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姫と将軍

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『姫と将軍』
姫「将軍! 将軍は居らんのか!」
将軍「はっ、御呼びで御座いましょうか、姫」
姫「……将軍、なにゆえそなたは天井裏に居るのだ」
将軍「失礼ながら、わたくしは姫の身辺をお守りするよう命を受けております。いつ何時、姫の御命を狙う不届き物が現れるかもわかりませぬ故」
姫「……いつもそこに居るのか?」
将軍「はっ、姫の居られる場所が、わたくしのいる場所で御座います」
姫「……せめて襖の向こうに居てはもらえぬのか?」
将軍「遺憾ながら、それは聞き入れられませぬ」
姫「……そうか。もうよい、下がれ」
将軍「はっ」



『姫と父上』
姫「父上! 将軍を天井裏によこすとは、一体どのようなお考えが!」
父「愛しい娘が四面楚歌たる状況で危機一髪の際、将軍が金城鉄壁が如く愛しい娘を守れるようにしたまでよ」
姫「しかし父上、一将軍が曲がりなりにも一国の姫である妾の寝室に入るなど、あってはならないことではないのですか!」
父「ワシが意匠惨憺の果てに行き着いた名案が間違いだと?」
姫「いえ、間違ってなど……いません……?」
父「うむ。ならば良し」
姫(なぜだろう、納得できない)



『姫と将軍――真夜中の秘め事』
将軍「姫、このような場所で何をしておるのです」
姫「頭が高いぞ! 一将軍如きが妾に話しかけようとは、無礼な!」
将軍「お言葉ですが姫、この時間にお食事をなされると、“また”着け物を新調せねばならなくなりますぞ」
姫「……っ! だ、だまれい! 何故そのようなことを貴様が知っておる! ……ええい、もういい。この事、父上には内密にな!」
将軍「御意に」
姫「むう……」




『将軍とヒメ』
姫(お、あれは将軍ではないか。……庭先で一人、何をしておるのだろう)
将軍「ははは、こやつめ。粗相も過ぎると、怒ってしまいますぞ、はっはっは」
猫「にゃー」
姫(猫と戯れておるのか。将軍と言えばどこか無粋な、融通の利かない者だと思っていたのだが……中々に博愛な部分も持っておるのだな)
猫「にゃあ」
将軍「なんと、もう帰ると申すのか。……ふむ、それならば致し方あるまい。ではな“ヒメ”、また会おうぞ」
姫(…………色々と見なかったことにしよう)



『姫と将軍――色遊戯が如く』
姫「きゃあぁぁあぁ!」
将軍「姫様、御無事でッ?」
姫「あ、ぁ、あそこ、大きな、く、蜘蛛がぁ」
将軍「おのれ虫如きの分際で姫様の御心を乱すとは、全く以って不届き千万。不肖このわたくし、命に代えても姫を御守りする覚悟が」
姫「――ところで将軍、もはや天井裏から飛び出してきたことは追求せぬ。しかしながら、妾にも越えて欲しくない一線というものがある」
将軍「……はっ、お召し物を取り替えておいででしたか。わたくしに構わず、どうか続けてくださ」
姫「出ていけという意味だ!」



『将軍とヒメ――殺意の芽はこうして芽生えた』
将軍「ヒメはまことに可愛らしい顔をしておる。うむ、今日はこのメザシを丸々一匹差し上げようではないか」
猫「にゃー」
将軍「おお、豪快な食べっぷりよ。ヒメのこのような姿を見れるとは、わたしも幸せ者よのう」
猫「にゃあ」
将軍「なんと、もう食べ終わったとな。……まだ無いのかと? ははは、そんなに食べては、“姫”のようになってしまうぞ、“ヒメ”。はっはっは」
姫(これが、殺意か)



『姫と将軍――純国産天然物』
将軍「む、わたくしに何か御用でしょうか、姫」
姫「御用というのもあれなんだが……その、どうにかならないものなのか」
将軍「どうにか、とは?」
姫「ええい、まどろっこしいことはやめだ、やめ! それというのもあの猫だ! ヒメという名前はどうなんだと聞いておるのだ!」
将軍「まことに愛くるしい名前でございます」
姫「そうじゃなくて、あぁー! 頭が痛い……」



『姫とヒメ――同語反復に紛れた可愛げ』
猫「にゃー」
姫「お前は将軍の……忘れはしない、ヒメではないか」
猫「にゃー」
姫「ふんっ、妾は将軍のように矮小な動物を愛でることなどしない。そのような愛くるしい目で見つめてもだな」
猫「にゃー」
姫「見つめても……」
猫「ごろにゃん」
姫「……ッ!」
将軍(おお……姫がヒメとお戯れに……)



『姫と将軍――終始は唐突』
将軍「姫、この場は危険です」
姫「唐突に何事だ」
将軍「どうやら敵に攻め込まれているようです。ここはわたくしに任せてもらい、姫は避難用の通路へ」
姫「将軍、お前……」
将軍「元より姫さまあってのこの命、姫様を守るために死ぬのならば、それもまた一つを成し遂げたことになりましょう」
姫「将軍……!」
将軍「さぁ、時間がありませんぞ。早くお逃げになって――」
敵兵「――居たぞォー! あそこだ!」
将軍「くっ、不肖ながらも将軍の位を授け賜ったわたくし、命に代えても姫様をお守りする覚悟!」
姫「生き延びろ」
将軍「姫……」
姫「……で、この三文芝居はいつまで続ければよいのだ。鬼ごっこなどという児戯に妾を巻き込まないでほしいのだが」
将軍「大丈夫です、もう終わりを迎えました」


おわ
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