トップに戻る

<< 前 次 >>

「Human」The Killers

単ページ   最大化   

動画はこちら
https://youtu.be/RIZdjT1472Y


歌詞、和訳はこちら
http://oyogetaiyakukun.blogspot.com/2014/02/human-killers.html?m=1

http://einzelzelle.blogspot.com/2013/11/human.html?m=1



※語り手は作者本人とは違います。念のため。

 
 まだ私には息がある(My sign is vital)。しかし私の手は冷たい(but my hands are cold)。それは私が吸血鬼であるから。
 The Killers「Human」を聴きながら街を歩いているのに、私は人間ではない。吸血鬼呼ばわりされてる一族の末裔ではあるが、大した事は出来ない。太陽に弱く、人よりあまり眠らなくてもよく、普通の人より多少タフではある。その程度の存在である。ディオとかアーカードとか鬼舞辻無惨とかキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだとかの高名な方々の足元にも及ばない。血を飲まなくても生きていける。鉄分は多目に採っている。

 どうやら吸血鬼と自称出来るのも私の代で終わりそうだ。子供達は太陽を恐れず遊び回り、犬歯もさほど尖ってはいない。吸血鬼などよりよっぽど猛威を奮っている、新型コロナウイルスの影響で休校中だから、子供らは暇をもて余している。父親の私をいじめるのにも飽き始めている。
 私は夜勤の仕事が臨時休業になり、家に籠ってギターを弾いていたら、近所から苦情が来てしまった。ヘビィなリフばかり弾いていたせいかもしれない。世界中が黒い安息日状態だから、ブラック・サバスばかり聴いていたし弾いていた。油断するとギターは下の子の手により奪われ、線路や踏み切り代わりにされた。
 食料品の買い出しを妻が終えた後、買い忘れた物に気付いた。下の子は眠そうにしていた。夕刻が迫り、雨が降り出していた。私が外に出ても問題無さそうなので、一人で出る事にした。久しぶりに夜ではない街を歩いた。

 私達は人間だろうか(Are we human?)、それとも踊らされている人形のようなものだろうか(Or are we dancer?)。曲の問いかけに私はうまく答える事が出来ないでいる。私は人間ではない。私は人形でもない気がする。私が吸血鬼である意味など、きっとない。これまでの祖先もきっとそうだ。特異な体質や偏食に苦しんで来た、人類とほんの少しだけ異なる存在。人を襲った猛獣が撃ち殺されるように、殺されても来た。数で勝る者達によって。

 自粛期間とはいっても、開いている居酒屋があった。テイクアウトメニューがあるらしい。何気無く店先を覗いただけなのに、警戒された目付きが店内から私に刺さった。自粛警察だと思われたのだろうか。大丈夫、ただの吸血鬼です。

 これまで連綿と私達に繋がってきた物を断ち切ろうか(Cut the cord)。あるいは、これが今の私達に取っての常識、と言われるような、多勢により唱和される和音をぶち壊そうか(Cut the chord こっちのコードは歌詞にはない。語り手の勘違い)。同じ曲を繰り返し聴いていると、どのような内容も今を言い当てているような気になる。

 部分的にだが小学校が再開される。週一で二時間、一クラス十五人程度に人数を抑えて。スティックのりがなかった。油性マジックも。ついでに本を買っておこう。最近上の子がYouTubeではまってる「鬼滅の刃」の単行本を。私は週刊少年ジャンプ電子版読者なので、連載開始当初から読んでいる。アニメをきっかけに爆発的な人気となったが、私はアニメ未視聴である。三巻くらいまでとりあえず買おうと本屋に寄ると、いきなり二巻がなかった。棚にある分しか無いとの事。一、三巻と、短編集を購入する。別の本屋では六、八、十三、といった感じで更に飛び飛びであった。
 
 散々禰豆子の絵を描いてる割に、読めない漢字が多いからか、上の子の反応は芳しくなかった。見ていた動画も、「リカちゃん人形を禰豆子風に」みたいなのばかりだったし。まだ二歳の下の子はいきなり本のカバーを外して奇声をあげている。「吾峠呼世晴短編集」を読むと、「肋骨さん」「蠅庭のジグザグ」に覚えがあった。本誌に掲載された読み切りであった。上の子は短編集の表紙を見て「鬼滅に似てる!」と大発見であるかのように言っている。同じ作者だからね。

 

 時折、全てをぶち壊したくなる時がある。



 冗談だ。


 子供達を寝かした後、夜中の街を歩く。夕方に歩いたのと同じ道を辿って。本屋がまだ開いている。血の匂いが微かにする。さっきは見かけなかった「鬼滅の刃」第二巻が置いてある。
「朝には灰になるから早い内に読んでね」と妙齢の女性店主が言う。料金は私の血で払う。店主は私の首筋に吸い付いて牙を立て、「不味い」とはっきり言った。
「大分薄いね。あんたまさか人間じゃないだろうね?」
「違うよ」と私は答える。
「ダンサーだ」と続ける。
「そうなんだ」店主はもう私への興味を無くして、口直しにチョコレートを食べ始めている。
 言った手前もあり、軽くステップを踏んでみた。本当は踊れないのに。
「近所迷惑になるから止めて」
 近所の猫達が私に向けて一斉に抗議の声を上げ始めたので、少し涙目になりながら家に帰った。アルコール消毒はきちんとした。

(了)

 
60

泥辺五郎 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る