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「System Of A Downの流れる日常」

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動画はこちら
「Chop Suey!」
https://youtu.be/CSvFpBOe8eY
「Radio/Video」
https://youtu.be/qIDzPUt20F4
「Old School Hollywood」
https://youtu.be/B2sFdkGCjhE
「I-E-A-I-A-I-O」で踊る娘のココ
https://twitter.com/dorobe560/status/1293947933780402182?s=19


 
 三歳になった健三郎が、出かける直前に口ずさんでいたメロディに聞き覚えがあった。少し前に流していたSystem Of A Downの「Chop Suey!」であった。そういえば大のお気に入りのABCソングを歌っている最中に時折叫び出したりするのって、システムオブアダウン(英単語打つのが面倒になった)のボーカル、サージ・タンキアンのスタイルを真似ているのか、と思えてきた。

 こんな事もあった。
 私だけが休日だったある水曜日、詰め込みすぎた用事をメタリカを聴きながらこなしていた。どうも最近メタリカ耳になり過ぎてるな、と思い、システムオブアダウン祭りに切り替えた。聴きながら、購入した棚を組み立てている内に、妻と息子の健三郎が保育園から帰って来て、間もなく娘のココも小学校から帰宅した。流れ続けるシステムオブアダウンを、かつてアンスラックスが止められた時のように「乱暴過ぎる曲ですねえ」とココに止められるかと思ったが、そんな事はなかった。
 おやつを食べ始めた健三郎がある曲でノリノリになり、聴き慣れた「Radio/Video」になると、ココは宿題をしながら上半身だけで踊り始めて妻に怒られていた。
 それでもシステムオブアダウンの曲は止められる事なく流れ続けた。


 システムオブアダウンはアルメリア系アメリカ人のメンバーで構成された、アメリカのオルタナティブ・メタルバンド。詳しい事はWikipediaにぶん投げるとして。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3
 近頃システムオブアダウンをよく聴いているのには幾つかの背景がある。
 前々回に書いた音楽小説「I Fought the Law」は、小説「拝啓パンクスノットデッドさま」(石川宏千花著)を読みながらザ・クラッシュを聴き続けた事が元ネタとなっている。以来、音楽と小説読書をセットにするのが癖になり、会社での休憩時間は主にそれに費やしたいがために、昼食は少なめにして、45分間は「音楽+読書+うとうと」という至福の時間に充てられるように調節するようになった。
「メタリカ+ヘミングウェイの短編集」を堪能しながら分かってきたこの読書法のコツ。

・日本語の歌詞は文章の内容とぶつかり合うので向かない。仮に英語が堪能であったなら洋楽でも向かないのかもしれない。
・初めて聴く曲は向かない。脳が新規情報取得の為に多めに働き、読書の邪魔をする為。
・どことなく内容とリンクしている曲だとより楽しめる。ヘミングウェイの短編で少年兵が見せしめの為にあっけなく銃殺される場面で、イヤホンからはメタリカがオーケストラと共演したバージョンの「One」が流れていて、映画を観ているような臨場感があった。
・アーティストはバラバラではなく統一しておいた方が良い。この曲とこの曲だけが好き、というアーティストではなく、全体的に好きなアーティストが適している。

 というわけで、ザ・クラッシュ→メタリカ→システムオブアダウン、という自然な流れが出来上がり、読書と音楽の相乗効果により、両方共にこれまでより楽しめるようになった。
 あと、ドラムを叩きたくなってきた。
 メタリカを聴きながら、ラーズ・ウルリッヒ少年が主人公の「市立マッドカプセルマーケッツ小学校軽音部」の構想を練っていたりしたので。
 練習スタジオでの個人練習は一時間500〜600円で入れるみたいなのでその内行ってみよう。昔使ってた樋口宗孝(ラウドネス)モデルのスティックまだあるかな。

 システムオブアダウンを聴きながら田中慎弥「ひよこ太陽」を読む。あまり売れない小説家がネタに詰まりながら自殺を繰り返し考えたりしている。昔私が妄想した、「仮に自分が思うがままに書き進めた物が認められたとして、決して売れ線になる事はないだろう」と、書かない内から悲観していた未来像のような語り手だが、彼は売れないながらも書き続けている。

 自分の作風を考えてみる。

①幻想的な短編。
②私小説風ファンタジー。
③子育てエッセイ的なやっぱり私小説風ファンタジー。
④ギャグ。
⑤時代小説
⑥二次創作。

 何だかどれも結局は「私小説風ファンタジー」と言える物になるかもしれない。ありのままの現状を書いているだけのこの「システムオブアダウンの流れる日常」だって、人によってはファンタジーだと感じるかもしれない。新型コロナ以降の世界は、出来が悪い上に長過ぎるパニック映画の中にいるようで、リアリティに欠けている。どこからか私達はフィクションの中に入り込んでしまったのではないか。今年の夏は例年と同じように、地域の各小学校で行われる夏祭りをはしごしていったのではなかったか。

 休憩時間中に本を読む人が増えている。以前なら本好きで有名なごく一部の人だけだったのが、今は常時誰かしらが読んでいる。「ひよこ太陽」を読み終えた私は次に平野啓一郎「マチネの終わりに」を読み始める。主人公のクラシック・ギター演奏家が奏でたブラームスや、話の中に出てきたグールドのピアノを聴いたりしてみるが、歌声がない事が物足りなく、またシステムオブアダウンに戻る。ミドルテンポの曲を意識して選んで聴いてみる。
 子供の頃によくおままごとの舞台にして遊んでいた庭石に、年老いた祖母が転んだ際に頭をぶつけて亡くなってしまった、ともう一人の主人公の女性が語る。以来、庭石を見て浮かぶのは楽しかった記憶だけではなくなってしまった、と語る場面。


「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」


 子供達が将来どこかでたまたまシステムオブアダウンの曲を聴いた時、「子供の頃によく踊ってた曲だ」と楽しく思い出せるのか、「パパが好きだったうるさい曲だ」と迷惑そうに思い出すか、今はまだ分からない。その頃私は既に故人となっている可能性もある。
 私がその場にいたら思い出すのはきっと、「『システムオブアダウンの流れる日常』を書いた事」だろう。その頃まで、今と変わらずシステムオブアダウンを聴き続けているかもしれない。どの本を読んでも「やっぱりシステムオブアダウンが一番合うな」とか言いながら。

「Old School Hollywood」を聴きながら、ドラムセットもスティックもないので、最近出始めた腹を叩いてリズムを取る。健三郎がオムツをずり下げて半ケツになって布団に飛び込んでいく。ココは姿見の前で踊っている。そんなありふれた日常が続いていく。
 きっと。まだしばらくの間は。


(了)
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