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「ロスマルト列伝」作:ゲオルク・フォン・フルンツベルグ(7/23 21:40)

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 古今東西英雄豪傑多かれど、人々の記憶に残る英雄のなんと少ないことか。
 私が傭兵王として名を成したのは、ひとえにミシュガルド戦記という書物のおかげでもある。宣伝媒体の有無が語り継がれる者と歴史に埋もれるものを分かつのだろう。武だけではなく文も必要なのである。私は幸運にも英雄たちと馬を並べ、豪傑どもと戦う機会を得てきた。
 かつて獣神将ロスマルトという武人と闘ったときのこと。ふと心に悲しみが押し寄せてきた。他の英雄ならいざ知らず、このロスマルトを語り継ぐ者はいないだろうと。獣神将を率いる獣神帝は人類全体の天敵だ。英雄として書き残す者はおるまい。ロスマルトが自伝を書けるとも思えぬ。ああ、もったいなや。これだけの豪の者が埋もれてしまう。
 そこで私は剣をペンに持ち替えて、一筆書いてみることにした。



 獣神将ロスマルト。馬の頭を持つ怪力の男。
 ロスマルトたち獣神将や獣神帝は古代ミシュガルド人の忘れ形見と聞く。それが騙りでなければ今から千年も昔に生まれたことになる。
 生地はわからないが、獣神帝ニコラウスと会ったのは東方大陸の遺跡の中だった。会ったといっても魔法の鏡を介して会話しただけで、本人の言葉によるとミシュガルドにいるらしい。獣神帝の生地はおそらくミシュガルドであろうが、空中浮遊城アルドバランも関係が深い場所で獣神帝の拠点ではないかと思われる。というのもこの遺跡の最下層は後に浮上してアルドバランだったことが判明するのである。SHWの今でいうところのハイランドに墜落していたわけだから、ハイランドも獣神帝たちにとってなじみ深い土地なのかも知れぬ。奇しくもハイランドは馬の名産地である。人と馬は古い友人だ。それこそ千年以上前から寄り添いあってきたために、今や野生の馬は絶滅してしまった。野生の馬が滅びたことをあの馬の化け物はどう思っているのだろう。ひょっとしたらロスマルトはただひとり生き残った野生の馬なのかも知れぬ。



 ロスマルトは他の獣神将と違い、ミシュガルド開拓民の街への襲撃よりも強い者との一騎打ちを好んだ。強い者を探し出しては決闘に及ぶ。ロスマルトは力だけならば右に出る者はいまい。一騎打ちならばそうとう強いはずだ。あの丙武にも勝ったという話だ。それを聞いて私もついふっかけてみたくなった。私は単身アルドバランに乗り込み、名乗りを上げる。
「やあやあ、我こそは傭兵王ゲオルク! 獣神将ロスマルトとの一騎打ちを所望す」
 アルドバランでは下僕の魔物が逐一獣神帝に情報を送っている。すぐにロスマルトの知るところとなり、鼻息を荒くさせながら駆け付けて来た。
「人間のほうから一騎打ちを仕掛けてくるとは、馬鹿なヤツ。だが面白い! 受けて立つ!」
 ロスマルトは喜びいなないて、戦斧を振り上げた。私は剣で受け止めたが、巨大な筋肉の塊から打ち下ろされる戦斧の衝撃で後ろに弾き飛ばされた。強い。ロスマルトは足早に向かってくるので、がれきにの中で倒れているわけにはいかなかった。私はがれきに手をついて受け身をとり、がれきの陰に回り込んだ。ロスマルトはがれきにつまづくことなく軽々と跳び越える。跳びすぎて私まで飛び越えたためこちらが背後をとる格好になった。死角から飛び出したはずだったが、私が一太刀入れる前にロスマルトは背中を孫の手でかくかのように戦斧で防いだ。
「かゆいかゆい。蚊の刺したほども感じぬわ」
 背中をとったが有利には働かなかった。馬の背後は危険だ。私はとっさに左へと距離をとった。すぐ脇をロスマルトの後ろ蹴りがかする。危ないところだった。馬の習性を知らなければやられていた。私は馬と傭兵の国ハイランドの王だ。戦いようはあるはずだ。
「ひとつじゃじゃ馬ならしといこうか!」
 このロスマルトにはほとんど死角がない。馬は左右の目でそれぞれ左半分右半分の大きな視野を持っているからだ。その分立体視に乏しい。
 私は遠ざかったり近づいたりして間合いを変えて斬撃を繰り出す。ロスマルトはとたんに苦境に陥ったが、見てわかるほどにイチモツが勃起していた。
 とんだ変態野郎だが、気持ちは分からなくもない。倒錯するほど興奮状態にあるのだろう。ロスマルトは落ち着こうとしているのか、戦場のただ中で目を瞑った。これを見のがす手はない。
 私はヤツの長い首に狙いを定め、聖剣で横なぎに薙いだ。
「そこだ!」
 ロスマルトは目をつむったままかわす。私が切ったのはドレッドヘアーの塊だけだった。しくじった私はすぐさま後退するがすぐに追いすがってきた。私が距離を詰めればロスマルトは下がり、私が遠のけば迫って来る。そうか、音。馬は耳も良い。音で距離感をつかむとはなんという戦闘センス。体格が良く、馬力があり、足も速い。視界が広く、耳も良い。私はそれでも負けを認めたくはなかった。
「乗りこなして見せる!」
 私はロスマルトの背中に飛びつく。強烈な右の後ろ蹴りが私を襲った。馬は走るとき右後足を後に蹴り出したら、右前足は前に投げ出す形になる習性がある。そいつを待ってた。戦斧を持つ右腕が上がり、ロスマルト右胸が無防備にさらされる。私は剣の柄で心臓を殴った。
 ロスマルトは血のような汗を流してうずくまる。勝負は決した。私はそれで満足して悠々と引き揚げる。ヤツも負けず嫌いだろうから、再戦することになるだろう。どちらかが死ぬまでこの伝記は続きそうだ。
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