをするより、耳を撫でたり背中をツーッと指で這わすと彼女はハッとしたようにこちらを見つめる。涙目になり必死に見つめる。おそらく睨みつけてるのだろうが、絶望の淵にいる彼女は必然的にこちらに懇願する形になる。
目を細め、なおこちらに媚びた態度で不満を訴えてくる彼女のことを、俺は初めて心から、顔の形ではなく可愛いのかもしれないと思えた。
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