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2ちゃんねる閉鎖騒動のときに書いた

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 インターネッツ……それは、あらゆる可能性が存在する場所。ある者は新たな生命を生み出し、またある者は破壊を繰り返す。
 その、無限に広がる世界で、また今日も一つの物語が紡がれる……。




『2ちゃんねる閉鎖騒動のときに書いた』





 一歩、また一歩、男が物思いに耽りながら足を進める。永遠に続くかと思われた螺旋階段を上りきり、その男が円形に象られた頂上で、円の中心に立ち尽くすAAを見据えた。
37, 36

  


「とうとう、来たかお」
「――内藤ッ! もう止めるんだ、お前がそんなことをしても、2chは救われない!」
「詭弁だお。何もしなかったVIPPERがこの僕を責めることなんて、出来るはずがないお」

 2ch、この世界が終わりを迎えるまであと3600秒。……空間に綻びが生まれ、一つの次元は終焉を迎えようとしていた。
 その全次元を司る塔、頂上に男が二人。……一人は人類とは違った生まれ方をしたAA《アスキーアート》。そのAAを見つめる人物、VIPPER。故郷を同じくした二人が、視線と殺気をぶつける。

「もうすぐこの世界が終わるお。……でも、僕はそんなこと許さないんだお。この塔を破壊して世界を混沌で満たせば、消滅はまぬがれるんだお」

 塔の頂上……二人の頭上に浮かぶコア、それこそがこの塔の中枢部。これが破壊されれば塔の自滅機能、世界のアポトーシスは回避される。それと同時にこの世は混沌に包まれ、また違った終わりを迎えるのだろう。
 AAの言葉を聞いた男は、表情をさらに渋く変えながら叫ぶ。

「だからって、お前がやることはないだろう! 確かにこの世界は消えない、お前の言うとおり消滅はまぬがれるだろうよ。……でも、その後の世界でお前は生きられないじゃないか!」
「……わかっているお」

 2chから生まれでたAA。塔によってこの世界《2ch》が成っているからには、塔が無くなれば2chではない。結果、AA達はその存在を許されない。
 限りなく情報化された世界で、これは避けられない事実だった。

「VIPPERのみんなに可愛がってもらったのは否定しないお。あの頃は本当に幸せだったんだお」
「内藤、ホライゾン……」

 あと1800秒。次々と塔に統括されている次元が消えてゆく。コアの周辺に浮かび上がる《404_not_found》のウィンドウ。世界が確実に滅びていく中、二人は各々の決心を固める。

「お前がそこまで言うなら、俺も手伝おうと思った。別に俺は終末思想に則って生きてきたわけじゃないからな。……だけど、だからこそ内藤、世界が混沌に包まれるのを黙って見ているわけにはいかない」
「なら僕を消すのかお? 平和な日々の中で一緒にブーンをしていた僕を」
「一緒にいたからこそ、俺がお前を止めてみせる。……URL《対象》、――内藤ホライゾン。田代砲……発射《バースト》……ッ!」

 VIPPERの手に握られていた拳銃を象っているそれこそが田代砲。対象となるURLを指定し、許容量の以上の情報屑を送り込むことによって消滅させる武器。
 情報化されたこの世界に於いて最も効果的な武器と言えるそれは、AAに対しても絶大な威力を発揮する。

「ブ――――ン!」
「なっ」

 対象――消失。存在そのものを表すURLを指定する田代砲を以ってしても、内藤ホライゾンの高速移動《ブーン》を捉えることは出来なかった。
 時間にして刹那、瞬時にVIPPERの背後に回った内藤が一瞬、物悲しい顔をする。

「出来れば、僕の事をおぼえていてくれるために生きていて欲しかったお。……でも、僕だって止めるわけにはいかないんだお!!」

 ゴッ、と鈍い音と共にVIPPERの体躯が宙に舞う。腹部に対しての直接攻撃《ダイレクトアタック》。AAは普通ならば実体を持つ人間に触れることが出来ない。しかし、謀らずとも崩壊に向かう世界の所為でそれが可能となっていた。
 強烈な打撃を受けながらも、VIPPERは立ち上がる。
 この世界《2ch》では情報密度が単純な強さとなる。その情報密度が低い人間にとって、情報の塊であるAAの一撃は必死。……しかし彼、VIPPERは立ち上がった。それが執念なのか渇望なのか、ある種の狂喜をも感じさせる。
 内藤はそんな彼を見て驚いていた。この一撃で終わらせるという思いで放った自身の拳は、肉体的にも精神的にも重くないはずがない。

「なんで、立てるんだお」
「人間はお前らAAが思うほどひ弱じゃないんだよ……ペッ」

 吐き出されたのは血反吐。強気なことを言っている口に反し、体は確かに傷を負っていた。

「さぁ来い、内藤。お前の拳がどれだけ軽いか、俺が自分を以って証明してやるッ!」

 立ったまま大の字になり、内藤に対して挑発を言い放つVIPPER。その挑発は傍から見ても見え透いたもので、しかし、内藤は思う。この男に対して、本当に自分の拳は効いているのか、と。

「田代砲は僕に当たらないのだから、もう君に勝てる要素は無いお。なのに、まだ続けるのかお?」
「お前の攻撃が効かなきゃ、それこそお前だって勝てないぜ」
「……っ! なら、望みどおりもう一度いくお! ブ――――ン!!」

 確かに強気。VIPPERの体はもう一度内藤の拳を耐え切ることは出来ない。それほどまでに最初の一撃は重かった。……しかし。

「――やっぱり、避けないのかお」
「ガ、ふっ…………避けれるわけ、ないだろうが……お前は、速すぎるんだよ……」

 深く、突き抜けるほどに捻り込まれた拳は、VIPPERの生命活動を停止させるのに十分な一撃と言えた。
 終わった。内藤は思う。


「お……?」

 カチャ、と。不意に、内藤の腹部に硬い物が押し付けられた。
 ――田代砲。殺意も何も無しに自身に押し付けられた絶対的な死。瞬時にVIPPERから離れる……が、離れない。どこからそんな力が出ているのか、VIPPERが体にしがみついていた。それはもう満身創痍、足をも使っての食い付き。
 高速移動を以ってしても、VIPPERは頑なにしがみ付き。

「逃がさ、ねぇぞ……URL《対象》ぐ、…………内藤、ホライゾン」
「――――ヴィ、ヴィッパァァァァァッ!!」

 引き金が、引かれた。




 かくして、世界が終わることはなかった。世界は終わることもなく、混沌に包まれることもなく。
 まだ、世界は続いている。
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