「Little Fish」Dope
動画はこちら
https://youtu.be/dMt9PnAE2hs
むかしむかし、ある海の中に、小さな小さな魚たちが住んでおりました。
小さいのは子供たちばかりではありません。
大人になっても大きくなれない種類の魚たちでしたから、みんなで寄り添って暮らしておりました。
そうすれば敵から身を護ることができるので。
そうすれば寂しさを忘れられるので。
そうすれば誰が誰だかわからなくなるので。
でもみんなと寄り添うことのできない、一尾のメスの小魚がおりました。
「どうしてみんなと一緒に泳がなければいけないの?」
「どうしてみんなと同じことをしなければいけないの?」
「どうしてみんなと一緒にいるのが楽しい振りをしなければいけないの?」
そんなことを考えてしまうのでした。
うまく群れになって泳ぐことが出来ず、時には自分だけ群れから躍り出てしまうのでした。
それで怒られてしまっても。
それで笑われてしまっても。
それで他の魚にヒレでぶたれてしまっても。
踊り出すことは止められませんでした。
どうしてもはみ出してしまうのでした。
その一尾の小魚は、ある日とうとう群れから離れてしまいました。みんなと一緒に泳ぐことを止めてしまいました。
巨大な魚のような形を作る仲間の群れを見送りながら、彼女は自分だけで生きていこうと決めました。
彼女は誰の目を気にすることもなく踊り続けました。元いた群れのところにまで、彼女のヒレが立てた波が届きました。何尾かの小魚が、それに気付いて振り向きました。でもまたすぐ群れへと大急ぎで戻っていくのでした。
彼女は踊り続けました。
このお話の描いてある絵本の中で、彼女は海の中で汗だくになり、渦巻きを作り、周囲にいた大きな魚やくじらたちまで巻き込み、紙幅いっぱいに跳ね回ります。
疲れ切って弱ったところを、他の魚に食べられてしまうような場面を描いてしまわぬように、とでもいう風に。
(了)