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「Knockin' On Heavens Door」Guns N' Roses

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動画はこちら
https://youtu.be/_9W2nckrum0
ボブ・ディランの原曲
https://youtu.be/rnKbImRPhTE



 うちの工場では以前夜勤をやっていたが今は廃止された。だから一番最後に退勤する人が、セキュリティロックをかけて帰らなければならなくなった。遅番が増えた私もケツ持ちの機会が増えた。そんな中で起こった出来事の話。

 セキュリティをかける前に、配電盤を確認し、全てのドアが閉められているか確認する。半ドアになっていたり、夜中に配送する業者が作業中の場合、赤いランプが点くので、閉めに行ったり、業者の作業がすぐ終わるか長くかかるか確認しにいく(夜中に来る業者は限られているので、あらかじめ一時的セキュリティ解除のパスを知っている)。
 現場を締める際に確認したつもりでも、チェック漏れがあったり、普段使わないドアが開かれていたり、どこかの窓が開いていたり、という事はよくある。
 ある日、ドアも窓も全て閉まっているが、備品庫の明かりが点きっぱなしになっている事があった。文房具類を収めている小さい部屋である。何気なく開いて明かりを消し、セキュリティをかけて帰ったが、その後ふと思い付いた。
 日中、その備品庫に入る際は必ずノックをする。中にいる人とぶつかったりしないためだ。自分以外誰もいない夜中に、ついいつもの癖でドアをノックして、返事が返って来たらどうしよう……。

 思い付いたら止める理由はない。
 備品庫の電気消し忘れをきっかけにした、「会社に夜一人でいる時に起こりがちな怪談」を翌日業務日報にまとめた。
「夜中、自分以外誰もいない会社で、電気が点けっぱなしの備品庫のドアをノックすると、返事が返ってくる事がある」
「誰もいないのに構内放送が響き渡る。何を言っているかは分からない」
「手洗いの水が流れ続ける音がする。センサーの故障だろうと思いながら一応見に行ってみると、見知らぬ顔の人がセンサーに手をかざし続けている」
「終電に間に合うギリギリの時間にセキュリティロックをかけた後で、やり残した仕事を思い出す」
「今日は人員揃っているし余裕だな、と思って出社したら、大量の当日欠勤で大変な状況になっている」
「用事で早く来なければいけない日なのに目覚まし時計をかけ忘れる」

 途中から怪談でなくなってる。
 当然「こんな事書いてないで働け!」と怒られる。

 その後ケツ持ちの際に「2階の窓が開いています」の表示があるので見回ったが表示が消えていない、最初に見回った休憩室の窓が再び開いていた、なんて事があった。
 その日の仕事は全て順調に終わったのに、私が帰った後も明け方まで残っている人がいた(この人の場合はそれが日常)。
 また備品庫の明かりが点けっぱなしだった、なんて事があった。私は自分で書いた手前、ノックはしなかった。誰かが返事をしても嫌だし、下手に怪談にしてしまったせいで、ドアの向こうにおかしな世界が広がっている可能性もあったからだ。「ノッノッ、ノキオザヘブンドウー」と、ガンズ・アンド・ローゼズバージョンの「Knockin' On Heavens Door」を歌って私は自分で作り出した恐怖から逃れた。天国だけでなく、ガンズ繋がりでドアの向こうにはジャングルやらパラダイスシティやらが広がっていたかもしれない。

 ドアや窓が開きっぱなしならともかく、電気の一つや二つ消し忘れていたくらいで怒られはしないので、私がケツ持ちの際に備品庫の明かりが点いている時はそのままにしていた。だが前述の、タイムカードを押してからも会社に残りたがるベテラン社員Kの場合は違った。ある日の夜、同部署内で使用しているLINE WORKSに、Kからのメッセージが届いた。暗い事務所に、備品庫のドアの隙間からの明かりが漏れている画像だった。
「確認してきます」
 メッセージは途絶えた。

 翌日朝から私が出社すると、社内が騒然としていた。早出の社員が来たときにはセキュリティロックがかかっておらず、前日ケツ持ちをしたはずのKが退社した映像も残っていないという。
 事情を知る私は備品庫をノックした。恐る恐るドアを開いたが、中はジャングルでも天国でもなく、いつもの備品庫であった。ただ、文房具などを取る際には行く必要のない奥の方で、書類の束に埋もれてKが眠っていた。

 明かりを消そうとして備品庫の中に入った際につまずいて倒れ、そのまま眠り込んでしまったのだろう、という結論だった。そうそう本当の怪談などこの世にはない。


(了)

※今回の話にはコンプライアンスの関係上、一部フィクションが含まれております。

 ちなみに目を覚ましたKは、人間の言葉を話せなくなっていた。
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