第参話「人格」
あれからどれくらい経っただろう、
いやそんなに経っていないはずだ、多分。
僕の中にいる、もう一つの人格。
その凶悪さ、強さ、
色々言われたが、何一つ理解できない。
妹の写真を破られた-そこから何も覚えていない。
僕はどうしてしまったんだろう?
そんな事、考えている暇は無い。
白秋は今も黙りこくっている、僕はどうしたらいいんだろう。
そこで一つの疑問が浮かぶ、
「あの、ここの時間と現実の時間はどうなってるん・・」
「ここに時間と呼ばれるものは存在しない、なんせ精神上の世界だ」
「じゃあ、ここで『ザ・リアル』で言う『時間』がいくらたっても、
戻ったときには、行った時の時間と変わらないって事ですよね?」
「まぁそんなところだ、
しかし気をつけろ、噂では『ザ・メンタル』と『ザ・リアル』の時を
シンクロさせる能力を持った奴もいるらしい」
シンクロさせる?そんな事して何が変わるんだろう・・・
そんな事考えていても仕方ないか・・
「あの・・僕いったん現実の方へ戻ります」
「そうするといい、時間が経ってないとはいえ、
精神面は著しくダメージを受けているからな」
「え?」
「『正宗』の能力によるメンタル面への直接攻撃だ、
奴は恐ろしいぞ、その人の奥深いところにある『トラウマ』を
再現する能力を持っている。
君はそれを受けた、そして『覚醒』した」
「はぁ・・とりあえず戻るんで戻り方教えてください」
「願え」
「は?」
「『帰りたい』と思えばいつでも帰れる。
来るときは逆に『行きたい』と思えばいい」
「はぁ・・・」
願えって言われもな・・・
「帰りたい」「帰りたい」「帰りたい」「帰りたい」・・・
フッと目が覚めた、ここはどこだ?
ああ、なんだっけ?
そうバイト帰りだ。
なんか妙に疲れたな・・とりあえず帰ろう。
こっちでの時間は経ってないにしろ、色々あった。
もうこりごりだ、できれば「ザ・メンタル」へは行かない方向で承諾願いたい。
- 又連荘 -
ここでの生活は充実はしていないが気に入っている。
上京して早3ヶ月、平凡だった。
今日の出来事以外は。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえる、誰だろう。
「はい~」
ドアを開ける、目の前には全身黒ずくめのまるで烏の様な男がいた。
・・・どことなく僕と雰囲気が似ている。
「・・・12月24日を忘れるな」
「え?」
「それだけだ」
「ちょちょっと待ってくださいッ!」
追いかける。
見当たらない。
消えた?
そんなはずはない、この世に消える人なんてMr.マリックだけで十分だ。
じゃあどこに?
「ザ・メンタル」
と一瞬頭に浮かんだが、そんなはずはない。
人々の記憶・・いや遺伝子からは消されているはずだ。
・・・眠い
そんな事考えたって仕方がない、寝よう。
- ザ・メンタル -
「因果律の崩壊だけはまぬがれろ」
「白の攻撃にはこれ以上耐え切ることが出来ない、攻めるか」
「いや今攻めれば恐らく負ける、一九もまだ完成していないしな」
「しかしこのままではッ!地球上の『精神』を持つものそのものを敵に回す事になるぞ」
「ギリギリまで耐えるんだ、それしかない」
「・・・ッ」
・・・ここはどこだ?
目の前には見知らぬ人。
泣いてる。
目には強い悲しみ。
僕を睨んでる。
この人を僕は知っている。
僕、自身だ。
・・・ッ
頭が地面から離れない。
動けない、体が重い。
上から何かに乗られているよう、
重い重い重い重い重い重い重い
「・・やめてくれ」
「なんでだよ。」
「このままじゃ死んじゃう」
「いっぺん死んだ方が楽になるぜ」
「やめろッ!痛ッ・・」
「・・・」
「やめろオオオオオオオオオオオオ」
「うわッ!」
- 又連荘 -
ゆ・ゆ夢か・・・夢にしてはやけにリアルだったな
脂汗ダラダラ、涙がにじんでる。
「今・・・何時だ?」
時計の針は3時を指している。
・・・眠れないコンビニでも行こう。
靴を履き、家を出る。
この時気づいてれば良かったんだ。
僕の、『人格』に。
次回「第四話 黄昏」