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「Pellicule」不可思議wonderboy、神門

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動画はこちら
https://youtu.be/ueq2QFIIpu0
路上ライブ版
https://youtu.be/54RRQzbF-uY
神門版
https://youtu.be/fwr90sbF9Yk


 人はいなくなる。
 定年で。病気で。行方くらませて。引っ越して。亡くなって。
 同僚が一人職場を定年退職した。その独特な散らかり方をした後頭部の髪の毛を、今の職場で働く前から知っていた。移転前の工場と、私が二十歳過ぎから働いていたゲームセンターは近くにあり、帰りの電車で一緒だった事があったのだ。そんな話を、最後の日にした。
「俺そんなに目立つ頭やったかなあ」自身の後頭部を見る事はあまりないのだろう。当時の私達に面識はなかった。
 足掛け十年今の職場におり、現在の部署に移ってからも、既に三年が経つ。もう若くはない。今の制度で言えば、あと二十五年しか働けない。
 従業員の一人が行方知れずになった。別の一人は持病の心臓の病で病院に行くと行って急遽休んだ。余所から人員を応援で貰ったり、抜けた人員の仕事二人分を私に乗せてどうにか乗り切った。会社での泊まり込みを覚悟したが、どうにか終電で帰れた。


それにしてもみんな
いつの間にか急にいなくなるよな
だから別にそれが
どうってわけでもないんだけど
最後に挨拶くらい
していってほしいっていうか
まあ別にそんなこと
どうでもいいんだけどさ

 次々といなくなる人達を思い、そんな曲があったなと、不可思議/wonderboyの「Pellicule」を聴く。ずっと前に彼の「火の鳥」で書こうとしてリストに入れていた。誰かカヴァーしてないかと思って曲名で検索すると、不可思議/wonderboyが交通事故で亡くなった直後に作られたらしい、神門版「Pellicule」を発見し、会社に着くまでの道で聴き始めたら涙が出てきた。急逝したラッパーの事だけではなく、急に無断欠勤して、母親からも「連絡が取れなくて」と会社に電話があったYの事とか、脳梗塞の後で昔のような覇気を失ったMの事や、定年退職後すぐにぽっくりいってしまいそうなGの事やら、もうみんな死んでしまったかのように思えて涙が出てきた。でも同じ所で働いているという事以外に思い浮かぶ事があまりなくて、個人的に思い出して悲しくなれるような思い出を持たなくて、それはそれで寂しく思えて。くだらない話でいいからもっと関わっておけば良かったと思えてきて。
 まあそんな感傷引っさげて出社したらみんな居たけどね。
 Yは体調不良とスマホの故障が重なっただけで。
 Mは検査だけで問題なくて。
 Gは定年後のいろいろの手続きと挨拶回りで何時間も会社に居座ってた。
 不可思議/wonderboyは動画の中で歌い続けている。
 てな事を書いている内に、三浦建太郎の訃報に触れ、「ベルセルク」の続きをもう読めない事を知る。

待ってた
俺達はいつまでも待ってた
来はしないと思いながら
いつまでも待ってた
俺たちの知る限り時間ってやつは
止まったり戻ったりしない
ただ前に進むだけだから
今日は戻らない日々を思い出して笑おう
今日だけ、今日だけは思い出して笑おう
こういうのってあんまり格好良くはないけど
初めから俺たちは格好良くなんてないしなぁ


 友人の間で回し読みした「ベルセルク」と、ミッシェル・ガン・エレファントのアルバム「ギア・ブルーズ」が重なる。その辺りから二十二、三年経っている。もう若くはないどころか、後頭部の髪の毛が散らかる側の方に近付いている。格好良くはない。人生は後半にかかってきているし、ひよっとしたら終わりだって見えているのかもしれない。でも「ベルセルク」はもう完結する事はない。


一つだけ未来を変えていいって言われたら
ロトシックス買わずにお前に一本電話入れる
「近々事故には気をつけろよ」
(神門版「Pellicule」より)


 ごろごろ人のいなくなるご時世、世界的情勢。少し前まで元気だった人が二、三日後に二度と帰らぬ人になってる。だから今生き残れている人は、簡単でも一言でもいいから生存報告を。twitterでも歌声でも落書きでもいいから生きている証をどこかに、誰かへ。
 格好良くなくて、いいから。


(了)
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