トップに戻る

<< 前 次 >>

「Breed」NIRVANA

単ページ   最大化   

動画はこちら(live)
https://youtu.be/GvnyRHb1U0g

歌詞和訳
https://nekoarukiwayaku.blogspot.com/2015/12/nirvana-breed.html

拙作「悪童イエス」内でNIRVANAを取り上げた回
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21543&story=13


 3大ギタリストと呼ばれる人達をご存知だろうか。ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック。今の若い人達にはピンと来ないかもしれないし、これから記す話にも関係はないので覚えてもらわなくて構わない。今から書き記すのはビッグ・ファイブについての話である。上記3人にジョー・サトリアーニと坂本慎太郎を加えるとかそういう話でもない。

 大量絶滅の話である。カンブリア紀以降に起きた、5回の生物大量絶滅のうちの1回についての、最新の研究結果から判明した事実をここに記す。

 白亜紀末(約6550万年前)の恐竜絶滅の原因は、巨大隕石の衝突というのが現在主流である。他の4回の大量絶滅に関しても諸説あるが、今回取り上げるのはペルム紀末(約2億5100万年前)に起きた、地球の歴史上最大の大量絶滅についてである。全生物の90%から95%が絶滅した原因は音楽の枯渇である、というのが最新の研究結果から徐々に判明してきた。

 現在地球上で最も繁栄している事になっている我々人類であるが、生物的機能について人類よりも優れた種はいくらでもいる。チーターの方が足が速い、犬の方が嗅覚が鋭い。鳥は空を飛べる。かつて栄えた生物種の中には、聴覚について現状のどの生物種より優れていたものたちが居た。彼らは周囲の物音だけでなく、過去にそこで響いた足音も、遥か未来に作られる美しいメロディまでも聞き分ける事が出来た。

 最新の耳の研究では、内耳の形状はそれまで聴いてきた音によって変化している、というのが常識になっている。木の年輪のように、内耳の形を読み解けば、「若い頃はヘビメタしか聴いていなかったが、歳と共に歌謡曲に目覚め、何故かある時からアイドルの曲しか聴かなくなった」と音楽遍歴が分かるようになっている。
 古代の生物種の聴覚器官の研究が近年進んできたのは、発見と同時に壊れてしまう事も多かった軟骨器官の化石を、安全に発掘・調査を進められる最新機器が登場したからである。この事により、驚くべき事に石炭紀後期(ペルム紀の前の紀。約2億9900万年前)には既に多くの種で音楽に親しんでいたことが判明してきた。彼ら固有の生物電磁波により、互いに共有する事も出来たという。今でいうなら、お気に入りのプレイリストを作り、そのリストを参考にしてお薦めの曲を聴くという類いの事である。

 しかしペルム紀末、地球圏に影響を及ぼす範囲で起きた超新星爆発により、地球の電磁波が乱れてしまい、先程述べたような、全個体間共有の音楽体験が出来なくなる。超聴覚による未来の楽曲の取り込みも不可能になってしまう。いわばオフラインでの閉じた環境で、各個体がその身に溜め込んでいた楽曲しか聴けなくなってしまった。しかし大型種と小型種では溜め込めていた楽曲数も異なるし、乏しい聴覚器官しか持っていなかった種は早々に滅びの道を歩んでいった。常に身近に音楽があり続けて来た環境の激変は、次第に各個体の免疫力低下や精力減退といった深刻な事態を引き起こし、多くの種が滅んでいったのである。スーパープルームと呼ばれる、全地球規模の火山活動も、彼らの滅びに拍車をかけた。この大量絶滅の後に繁栄した種は、かつて滅んだもの達の悲しい記憶を引き継いだのか、現代に生きる我々に至るまで、異常に発達した聴覚器官を持ててはいない。

 ゴルゴノプスとエオティタノスクスという、どちらも大型の肉食獣であるが、軟骨器官含め、原型を留めた化石が発掘された。よほどの音楽好きだったと見え、最新の電子顕微鏡で観察した所、好きなジャンルだけでなく、曲目までもが正確に割り出せたのだ。発見された場所は遠く隔たり、種も違うというのに共通点が多いのは、元来生物電磁波を介したネット友達ででもあったのだろう。
 超新星爆発による生物電磁波相互作用遮断以降も、2個体の聴く曲目は似通っていた。自身の内部に取り込めていた曲の多くに、NIRVANAの曲があった。遮断以前にも2個体は、様々な曲を聴く合間に、定期的にNIRVANAに浸っていたようだった。皆様にも覚えはないだろうか。誰もが基本自分の好きなジャンル、好きなアーティスト、好きな曲を聴く。新しいジャンル、アーティスト、曲を開拓していく。だがふと開拓行為に疲れた時、ただひたすらに同じアーティストの曲を繰り返し聴き続ける。そういう、最終的に帰ってくる故郷のようなアーティストがいないだろうか。2個体にとってはそれがNIRVANAであったらしい。

 生物電磁波の弱まりと共に、生物内部にある曲目も減っていく。自身の中にある愛する音楽が少しずつ消えていく悲しみとはどれほどのものであろう。音楽に依存しきっていたこの時代の生物達のほとんどが、最後の曲が消滅すると同時に息絶えている。先程の2個体の内耳に最後に刻まれていたのは、NIRVANAの「Breed」であった。これから絶滅するというのに「繁殖」という曲名というのも皮肉なものである。カート・コバーンの絶叫に合わせて彼らも叫んだのだろうか。種ごと滅び去る運命を悟り怒りに震えたのだろうか。

 しかし最新の技術により再現された、彼ら古代生物2頭の死顔は、とても穏やかなものであった。どれほど理不尽な運命により死を迎える事になってしまったとしても、最後に好きな曲を聴けたのだから、それだけで幸せな一生だったさ、とでも言うように。

(了)

※フィクションです。
20

泥辺五郎 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る