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ゆうしゃとかいぶつ


 もういいかげん2007ねんだというのに、〝しちょうそんがっぺい〟のなみをのがれたこのむらでは、こわいこわいおにのはなしでもちきりでした。
「たいへんだ、たいへんだ。きのうは25にんころされた。けいさつとれんけいして、おにをたおさなければ!」
 おとなたちはあわてふためきましたが、おにをたおそうなどというゆうきというなのじさつがんぼうのつよいものはだれもいませんでした。
 そんなときです。でんおうべるとをこしにまいたおとこのこと、あしたのなーじゃのくつをはいたおんなのこがたちあがったのです。
「おになんてこわくないよ! ぼくがでんおうのちからでおにをたおしてくる」
「おになんてこわくないわ! わたしがなーじゃのちからでおにをせっとくしてくるわ」
 ふたりは、いきようようとむらをでていきました。そんなようすを、おとなたちはただぽかんとみているだけでした。
 やがて、さめたおとなたちがちりぢりになっていくころ、そこにまぎれたくろいぬのをまいたこどもがこうつぶやきました。
「だれもきづかない。どちらかは、かいぶつなのに」


 おとこのことおんなのこは、ゆくてをさえぎるざこをけちらしながらすすんでいきました。おとこのこのでんおうぱわーとおんなのこのばいたぱわーで、めざすはおにのすむやまのてっぺんです。
 そんなふたりのめのまえに、あたまにくろいぬのをまいたこどもがあらわれました。ところがどうしたことでしょう。あらわれたとたんにたおれてしまいました。
 ふたりはばんだなこぞうをかいほうしました。どうやら、かるいねっちゅうしょうのようでした。
「くろいぬのなんかまいてるからそうなるんだ」
 おとこのこはめんどうくさそうにいいました。
「はやくいきましょう。あしでまといにかまっているひまはないわ」
 おんなのこはつよいくちょうでいいました。
 ふたりがせをむけたしゅんかん、ばんだなこぞうははいごからふたりにやをはなちました。おとこのこはてでやをはらいのけ、おんなのこはひろいんおーらでごういんにやのきどうをかえました。
「たすけてくれてありがとう。またあおう」
 ばんだなこぞうはきにとびうつり、そのままさっていきました。ねっちゅうしょうだなんてうそだったのです。


 なにしろちいさいやまでしたので、ふたりはあっというまにおにのすみかにたどりつきました。ふたりのなんじゅうばいもおおきいおにが、ぎょろりとしためでみおろしてきました。
 おんなのこは、ふるえるこえでなおきじょうにいいました。
「あ、あなたなんてこわくないわ。たくさんひとをころして!」
 おとこのこは、なにもいいませんでした。
「ひとなんてまめつぶだ」
 おには、それだけいいました。そして、みぎうでをおもいきりふりおろしました。
「こうやって、つぶしてあそんでるだけだ!」
 ては、いっちょくせんにおんなのこのほうへむかっていきました。
「…………う~ん……」
 どれほどじかんがすぎたことでしょう。おんなのこはめをさましました。
「ここは、どこなのかしら? まさか、てんごく……」
 なんのことはありません。そこはいぜんとかわらずおにのすみかです。おんなのこはいちじてきにさくらんしていてまわりがおはなばたけにみえていたのです。
「あ!」
 おには、たおれていました。そして、おとこのこも。かたわらには、ひしゃげたでんおうべるとがおちていました。
 そして、ひとりたっていたのは、あのばんだなこぞうだったのでおんなのこはおどろきました。おんなのこはもうわけがわからなくなっていたので、それをみてとったばんだなこぞうがせつめいをしました。
「おにはきみをきぜつさせたあと、このおとこのこをねらったんだ。そして、このこはアクマのちからをはつどうさせて、おにをころした。アクマのちからをつかったあと、いっしゅんだけすきができていたので、そのあいだにぼくがこのこのくびをきった」
 アクマのちから。おんなのこは、やっぱりわけがわかりませんでした。
「おにはもし生きていれば、このあともなんびゃくというひとをころしただろう。だけど、このこはまだめざめていなかっただけで、めざめてしまえばこのにほんをほうかいさせてしまうほどのちからをひめていた――かいぶつだったのさ」


 おとこのこはおにをころし、ばんだなこぞうは、かいぶつだったおとこのこをころしました。
 かえりみち、ばんだなこぞうはいいました。
「かいぶつをころしたぼくが、つぎのかいぶつだ」
 おんなのこはなにもいいませんでした。ばんだなこぞうはつづけます。
「だから……きみには、ぼくをころしてほしいんだ。どんなほうほうでもいい。くびをきってもいいし、いしでなぐりころしても、きのえだにくびつりさせても、かわでできしさせても、なんでもいい。むらにつくまでにぼくを、ころしてくれ」
 おんなのこはなにもいわず、はやあるきしました。
「まってくれ! ぼくを――」
 きゅうにたちどまり、おんなのこはきっとばんだなこぞうをにらみつけました。そしてくりだされたびんたはちょうどかけだしたところのばんだなこぞうのほおにかうんたーでくりてぃかるひっとしました。
 たおれたばんだなこぞうに、おんなのこはなみだごえでいいました。
「かいぶつがいきてて、なにがわるいのよ?」
 ばんだなこぞうは、ぽかんとしていました。おんなのこはふたたびせをむけて、つづけました。
「…それに……あんたをころしたら、こんどはわたしがかいぶつになっちゃうじゃない……」


 ふたりはむらにもどりました。おとなたちには、おとこのこはおにとあいうちでしんだということにしてなっとくさせました。ふたりの、はかばまでもっていくたったひとつのうそです。
 それからどんどんじかんはすぎて、2020ねんごろには、ばんだなこぞうはばんだなをとり、りっぱなおとなになってまちにこしていきました。おんなのこはむらにのこり、2023ねんにできちゃったこんをしました。
 いまのところ、にほんがほろびるなどといううわさはながれていません。
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