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「リビングデッド」amazarashi

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(映像内に一部グロテスクな表現が含まれています。閲覧注意)
https://youtu.be/TSncomnvyfc



 もうすぐ二歳と三ヶ月になる息子の健三郎がおもちゃの銃を撃つ事を覚えた。まだ正規の握り方は出来ないので銃口は横に向いているが、嬉しそうに「バンバン!」と言いながら私を撃ち殺す。殺される度に私は蘇る。おお、リビングデッド。

 もうすぐ七歳と三ヶ月になる娘のココが斬鉄剣を使いこなしている。当然私に斬りかかってくる。そこはさすが石川五ェ衛門好きの小学一年生、ただ殺されればいいという訳ではないらしい。
「いい? 切られてすぐに倒れないで。私が『またつまらぬ物を切ってしまった』って言って刀をパチンと鞘に納めてから倒れて」
 言われた通りに私は死ぬ。「もう一回!」私は蘇る。おお、リビングデッド。



後悔も弱さも涙も
声高に叫べば歌になった
声枯れぬ人らよ歌え

劣等感も自己嫌悪も
底まで沈めたら歌になった
死に切れぬ人らよ歌え

 amazarashi「リビングデッド」から抜き出してみた。人の感情が歌になる瞬間が歌われているようだ。ココも今日学校であった事やら、パパの顔は黒くてうんちの色みたいだとかいう内容の歌を歌う。地黒な上に夏場に職場でけっこう焼けたのだ。うんちではない。

 この曲にもあるが、言葉にならないメロディというか、「オオーオー」「シャラララー」「アアアーア!」などが歌に混じる箇所が私は好きである。二歳の健三郎が覚えるのもそういう所からである。最近覚えたのが、カーペンターズ「Yesterday Once More」の「エーブリー、シャラララー」という所で、大体ヤケクソ気味に「シャラララー!」と叫ぶ。カーペンターズなのに、叫ぶ。

 この間子供らと図書館へ行った帰り道、自転車の前座席に座る健三郎が、知っている限りの歌を酔っ払いのように歌いまくっていると思ったら、ことんと寝た。眠気が限界の時こそ最高潮のテンションになるのは姉と同じである。握っていたハドソン・ホーネット(ピクサー映画「カーズ」に出てくる伝説のチャンピオンカー)のミニカーが健三郎の小さな手からこぼれ落ちた。後部座席に座っていたココが「お父さん、私が拾うから健ちゃん支えといて!」と言って拾ってくれた。父をうんち扱いしたのと同じ娘とは思えない優しさに心打たれた。

 ルパン三世の映画第一作「ルパン対複製人間」を見ていた。録画してある他のルパン映画やテレビスペシャルではなく、ココはこの作品をリクエストしてきた。ルパンが峰不二子に迫る場面でココはにやにやしていた。武装ヘリが一般人を巻き込みながらルパンの一味を銃撃するシーンに健三郎が釘付けになっていた。私を撃ち殺すバリエーションが増えてしまう、と心配した。その通りになった。思えば私も子供の頃この作品と「カリオストロの城」とあともう一作あったが、ルパン三世劇場版を繰り返し観ていた。記憶が曖昧だが、私も石川五ェ衛門派だった気がする。

「ルパン対複製人間」の冒頭でルパンは死ぬ。「安心したまえ。死んだのはクローンの方だよ。君はオリジナルだ」と黒幕のマモーから終盤に真相は語られるのだが、果たしてそれは真実だっただろうか。死んだのがオリジナルであっても結果は変わらず、クローンはクローンで楽しそうに世界中で盗みを繰り返し、不二子に騙され、次元と五ェ衛門に助けてもらうような気がする。ルパンにとっては自身の生き死にもオリジナリティも大した問題ではないのではないか。

 話を私のうんちのような顔色の事に戻す。
 違う。
 リビングデッドに戻す。
 毎日のように私は子供らのごっこ遊びに付き合い、何度も倒れる。気軽にクローンを作れるような経済状況ではないから、私はすぐに蘇る。たまには抵抗してみる。しかし私の放った銃弾は全てココの持つ斬鉄剣で斬り払われてしまう。それを見て健三郎はゲラゲラ笑っている。ココがルパン三世のテーマを歌い始める。私も一緒に歌おうとするが、二人同時に手のひらで私の口を塞ぎに来る。

(了)
 
 
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