ある男の告白
ある男の告白
「ある一人の男が居た。その男は内気で、陰気で、“一言目には~”の一言すら言わないほどの無口で。
印象があまりよろしくない、平たく言ってしまえば暗い男が居たのだ」
「しかし、そんな男にも淡い恋心が芽生えました。学業を共にする女に、一目惚れをしてしまったのです」
二つの声。
「恋とは言えども、やはりと言うか暗い男。能動的に想いを伝えるなど、出来るはずもなかったのだ」
「されど恋。周りだけを否定しながら生きてきた男は、初めて否定できない存在に会い、考える。
初めて男は自分自身を見つめ、そして嫌悪しました。自分はなんて嫌な存在なのだろう、と」
「男は悩む。嫌悪すべき自身を認め、改めるべき自分を見据え、伝えるべき思いをどの様にして伝えるか」
二人きり。
「確かに暗い男でも、趣味と呼べるものは存在していました。
皮肉にも自身と正反対である活動をしていたのです」
「延々と考えた末に辿り着いた“それ”は、自分が考えたにしても上手いものだと男は思う。
彼女もまた、謀らずとも同じ活動をしており、考えれば考えるほど良い案に思えてきたのだ」
「けれども、男はまたも悩み始める。はたして、自分は彼女を目の前にして、口を開けるのだろうか。
“自信”という壁を前にして、男は果ての見えない考えに嵌まりました」
向い合い。
「そして迎えた行動の日。男は依然として悩み、答えを見出せずにいた。
通り過ぎる時間と、見えてくる時間。焦燥感ばかりが募り、自虐的な答えしか浮かばず」
「それでも予定の時間は確実に姿を見せていて、ふと気がつけば、手を握り締める自分と約束の場所。
扉を開けて、彼女の姿が見え、そして、男は今になって“結論”へと到りました」
男は。
「答えなんて在るはずがないのだ」
「自己完結、自己満足。傍から見れば思考の停止に見えたとしても。
男は、いつになく晴れ晴れとした表情で、こちらへ振り返る彼女に台本を渡した」
告白した。
おわり