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「空はまるで」Monkey Magic

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動画はこちら
https://youtu.be/w7zX1ZP2tzg
ライブ版
https://youtu.be/zQQNQoifFlc



 
 学校に行けなくなっていた娘のココが、保健室登校を始めた。行ける時に行ける分だけ。
 きっかけは、スクールカウンセラーという方と学校で三者面談した後、出来ていなかった身体測定を保健室で行おう、そのまま給食やら自習やら、という流れだった。初日の合間には教室を見学に行ったり、二日目にはクラスでの清掃活動に入ったりもしたそうだ。
 三日目は「今日は疲れてるから」と言って休んだ。疲れによるものなのか、保健室登校した結果、何かしらあったせいかは分からない。
 四日目に行かなかった理由は「行きたくないから」になっていた。
 最初に登校した日に、ココは一人で下駄箱へ上履きを取りに行った。休み時間中だった為に、「まるで転入生のように」知った顔に囲まれたという。
 それだけで嫌になったというわけではないだろうが、始め「来週の遠足に行きたいから、少しずつ頑張る」だったのが、「遠足の話、なしで」に変わってしまっていた。

 パートがフルタイムに変わった妻は、朝早くから出掛けている。子どもらが起きた時にはもういないこともしばしば。朝起きて一番に「ママは?」と尋ねる健三郎を見て、私もずっとそんな気持ちにさせていたのだな、と気付く。
 保健室登校を行った二日間は、嬉しくもあったが、二人の送り迎えが大変でもあった。

 火曜日:健三郎を幼稚園に送っていく。
     帰りにいくらか買い物をする。
     10:30にスクールカウンセラーと三者で面談。
     そのままココ学校に残る。
     12:30息子を幼稚園に迎えに行く。
     ココがいつ帰るか分からないので健三郎と遊びながら学校からの電話を待つ。
     16時ごろ、健三郎を連れて小学校にココを迎えに行く。
     健三郎、久しぶりの小学校でテンションが上がる。

 久しぶりの学校で疲れているだろうと、自転車で迎えに行ったのが仇となった。今では健三郎も前座席ではなく後部座席に座りたがるので、二人の希望が重なり、「じゃあもう全員で歩くよ」と言うと健三郎は泣き出してしまった。昼寝なしだと夕方に疲れが来てわがまま度マックスになる。そうしてココが折れて、またストレスを溜めさせてしまう。

 水曜日:健三郎を幼稚園に送っていく。
     体育授業を保護者が見学する日。
     一度帰り、遅く起きたココの朝飯を用意して再び幼稚園に。
     健三郎はたくさん笑顔をこちらに振りまいてくれた。
     かけっこ:ビリ
     園舎から出てくるの:一番最後
     平均台歩き:落ちなかった(誰よりも慎重)
     見学終了と同時にその日は保護者と園児帰宅。
     帰って間もなく「今日も学校行く」とココ。
     今度は三人で歩いて小学校へ。
   
 10月に入ったというのに連日暑い日が続いていた。会社勤めを辞めた私は体力が落ち、皮膚も弱くなったのか、太陽に灼かれた肌に湿疹が出来て強いかゆみがあった。近頃健三郎を持ち上げるのが大義で、寝起きに腰が痛むことが多かったのだが、最新の身体検査結果では健三郎の体重はむしろ先月より0.3kg減っていた。健三郎が重くなったのではなく、私の筋力が落ちていたのだ。
「筋肉、もりもり!」と健三郎が言うのに合わせて、私が腕に力を入れる。力こぶなど出来もせず、力を入れる前と後で腕の太さは大して変わらない。それを見て健三郎は大笑いしていた。
 
 二度目の保健室登校の帰り道、また自転車のことで揉めないように、健三郎と二人で歩いて小学校へ向かった。
「どうして自転車で来てくれなかったの!」と疲れているココは怒ったが「昨日揉めたから」と言って納得させた。
 中庭の鯉に少し餌をやった。小さな餌を取り合う巨大な鯉を見て健三郎が「こわっ」と言っていた。私には最初分からなかったが、小さな灰色の魚もいて「あかちゃんだ、かわいーねー」と言っていた。最近もう自分は赤ん坊ではないと自覚し始めたのか、自分より小さな生き物を可愛がっている。

 健三郎を真ん中にして三人で手を繋いで歩く。小学校と家の間にある団地に付属している小さな公園の前まで来ると、強い風が吹いてきた。
「今日は自転車に乗れなかったけど、こうやって三人で手を繋いで歩けて、涼しい風も吹いて気持ちいいね」とココがいった。
雑草が伸び放題になっている公園で、すべり台が西日を受けて輝いていた。
「この景色、すごく好き」
 好きなんだ、か、好きだったんだ、だったか、私の記憶が曖昧だ。
「けんちゃんもー」と健三郎が言った。
 小学校入学間もない頃、何度かこの公園で遊んだことを思い出す。団地に帰っていく同じ登校班の子と仲良くしていた。もう名前を忘れてしまった。
 手を繋いで歩く歌、あったよな、と思って帰った。


空はまるで君のように
青く澄んでどこまでも
やがて僕ら描き出した
明日へと走り出す

確かなことなど何も
誰にもわからないから
どんなことが起こるだろう
手を繋いで
I'll never let you get away


 割とすぐにMonkey Magic「空はまるで」とあたりがついた。
 何度も何度も繰り返し聴いた。
 これからどうなっていくのだろう。
 学校に行ける行けないで、私の今後も変わってくる。部分登校なら送り迎えが必要だし、完全不登校なら家で学習出来る体制を整えなければならないし。
「どうにかするよ」と言っておきながら、先行きは不透明なままだ。

 結局、遠足には行けた。
 疲れ切って帰ってきたココは帰ってくるなり倒れ込んだ。翌日からはまた学校に行けないでいる。昨晩雨が降って、空は曇っている。暑さも和らいだ。あの日三人で手を繋いで見た空と風景は、しばらく見られそうにない。

(了)
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