増え続ける人形
マトリョシカ構造
宇宙に蓋を
その日、私は病院を散策していた
そこには恋い焦がれた彼が眠っていた
ただしくは恋い焦がれた彼の設定を持つたった今存在が確定された肉体
日の差す病室
心拍を可視化させるソレは
例の電力供給によって維持されている
彼の頰に手を当てる
コールドスリープの影響か、
その身体はひどく冷たい
私はため息をついた
するとその白い息は彼の顔の上で
凍てつき霜になり
彼の鼻先に落ちてしまったのだ
覚めぬ眠りの中で彼はどんな夢を見る
彼の夢は彼の世界、
そんな世界の所有権すらも彼は私に受け渡す
そんな妄想を彼に押し付けた
ーマトリョシカ構造に蓋をー
夢の中の彼をこの世界の上位者に割り当てることでその外側の人形の存在する可能性を消したのだ
つまり、私は神さまを殺した
私が生きるこの世界は
いま眠っている彼の妄想という物語を付け加えることで
そして今、大きな設定を持った彼に
名前をつけようーー
ーーー夢男。
わたしは彼が恋しくてたまらない
それは私が彼に思い寄せているという設定のせいだろう
それがわかっていても感情が動いてしまうのは私があくまでこの世界の登場人物であるかぎり確定された設定には逆らえないからだろう
私はカバンからメモを取り出して
彼の見る夢を妄想した
そしてそんな妄想をメモの中に、
メモの中の妄想は文という世界だった
内容は会話劇
夢の世界で彼と私が2人で世界を作っていく物語、そして合わせ鏡へ
この世界はメモの中で彼が作る物語と
設定する
これによりお互いの世界がお互いの世界を創造している関係にした
つまり外側を覗けないマトリョシカに
内側の人形と外側の人形をつなげることで下の次元から上の次元に干渉する事ができる
これにてマトリョシカ全体の可能性を収束させる
あと残る役目、
この世界の物語に残るのは1つだけ
過去の王とのコンタクトだけだ
それにて物語は終わる
この世界が閉じた後で
私は内側の人形から外側の世界に行く事で彼に会いに行けるのだ
つまり尾から頭へ
マトリョシカ構造はウロボロスの構造に変化した
ではこの世界に終幕を