トップに戻る

<< 前 次 >>

好きになってから描き手を諦めるまで/RM307(2021.10.30)

単ページ   最大化   

 新都社には、参加する前から創作経験のあった方が多いのでは無いだろうか。
 もちろん純粋な読者さん、更新された作品を読んでコメントをして作者さんや新都社に貢献されている方も多いと思うけど。

 貢献しているかどうかはともかく、かつて僕もそんな純読者の一人だった。
 絵が下手で、人物画も小学三年生の図画工作で描いたバストアップ絵が最後。難しくて苦手意識を抱き、それ以来描く事は無く、他人に見せると考えただけでも恥ずかしかった。
 文章も下手だから小説も書けない。そもそも物語を思いつけず、描きたいキャラクターも話も無かった。漫画も端から論外。
 こう言うと、「最初から良いものを作ろうとせず、ハードルを低くして……」と諭されがちなのだけど、別に名作を生み出そうと意気込んでいた訳では無く、本当に何も浮かばなかったのだ。
 数学が苦手だった人には共感してもらえるかもしれない。難解な文章題や入り組んだ図形を前にして、どこから手をつけて良いかわからず途方に暮れたあの感覚。口内や、脳内までもがからからに乾いて干上がっていくような。
 創作においても同じだった。頭の中は砂漠が広がっているだけ、手に取ってみても粒子が指の間からさらさらとこぼれ落ちるだけ。見回しても、創作の種や育む水を得られなかった。
 だから誰でも作者になれる新都社に常駐するようになっても、自分が描き手になろうとは思わなかった。ただの野球ファンがプロ野球選手を目指さないように、なれる可能性があると考えもしなかったし、作品を読んだりコメントを送ったりするだけで満足だった。
 その気持ちが変わったのは2009年6月の事。


 当時の新都社のサーバは、お昼を過ぎると外部からの異常な負荷がかかり、サイトに数時間つながらなかった。サーバ会社に連絡を取ってもメンテナンスが入っても解消されず、住民たちは我慢の日々が続いた。
 それを機に始まった、正装させた自キャラを描き、改めて新都社への感謝の気持ちを表そうという集合絵祭り「新都社感謝祭」。
 本スレの書き込みからすぐにパーティ会場の画像を作った方が現れて、筆の速い作者さんが乗っかり、あれよあれよという間に室内が埋まっていった。開催期間がたった10日間と短かったのにも関わらず、100名を超える作者さんが参加され、大いに盛り上がった。新都社のすべての祭りの中で一番参加者が多いイベントになった。
 どんどんにぎやかになっていく会場に、毎日とてもわくわくした。そして読者の方も数名オリジナルキャラで参加されていたので、次第に自分も参加したいと思うようになった。僕だって新都社を四六時中見ていて、感謝の気持ちは負けないと自負していたので。
 これが、僕が初めて描き手を目指したキッカケだった。

 しかし、絵を描く事はやはり相当高い壁だった。
 集合絵の条件である”斜め上から見下ろした人物の全身画”なんて描いた事も無く、想像もできない。そもそも人体をどう描けば良いのか皆目見当がつかなかった。ポーズは? 胴体や手足の長さは? どんな顔にすれば良い? どうすれば会場に合ったパースになる?
 絵をまったく描けない状態を想像しづらいかもしれないけど、完全な初心者には超えなければならないハードルが多すぎて、一向にかたちにならなかった。
 結局、投稿できるとは到底思えない小学校低学年レベルの人間にしかならず、途中で諦めてしまった。たくさんの魅力的なキャラクターたちが集合している中にこんなひどい絵を混ぜてもらうのは申し訳無い。参加は断念した。
 もしも今画力不足を理由にためらっている人が居たら、僕は「大事なのは巧拙じゃないよ! 気にせず参加して良いんだよ!」と本心から誘うけど、自分自身に対しては前向きに思えなかった。
 この失敗をばねにして絵を描けるようになろう! と頑張れたら良かったのだけど、幼い頃ならまだしも、ある程度年齢を重ねた人間が今から始めて描けるようになるはずが無い、何か描きたいものがあって画力が追いつかないだけならまだしも、前述の通り想像力が皆無で、描きたい表情もポーズも無く、頭を絞っても浮かばない人間が描き手にはなれないだろうと強固に思っていた。
 絵に限らず、何事も最初の一歩にはとても大きな勇気を要する。きっと手に入らない不確かな未来に踏み出す度胸は、残念ながら僕には無かった。


 新都社ほど胸が躍るきらめいた世界は他に無く、素晴らしい作品を描かれる個性的な作者さんたちにも惹かれていた。
 大好きな場所で大好きな人々が楽しそうだ、良いな、羨ましいな、僕も近くへ行きたい――けれど、すぐ目の前に見えてもそこには明確な壁が存在していて、僕は決してそちら側へは行けないと思った。
 壁なんかじゃなく、隔てているのはほんのガラス1枚だったのかもしれないけど、何も持たない僕はあまりに非力で、拳を痛めて叩き割ったり破片で傷ついたりする覚悟もできなかった。
 感謝祭以降も新都社で変わらず楽しく過ごしていたけど、創作への羨望と何も生み出せない失望はくすぶり続けた。いつしかその熱も耐えがたく感じるようになり、希求を覆い隠すようになった。もう絵を描こうとは思わない、僕には無理なのだから、と。
 たかだかネット上の小さなコミュニティで何を大げさな、と思われるかもしれないけど、僕にとっては何より大切で大きな世界だったのだ。僕もその一員になりたかった。でもなれなかった。
 その日々はとてもとても長く感じられた。





 しかし2010年2月からFAを描くようになり(ちなみに今は大好きなFAも、当初は描こうとは思っていませんでした。自分なんかの下手な絵を送りつけるのが畏れ多かったので。それでも作者さんに応援の気持ちを届けたい! と思ったエピソードが「そうだ、FAを描こう」です)、好きなキャラを描く面白さを知って絵を描く事が好きになり、2011年には漫画の作者にもなりました。人生何があるかわかりませんね!
 共感していただけたら嬉しいけど、僕と同じような経験をされた方はいらっしゃるだろうか? 良ければコメントで教えていただけますと喜びます。

 もしも今、僕のように描き手に憧れているけど無理だと悲しんでいる方がいらっしゃいましたら(居ないかな?)、諦めずに一歩踏み出して欲しいなと思います。才能も想像力も無い僕でも一応なれたので、不可能ではありませんよ!
 まぁなれたといっても僕は底辺作家だけどね! 今だって絵が下手で、構図も物語も浮かばないのが日常だし!
 それでも、何も描けないと悩んでいた頃と比べたらたくさんの喜びを経験できたので、かなり恵まれていて幸せだと思う。
 そう、本当は軽々しく勧められないほど創作は時に苦しく、この道を選んだ事を後悔した日も多かったけど、僕は幸せなはずなのだ。これからもずっとそうであって欲しい。
32

みんな 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る