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「New World」カサリンチュ

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動画はこちら
https://youtu.be/spPpHTusRCk


「新しく作る」そのボタンを押すだけで、新しい世界が生成され、スティーブはその世界に放り出される。よく分からないまま草原や砂漠を歩き回り、穴に落ち、地下に潜ってしまい、登ろうとして更に落ち、暗い中でどちらへ向かえば分からないまま、地下の住人達にいつの間にか攻撃され、死んでしまう。
 あるいは穴に気を付けて歩いている内に夜になり、ポツポツと現れたモンスター達に襲われて息絶える。

 ゲー厶「マインクラフト」を始めた当初、そうしてスティーブは何度も死んでいった。これでは何も進まないと思い、設定をいじった。「サバイバルモード」から「クリエイティブモード」へ。敵に襲われる心配もないし、初めから全てのアイテムを使い放題なので、狩りや発掘作業で資材を集める必要もない。

 という風にセッティングして娘のココにタブレットを引き渡す。You Tubeでマインクラフト動画を参考にして、いつの間にか家やら作り出す。馬に鎧や鞍を付けて騎乗して走り回り、「楽しいー」とはしゃいでいる。翌日ログインした時に馬は行方不明になっており、しばらく泣いていた。一緒に遊んだ友達が消えてしまった事で泣ける娘を見て少しほっとした。魚の卵を地上で使ってしまい、ピチピチ弾けるタラがしばらくして死んでしまった事には「仕方ないね」と冷淡だったが。

 カサリンチュ「New World」は、アニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマで、まだ実家に暮らしていた頃に見て、好きになった曲だ。娘のココが生後11ヶ月頃までは実家にいた。私の両親と私達夫婦の関係は当時決して良好ではなかった。私の仕事が連日遅かったり、日勤と夜勤を行ったり来たりしていた時期でもあり、妻と娘は自室にこもり気味になっていた。引っ越し後、アパートの一階の部屋で娘はハイハイで家中を這い回っていた。

 あれからもう七年も経っている。

 私のスマホの機種変更後、ココに付き合いマインクラフトをインストールした。もちろんクリエイティブモードでのんびりとプレイする。ココの設定と違い、夜にもならない。眠る必要もないから、いつまでも家を建てないでいるとココに怒られた。TNTで地表を破壊していったり、高さの上限を知りたくて塔を建てたり、逆に地下を突き抜けて空っぽの空間に怯えたり、とお定まりのコースを辿った後、なるべく大きな建造物の建築に取り掛かった。空に浮かぶ牧場やら、ピラミッドやら、水族館やら、ウォータースライダーやら。ココのようにマインクラフト関連の動画を見たり、検索していろいろ調べて、ではなく、ただ何となく作り上げていくだけだ。広大な世界に、少しずつ自分の爪痕を残していく。ココの方はといえば、ネザーゲートという、ワープ出来る装置を作っていたり、あちこちに建てている家はどれも二階建て以上だったりする。
 私が自分の世界で最初に作った空中牧場(三層)の一層目は、ココが着火したTNT爆弾により半壊した。


転んでもケガしても泣きながらでも
何度でもトライして乗れた自転車
大人になりいつの間にか覚えたこと
やりたいことより出来ない言い訳


 ココは幼児用の自転車に、いつの間にか乗れていた。小学校に上がってから買った子供用の自転車には、購入直後にコケて怪我をしてから長い間触らなかったが、幼児用の自転車が流石に小さくなり過ぎてから、何となく乗ってみれば、コケる事なく走り出せた。まだ遠出する時は親の自転車の後ろに乗せるが、近場なら自分の自転車で行かせる。今の所危なげない。自分が小学二年生の頃はどうだっただろうか。秘密基地だとかは三年生以後の記憶であり、一、二年生の記憶よりは下手すると幼稚園時代の記憶の方が鮮明である。我が家にファミコンが来たのも三年生以後あたりだと思う。

 最近の私は、ココが朝の準備をグズグズしたり、健三郎がまだまだ遊びたくて寝ようとしない時に、イライラする事が少なくなった。ふと自分の子供時代の事を思い出したのだ。親の言う事を素直に聞いていたか、と。親が望むような子であったか、と。生活面を支えてもらいながらも、趣味志向は独自路線を辿り、躾けられて来た覚えもあまりなかった。

 休日に健三郎が昼寝をすると、今だとばかりに、ココはマインクラフトに私を誘う。ココの方の世界に遊びに行くと、前回私が作った小型のピラミッドに扉が付いていた。「入って!」と言うので中に入ると、溶岩の中に落ちた。そんなもの私は作らなかった。クリエイティブモードであるからライフゲージはないが、焼かれるエフェクトで私のスティーブが燃え上がる。ココも私もデフォルトネームのスティーブのままでプレイしているから、いい加減名前をつけないと、と思う。
 空中に浮かんで溶岩から出る(クリエイティブモードでは自由に空を飛べる)。扉を開けると氷で塞がれていた。氷を砕くとTNT爆弾が現れ、火を点けられた。やっぱりな、と思いながら私は爆破に巻き込まれて吹っ飛ぶ。カボチャの頭で作った小型ピラミッドが半壊していた。
 同じ事を私の方の世界でやられては困るから、「パパの方の世界の建物は壊さないでよ」と念を押す。空中牧場はまだ壊れたままで放置してある。その後砂漠に建てたピラミッド二基はそれぞれ図書館と美術館の内装を施してあるし、近くに建てた祠(ほこら)から地下通路も伸ばしたのだ。


新しい世界はいつだって
僕らの一歩さきにある
好きなら好きといえばいい
そこから始まる New World


 私の子供時代のように、遠慮なく友達の家に遊びに行ったり、休日にはたくさんの人で賑わう場所に出掛けられる日々は戻って来るのだろうか。これはこれでNew Worldか。
 ステンドグラスで作った水槽に水を溜め、地下から覗けるようにしようとしたら、ステンドグラスに隙間があるらしく、ポタポタと水が垂れて来た。そんな発見をしながら、また地味な建設作業に戻る。


(了)
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