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「RADIO GA GA」QUEEN

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動画はこちら(Live Aid 1985)
https://www.youtube.com/watch?v=o-0ygW-B_gI

前回の「最後の星」
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=147
の中に出てきた、ラジオの人の話。


 単純な装置の方が壊れにくい。
 僕は半永久的に音楽を流し続けるラジオを作る為に、大災害時に使用されることを前提とした、建物自身がラジオ装置となっていた消防署を乗っ取ることにした。
 もちろん、誰もいやしない。
 本当の災厄の前にはいかなる消防も無意味であり、かつて街の安全を保つために命をかけていた職員たちは、とっくの昔に街を見捨てて出て行った。出て行った先にも災厄はついていき、ほぼ全ての人類を呑み込んでいった。
 僕はどこにでもいる、他の星から来た生物だったから、この星の人類を滅ぼす災厄からは、たまたま難を逃れることが出来た。
「ゼイリブ」という映画を観たことがある人なら分かるだろう。既に人類には多くの異星人が紛れ込んでいる。人間の皮をかぶった異星人を見分けることが出来るサングラスを、「かけろ」「嫌だ」で延々と殴り合うシーンが有名なあの映画だが、確かに真実が描かれてはいた。
 実際僕らの間でも「ゼイリブごっこ」が流行ったことがある。殴り合って凹む体や顔は、地球人には見せられなかった。派手なプロレス技をかけあって、馬鹿な死に方をした奴もいた。愚かさはどこの星の生き物であれ、共通の持ち物だ。

 巨大ラジオと共に、ラジオ局の乗っ取りも必要となる。こちらも無人ではあるが、通信設備は電力供給が絶たれた今ではどれも使いこなすことは出来なかった。それから僕は、全国各地を回り、蓄電池の収集に取り掛かった。よく分からないままなんとなくかき集めた太陽電池はほとんどが使い物にならなくなっていた。民家の屋根に備え付けられていたものなどは、災厄や人災で壊れる前から、既に役目をこなしていない物も散見された。僕は一つの街ほどの蓄電池を並べ、雨風避けを設置し、人類の忘れ形見である「錆びない朽ちない滅びない、これさえ塗れば永遠に稼働!」という売り文句で有名なコーティング剤を使用して、最低千年は保つくらいのラジオ配信・受信設備を整えた。

 と簡単に説明したが、そんなことに何十年も費やしてしまっている。作業中に各地で生き残りの人類やら、僕と同じ異星人やらと遭遇したが、どれも既に人ではなくなっていたり、次の星への移住方法を模索している連中だったり、すぐさまこちらに襲いかかってくるやつらだったりした。
 一人、しばらく話をした男がいた。
「彼」は遥か昔から星々を巡っているのだという。しかしもう次の星へと飛ぶ力は残っていないとかで、この星で最期を迎えるつもりだと言っていた。とはいっても、僕よりもずっと長く生きる予定らしく、何万年後だとかいう。
 僕のラジオ計画を「彼」は微笑みながら聞いてくれた。
「この星の最後の生き残りになっても、君のラジオを聴くよ」と言ってくれた。
 僕は「彼」の言葉を半分聞き流して、流す曲の相談をした。
「横山健『I Won't Turn Off My Radio』、もしくは忌野清志郎のどれか」と「彼」は言った。
 もちろん相談したところで、僕の腹はQUEENの「RADIO GA GA」一択だった。けれども最後の一曲をリピート再生するボタンを押すその時までは、「彼」の言う曲も流すつもりだった。もちろんラジオに関わる曲以外も。

 ハロー、ハロー。
 ラジオ放送開始日に、「彼」の口癖を模して挨拶をした。
 ハロー、ハロー、ハロー、ハウロウ?
 それからグランジ・スターの曲の一節を、長い遺言の開始のように付け加えた。
 曲紹介が無意味に思え、僕は「RADIO GA GA」を再生した。巨大ラジオと化した消防署からフレディ・マーキュリーの歌声が流れ出す。遺物が異物と化して街いっぱいに雑音混じりのロックが響き渡る。レディオガガ、レディオググ、レディオガガ、レディオググ。

 千年ラジオ計画は、始まって間もなく最終局面に至る。至りたくはなかったが至ってしまう。ラジオの爆音に呼び寄せられた、野生化して凶暴化して異形化した猛獣たちが僕に襲いかかってきてしまう。武装のことなど考えもしなかった僕が、浅はかだったとしか言いようがない。もしどこかの星に生まれ変われるなんてことがあったなら、まず自分の命を守ることを考えることにしよう。RCサクセション「スローバラード」を聴きながらうとうとしていた僕の足に、ライオンの顔をした蛇が噛み付いた。
 腕を噛まれる前に、僕は「RADIO GA GA」のリピート再生を設定した。少なくとも千年後まで、この曲が再生されますように、と祈りながら。どこかで「彼」が聴いてくれているように、と願いながら噛まれ続けた。牙には麻酔でも仕込まれているようで、痛みはなく、抵抗する気力も湧かなかった。ライオン顔の蛇のたてがみを撫でながら、僕のいなくなる世界を想った。もっと恋でもしておけば、こうした時にかつての恋人の顔でも思い浮かべられるのにな、と思ったが、あいにく僕の種族に恋する器官は備えられていなかった。
 最期の瞬間が随分長く続くな、と思ったら、ライオン顔の蛇は食事を一休みしながら、ラジオから流れる曲に合わせて「ガ、ガ」と歌うように吠えていた。それを聴く僕には、もう首から上しか残っていなくて。

(了)
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