欲望のままに
何ということでしょう。
あの長い舌、まるで生き物のように蠢くではありませんか。
ああ、それがハーゴさんの陰茎を飲み込みました。
……口淫?
そう、あれが|口淫《フェラチオ》というのですね。
うふふ、おかしい。
ハーゴさんの必死なお顔と言ったら。
まるで全神経が陰茎に集まったかのようです。
「ラ、ラライラさん……ッ!」
ハーゴさんが助けを求め、口をぱくぱくさせている。
感心なこと。
あれだけ追い詰められても、わたくしが潜んでいる方を見ようとはしない。
それともその余裕がないだけかしら?
ミシュガルド大陸、大交易所付近にある広大な草原。
そこに、男ばかりを狙う新種のローパーがいるという情報が、三大国合同報告所へもたらされていた。
ローパー…触手と消化器官しか備えていないようなモンスターだ。
妙なことに、ローパーは女性しか狙わない。
おっさんの臭いがすると、たちまち逃げていく。
ローパーの体からは絶えず粘液が滲み出ているが、それが空気とまじわると催淫成分のある蒸気となる。ローパーはそれで近くの女性を痺れて動けなくさせ、“捕食”してしまう。
とはいえ、本当に食われてしまうわけではない。
ローパーに捕食されても、一通り“堪能”されると、ペッと吐き出されてしまう。
実は、ローパーは肉食動物ではなく、植物のようなものらしい。
欲しいのは興奮した女性から滲み出る汗、涙、膣分泌液…つまり愛液である。
実際、ローパーは人一人をすっぽりと丸呑みできる口腔を持つが、牙は無く、女性から体液を吸い出した後は吐き出しているのだ。
だが、そのローパーには様々な亜種が誕生しており…。
ローペリアという亜種ローパーは、男しか狙わない。
ということは、欲しいのは|精液《ザーメン》であろう。
ローペリアの手配書を見た時、オツシアの滅多に開かれない目が見開かれていた。
「───美しい」
男を誘い出すためであろうか、植物のような普通のローパーと違い、ローペリアはまるで人間の女性のような姿をしていた。
豊満な胸、腰にはくびれもあって、尻もでかい。
人間のように頭髪があって目元は隠されているが……その顔が、奇妙にも己に似ているような……オツシアも、普段は頭髪で目元を隠している。
まるで、己が裸に剥かれて手配されているように、オツシアは感じ…。
そして、興奮した。
「しゅるるるる……」
ハーゴの陰茎をなぶっていたローペリアが舌を離す。
キョロキョロと周囲を伺う。
ハーゴに仲間がいないか警戒しているのだ。
(お生憎様ね)
だが、オツシアはその様子を伺いつつも、決してローペリアから気配を悟られる心配はしていない。
何せ、オツシアが潜んでいるのは、ローペリアとハーゴがいる位置から1000メートルも離れているのだ。
セルゲイ・エミールM1890。
ボルトアクション方式、装弾数は5、口径は7.62mm。
ロンド・ロンド式スコープを載せている狙撃銃タイプの小銃。
有効射程距離はおよそ350~500メートルと言われている。
だが、オツシアの持つそれは、通常1230mmであるものを、全長1890mmにした長大な特別製である。
射程距離は750~1000メートルにも及ぶ。
その狙撃銃のスコープ越しに、ハーゴやローペリアを視界に捉えていたのだ。
ローペリアは普通のローパーとは逆で、女性が近くにいるとその臭いで姿を見せない。
ならば、|童貞《ハーゴ》を餌として単独で向かわせればよいのだ。
「───ええっ、ぼくが囮になるんですか?」
「大丈夫ですよ。わたくしがこの狙撃銃でローペリアを撃ちますから」
「うーん……ビューティー……ぼくはどうしたら……」
最初は怖気づいて渋っていたハーゴだったが、“ラライラ”の提示した大金に目がくらみそうになっていた。
オツシアは甲皇国の名門貴族、乙家の係累である。
それなりの大金を動かすこともできる。
貴族たるもの、力なき民を護るためにモンスターを討伐、研究もせねばならない。
それこそが“ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)”である。
そんな信念に基づきオツシアは動いているが、乙家の名だたる貴族たちは、自ら前線に出ようとするオツシアを快くは思っていない。
ということで、ラライラと名を偽って一介の冒険者として活動しているのだ。
「その美しい銃」
オツシアはそっとハーゴに寄り添い、彼の持つ愛銃を撫でまわした。
「ううっ…」
女性に慣れていないハーゴは、それだけで頭がくらくらしていた。
「メンテナンスにお金がかかるのでしょう?」
ハーゴの愛銃ビューティーは、オツシアからすれば、みすぼらしく古臭いリボルバーにしか見えない。
が、それにこだわっているハーゴの弱みに、オツシアは躊躇なくつけこんだ。
ローペリアは男を獲物にするというが、特に童貞を好むという。
このハーゴはうってつけの人材だった。
「おううっ」
ハーゴが喜悦の雄たけびをあげ、尻をよじった。
ローペリアの長い舌が、ハーゴの尻の穴にねじりこまれ、前立腺が刺激されている。
ハーゴの陰茎は露出したままだが、硬く怒張しており、濡れててらてらと光っている。
目を剥いて、口をぱくぱくと開いている。
かつてハーゴが味わったことのない快感が押し寄せてきているのが分かる。
「ど、どうして……!?」
ハーゴは泣きそうになりながら戸惑いの呻きをあげる。
ハーゴの肉体は、とっくに射精してもおかしくない快楽の極みを、もう何度も超えて、さらなる快感の高みを押し上げられているのである。
「……わたくしは、卑怯者です」
オツシアは、自嘲すると共に、自慰をしていた。
右手と肩で構えるセルゲイ・エミールM1890のスコープで、ハーゴとローペリアの様子を覗きながら。
左手の方は、己の股に手を伸ばし、まさぐっているのだ。
あさましい姿であった。
何がノブレス・オブリージュだ。
ハーゴさんも護るべき民ではないのか?
なのに、そんな彼を金で釣って囮にしている。
そして、もっと危険度の高いモンスターはいるというのに、このローペリア討伐に乗り出しているのか?
それは、わたくしがこのローペリアに魅せられたからだ。
大義名分を掲げて、実は、己の欲を満たすためにモンスター討伐や研究をやっているのだ。
「ぬわーっ!」
ハーゴが絶叫する。
遂に、ハーゴが体内に溜めに溜めた精液を放出していた。
何という量だろう。
精液というのは血液が前立腺液と合わさってできたもの、つまり元は血液だ。
それをあれほどの量を失って、ハーゴは果たして無事なのだろうか。
滝のように噴出したハーゴの精液を、ローペリアは一滴も余さず口腔で受け止めていた。
「あれと、わたくしと…どう違うのかしらね」
スコープを覗きながら、ローペリアの表情を見ようとする。
だが、やはり頭髪に隠れて見えない。
獲物を得ることができて喜んでいるのかもしれない。
モンスターだが、人間のような姿をしている。
「……!」
ローペリアの目元が見えた。
その顔は……。
バン。
オツシアは狙撃銃を放つ。
ローペリアの頭が弾けて飛んだ。
───わたくしが何を見たか、ですって?
世の中には、知らない方が良いこともあるのよ。
酒場の上にある宿の寝床。
燭台がちらちらと明かりを灯している。
わたくしは寝間着だけとなって、あの子を待ちかねている。
モンスターを殺した後は、体が疼いてしょうがない。
あのローペリア…。
仕留めた時、軽くイってしまいましたわ。
欲望のままに生き、男の精をあさる、おぞましいモンスターなのに…。
美しいと、思ってしまった。
扉が開く。
おどおどとした足取り。
うふふ。
そんなに緊張しなくても良いのよ?
さぁ、いらっしゃい。
わたくしは掛布団をあげ、相手を寝床に招き入れる。
あのローペリアのように。
おわり