ブラジル産鳥モモ肉は今日も照り焼きの夢を見る
夕焼け小焼けで何のその。淡々とした夕食の献立に今、救世主が現れようとしている。それというのも私が今スーパーに居り、精肉売り場に突っ立っているからこそなのだが。
さあさあお立会い。私の目の前には国産鳥モモ肉と、照り焼き汁にまみれたブラジル産鳥モモ肉がある。
そもそもの話、モモ肉は高い。正直言って、庶民である私には今日に限って100g88円で安売りされている鳥胸肉がお似合いだ。なのに、私は猛烈に鳥モモ肉を使用した野菜たっぷり中華スープを作りたい。もとい食べたい。
そして目の前には照り焼き汁に塗れたブラジル産鳥モモ肉と普通の国産鳥モモ肉。モモ肉という言葉がゲシュタルト崩壊しそうな勢いだが、私は自身に問いかける。正直言って、照り焼きも捨てがたい、と。
モモ肉というのは脂肪が多く、焼けばそれはもう素晴らしくジュウシイなものとなる。しかも日本人のほとんどが美味いと感じる照り焼き。甘辛く味付けられた肉は、醤油の風味があるお陰で多少脂が強くとも、見事に平らげることが出来る。多少値とカロリーが張っても、私の胃は収まることを知らない。
だがしかし考えてみて欲しい。さっぱり塩味トマト風味の鳥モモ肉入り野菜スープのことを。私はこれが大好物だ。最初にトマトを丸々大鍋にぶっ込み、トマトのエキスを取る。
ここで白状するが、私は料理の本なんて読んだことがない。詰まる話が全て我流。美味けりゃいい主義というやつだ。だからこそトマトのエキスなんていう表現を使ってしまうのだが、それは置いといて。
トマトのエキス。それが十二分に沸騰した湯の中に染み渡ればこちらのもの。煮詰めている間に切っておいた鳥モモ肉を入れ、また少しの間煮込む。こうすることによって、普通ならば脂っこい鳥モモ肉が素晴らしきトマトのお陰でさっぱりとした味になるのだ。そうして煮込んだ後、太めに切った玉ねぎとえのき、お好みでベビーコーン、もう野菜だらけにしたい場合はニンジンとブロッコリー、さらにはジャガイモを入れる。これだけ入れると火の通りが悪くなるのだが、そこで我が家の素晴らしき圧力鍋。こいつを適度に使うことで、最後の方に入れたジャガイモは口の中で柔らかく崩れる至高のジャガイモとなる。さあ最後は好みの塩加減になるまで塩を入れるだけだ。ここで固形ブイヨン、中華スープのもとを入れても美味い。さらに卵を入れることによりボリューム感が増す。そして食う際は炊き立ての白米の上にぶっかける。最高だ。
ここまで考えておいて、私は照り焼きの魔力に勝てずにいる。むしろ、両方を買って野菜スープと照り焼き、熱々の白米、家にある浅漬けのキュウリを添えた夕食も素晴らしいと感じる。さあどうする。
私は自分の財布を確認。残金は1500円。足りる、これならば足りる。野菜スープは余ればそこにカレールーを投入することにより、カレー化させることも出来るのだ。実にリーズナブル。懐に優しい。……だが待って欲しい。
確かに夕食というのは魅力的だ。一日を締めくくる重大な儀式だ。だが、私は他に金を使うことがあったような気がする。そう、ゲームだ。私はオブリビオンが欲しいと常々思っていたではないか。
従来の日本産RPGには無い自由度。主観視点を取り入れることにより、ロールを演じるという行為を極限まで高めたゲーム。そこにキャラの意思は無い。あるのはAIを搭載した動き回るNPCと、広大な美しいマップ。そして、私自身。
次世代機による圧倒的なグラフィック、戦闘はアクションにより飽きにくく。ああ、素晴らしい。想像するだけで白米二杯はいける。
さあさあお立会い。私の目の前には国産鳥モモ肉と、照り焼き汁にまみれたブラジル産鳥モモ肉がある。さらには頭の中にオブリビオンXbox360版がある。そして、財布の中身は1500円。家には5000円。
――私は、迷わず18円の豆腐を三丁買った。