動画はこちら
https://youtu.be/4U6t3ufJ1Ds
ギターソロ解説動画
https://youtu.be/gqZvlETiowM
今回はギター教室の事を思い出して書いてみる。
「では皆さん、用意して頂いているピックを捨てて下さい」と講師の高崎という男は言った。
言われた通り、楽器屋で悩みながら選んだ、鼈甲(べっこう)柄のギターピックを床に投げ捨てた後でようやく「え?」と声に出た。ピックがギターを弾くのに必要な道具だという事くらいは知っている。ああ、ギタリストが観客に向けてピックを投げるパフォーマンスの練習か、と思ったがそうではなかった。
時間は少し遡る。
「あなたはここに何をしにきましたか?」
体験入学に来た五名に、講師高崎はそう訪ねた。
「好きな曲の弾き語りが出来るようになりたくて」
「息子がギターを買ったものの、Fコードを押さえられなくて投げ出してしまい、代わりに私がやってみようかな、と」
「夢の中でフライングVに『俺を弾け』と語りかけられて」
「昔バンドをやってましたが、我流だったので、基礎からやり直そうかなと」
「ドンドンタン、ドンドンタン、ウィーウィーウィーウィーロッキュー! シギン!」
「分かりました。皆さんの話を総合して、今日の課題曲を決めました」そう言って講師高崎はノートパソコンでYou Tubeを開き、ある動画を再生させた。
「LOUDNESS『Soldier of Fortune』です」
https://youtu.be/4U6t3ufJ1Ds
そして冒頭に繋がる。
「今観て頂いた動画のギターソロで使われているテクニックが『タッピング』と言います。指で弦を叩く演奏法です。あまり知られていませんが、ギターとは元々指やピックで弦を弾いて演奏するものではありませんでした。ギターが発明されて間もない初期のギタリスト達は、みんなタッピングだけで演奏していました。ビートルズ『HELP』のデモ版のギターが全てタッピングだったのは有名な話ですね」
私は演奏も知識もこれまで全て我流で来ていたので、こういう教室はやっぱり為になる話を聞けるものだと関心していた。
「これならFコードを押さえられなくても大丈夫そうですね!」Fコード主婦が嬉しそうに言う。
「あの、さだまさしさんもその、タッピングを?」
好きな曲を弾き語りたいおじさんが訊ねる。
「最新アルバムの曲のギターソロは大体タッピングでしたよ」
「そうでしたか、まだ聴いておりませんで」
「フライングVでもタッピングは…?」フライングV兄さんが不安そうに訊ねる。
「もちろん出来ます」
「シャバダバディア、シャバダバディア、シャバダバディア、ダバ、ダ・バー!」
私に付いてきた息子の健三郎は一人歌い続けている。QUEEN「We Will Rock You」の次は人間椅子「無情のスキャット」である。
「Soldier of Fortune」のタッピングソロ部分たけの譜面を渡され、私達はアコースティックギターでタッピングの練習を始めた。最初の内は上手く出来なかったが、少しずつ、段々と、徐々にではあるが…いや、嘘は書かないでおこう。最初から最後まで全くうまく出来なかった。健三郎は歌い疲れて私の膝の上で眠り出したし、フライングV兄さんはギターを諦めて作詞を始めてるし、好きな曲を弾き語りたいおじさんは帰ってしまうし、結局曲を弾けるようになったのはFコード主婦一人だけだった。
「帰って息子に教えます!」家族の絆が起こす奇跡を私は見た。
お腹が空いたらしい健三郎は目を覚ますと「ポテト、ポテト」と言い出した。「この後マクドナルド行こうな」と囁きかけると喜んで「ボウルに! いっぱいの! ポテサラ!」と言い出したので「それは違うよ」と諭した。
今後の使い道に悩みそうな譜面を持ち、私達はギター教室を後にした。妻と娘と合流してマクドナルドでご飯を食べた。健三郎はフライドポテトを口にくわえて「鬼滅の刃」に出てくる禰豆子の物真似を始めたので、私もやってみたが、娘のココに「パパがやっても可愛くない」と怒られた。
コロナ感染拡大予防用に立てられたパーテーション越しに私は自分の無実を娘に訴えたが、ことごとく却下された。
ギター教室にはその後二度と行かなかった。
(了)
※筆者はギター教室の経験がないので想像で書いてます。