動画はこちら(live)
https://youtu.be/GZxImsH5rOk
夢の中でだけ会える人と、夢の中でだけ聴ける曲を聴き、夢の中でだけ流せる量の涙を流す。起きている間には決して交わすことのない愛の言葉などを垂れ流して、起きた時には具体的な内容は覚えていない。
20年前に好きだった曲を、今も好きだ。
20年前に好きだった人がいたか、よく思い出せない。
20年前の自分と今の自分は、あまり変わらない気がする。
20年前に好きだったバンドは、たくさん解散した。
20年前に好きだったバンドは、たくさん再結成した。
2度と復活しないバンドも、たくさんあるけれど。
「あの頃聴いていた曲」と言っても、その後もずっと聴き続けてる曲がほとんどだから、「あの頃」も「今」も変わらなく感じているだけかもしれないけれど。
白髪が増えたよ。
子供が出来たよ。
また本を読み出したよ。
また小説を書いてるよ。
まだ小説を書いてるよ。
たくさんの人が辞めていった会社で、まだ働いているよ。
20年前の自分には、こうして語りかける相手もいなかった。
本当に?
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SUPERCAR「Lucky」を聴きながら、これまで書いた分を振り返ろうと思う。()内は楽曲発表年。
「twist」KORN (1996)
前作「悪童イエス」執筆中から、次は好きな曲の絡む小説集を書こう、と思っていた。初回の選曲に迷いはなかった。どうしてハムスターサイズのダイムバック・ダレルの亡霊が楽しく踊ってる話になったかはよく覚えていない。
「Snow(Hey Oh)」Red Hot Chili Peppers (2006)
時折時代小説風の話を書きたくなる。上杉謙信が雪中行軍となる出兵に迷っていたところ、好きな曲に背中を押される話。岩明均の漫画「雪の峠」に出てくる上杉謙信の逸話を拾って広げた。
「ぐでんぐでん」萩原健一 (1980)
萩原健一の訃報を聞いて、好きな曲を選んだ。紹介している動画の内、本人映像の方が消えてしまってるのが残念。「悪童イエス」の登場人物である「メロス」がゲスト出演。またその内どこかで出そう。
「深夜高速」フラワーカンパニーズ (2004)
昔書いた掌編2編を下敷きにした。好きな曲なのに、小説の出来にはあまり満足してない。
「ゴッホ」ドレスコーズ (2013)
一時期本当にドレスコーズか毛皮のマリーズしか聴いていない頃があった。志磨遼平のクセのある声しか聴きたくない、そんな日々。「悪童イエス」でも、イエスと出会う前のユダにはその2つのバンドの曲を歌わせている。
「MOTHER」PUFFY (1997)
この曲も「海へと」も、この時期のPUFFYは名曲揃い。奥田民生バージョンも好き。書簡風小説。
「Lonely Boy」The Black Keys (2011)
Spotifyを使い始めて間もない頃、「ガレージ・ロック」で検索した時に、「ガレージ・ロック・リバイバル」と呼ばれるジャンルがある事を知る。そのプレイリストで知った人達。「ガレージ・ロック・リバイバル」という言葉は「悪童イエス」最終話のタイトルで使用。
「Lightning」ストレイテナー (2009)
この頃から、「次はこの曲で書こう」と決めたら、ほとんどその曲しか聴かない日々を過ごす、という事を始める。書き終えた後は逆にしばらく聴かなくなってしまう。
昔賞を取った、楢山孝介名義で書いた「鳥男」という掌編の続編である。
「ちえのわ」東京スカパラダイスオーケストラ、峯田和伸 (2018)
ライブでフルチンになって警察に怒られてた峯田和伸がテレビドラマの主演男優になっているという恐ろしい時代。スカパラのコラボ曲では他にチバユウスケ「カナリヤ鳴く空」、田島貴男「めくれたオレンジ」が好き。
「ゲルニカ」中村一義 (2000)
実家に居た頃、自分の部屋でこの曲を歌っていた。自分の出せる声ではないけれど無理して。何だかヘミングウェイの短編を思いながら書いた気もする。
「夜の盗賊団」THE BLUE HEARTS (1993)
私の好きな曲調に、「ミドルテンポで、淡々とした様子で」みたいな風潮がある。ブルーハーツの曲でこの曲が一番好きになったのはいつ頃だったか。20代後半くらいだったかも。
この曲の歌詞にある優れた情景描写は、その後の自分の中での基準になった。
「Dog Days」MAN WITH A MISSION (2017)
実は「小説を書きたかった猿、バンドを組みたかった犬、火の鳥になりたかったキジ」というタイトルの長編小説を構想していた。犬がバンド組むならやっぱり彼らの曲をやりたがるよね、という当然の流れ。長編は構想だけに終わりこちらの形に落ち着く。
「Island In The Sun」Weezer (2001)
初めて家族でカラオケに行った時に、この曲が一番歌いやすかった。この辺りの曲は下の子が一歳になる前くらいまでは寝かしつけの曲によく使用していた。
伊達政宗が小田原の北条攻めに呼ばれた際に、夜行列車の中で聴いているという設定。いろいろあったけど最終的に「まどろみは見えない方の目玉に任せ」という一文を書けて満足。
「ハンバーガーヒル」ザ50回転ズ (2018)
紹介している動画の再生回数は数億回のものもあれば、この曲のように3万回以下というものもある。彼らの事は何年か前に子供と一緒に見ていた「ゲゲゲの鬼太郎」再放送で知った。主題歌を歌い、彼ら本人達が出てくる話もあった。見た目は格好よくはない彼らだが、曲は粒揃いである。
この辺りから、「基本は三人称で書く」という決まりを破っていく。
「3✖3✖3」ゆらゆら帝国 (1998)
小説とエッセイが融合していくようなスタイルになりかかっていく。というかほぼ事実ばかりである。ギターは脱皮する生きものである。
「Boulevard of Broken Dreams」Green Day (2004)
これも下の子の寝かしつけに使っていた内の一曲。グリーン・デイのデビュー時に私は中学生。それ以降特に聴いてこなかったバンドだったが、Youtubeで曲漁りをしている時に、こんなにいい曲があったのかと驚いた一曲。
書いている間自分ではない誰かが乗り移ったように筆が進んだ一編。以前は嫌いだった一人称「俺」に慣れてきた。「俺の指に寄り添っているのは、俺の指だけだ」というフレーズを仕事中に思い出す時が何故かある。
「なぜか今日は」The Birthday (2011)
高校生の頃、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのコピーバンドを組んでいたが、最近はあまり聴いていなかった。アベフトシの死をずっと引きずっていた。この曲はThe Birthday初期のギターの音の薄さは無くなって、ライブ映像を観るとギタリストがアベフトシに見えそうな時もある。
金があまりないので、子供達をUSJだとかディズニーランドとかに連れていけるわけではないから、地元の小学校で夏休みの間持ち回りで開催される夏祭りに毎週行ってた。その時に見た風景を元に書いている。
「浮舟」GO!GO!7188 (2002)
この作品集で取り上げる楽曲は、これまで「昔から聴いていた曲」「作品集構想前から知っていた曲」であった。「浮舟」に関しては今回初めてはまった曲である。元々このバンドの「C7」という曲が好きだったが、他の曲はあまり知らなかった。こんなに格好いい曲があったんだ、と延々リピート再生していた。この曲で書こうと決める前から。ライブ動画もとても良かった。
この頃から川端康成を読み始めた。現在も継続中。
「Breed」NIRVANA (1991)
図書館で借りた恐竜図鑑に下の子がけっこう食い付いていたので、次に古生代の肉食獣の本を借りると、自分がはまった。特に「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる、地球史上5度起きた生物大量絶滅について興味が湧いた。ので、その内の一つの原因を解明してみた。
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昔好きだった人達の周辺の曲を聴いてみると、自分の中の「好き」がどんどん広がっていく。増えていく。
解散してしまっていても、亡くなってしまっていても、時代を越えて響く歌がある。それを聴けるのはとても幸運な事だ。私の弾くギターはもう適当過ぎて。私の歌声は遠くには届かなくて。だから人を感動させるような音楽は作れない。
だからせめて自分に出来る形で、好きな曲を、様々な人達が残した人類の宝を、広めていこう。
一曲を題材にして一編を書き上げる。書き終えると同時に次はどの曲にしようかと考える。決まるまでにいろいろな曲を聴き、新たな発見がある。改めて歌詞やアーティストについて調べて、それまで知らなかった事を知る。
私はまた小説を書いている。
私はまだ小説を書いている。
好きな曲について。
あるいは好き放題に。
一週間聴き続けているよ。SUPERCARの「Lucky」を。
こんな日々が永遠に続けば、ラッキーなんだけれど。
どこまで書けるか分からないから、とりあえず生きてる間は、書き続けるよ。
(了)