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FT:俺の考えてることを童話にしてみた

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FT:俺の考えてることを童話にしてみた



「さァー!! 突然やってまいりました、第一回“最近読んだ文藝作品にFTを贈ろう大会”! 司会は俺こと俺がお送りいたします!」

 夜の帳が落ちきった頃、暗い自室でニヤつきながらキーボードを激しく叩く男が一人。

「わたし唐突に現れた俺先生の脳内に住んでるおんなのこだけど、FTってなんですか」
「よくぞ聞いてくれた、俺すら把握出来ていない唐突に現れた俺先生の脳内に住んでる女の子!! 名前長いから女って呼ぶわ。それはともかくとして、FTとはつまりFun Text! ファンテキストだ!! 絵が描けないブルーな文藝作家でも、あの憧れの作家さんに期待しているという気持ちを伝えられるよう、俺が考えた!!」
「誰でも思いつきそうなことだけれど、確かにFTなんてのは見かけないね。で、そのFTがなんでこんな展開になっているの?」
「あわよくばシリーズ化させようみたいな俺の本心が浮き出てるけどね、それは無視して欲しいんだよね、そうなんだよね。そんなわけで、今回は人気急上昇中のこの作品、“俺の考えてることを童話にしてみた”だッ!」

 “だッ!”に合わせてPC画面の前に座る男の体がビクッと痙攣するが、そんなことはどうでもいい。現実では確かに目を背けたくなるような光景だが、この作品内では輝いているのだから。

「とは言ったものの、FTって具体的にはなんなのさ、って思う人も少なからず居るはずだ。俺もそう思ってるもんね」
「だめじゃん」
「だからこそ、今から書き始めるものがFTっぽい物なんだよみたいな感じで。俺の脳内では、なんだろう、二次創作っぽい感じになればいいんじゃない、みたいな!! まあ、あまり前口上が長いのもアレだし、早速書いてみようか!!」
「わたし女だけど、わたしって居なくても一緒なんじゃねって思った」







 あるところに、男に恋した女が居ました。正確には、男の“右手”に恋した女。けれでも、女の恋はロリっ子小学生によって阻止されてしまったのです。
 うるさく捲くし立てる男はどうでもいいと思いましたが、その“右手”のことを思うだけで、今でも胸が苦しくなると言う女。
 女は確かに人とは違った感性の持ち主でした。しかし、女にその自覚がありません。……見ようによっては、至極純粋な恋愛感情。
「何故、私が愛した“人”は振り向いてくれないのでしょう。自分でも独占欲が強い方だとは自覚していますが……」
 そう、それは至極純粋な恋愛感情。けれど、女が意中の人と結ばれることはないでしょう。

 “右手”に恋し、それが潰えた日から数日経った頃。
 昼間から挙動不審な様子でふらふらと歩く女の耳に、賑やかな音が聞こえてきた。どこからだろうと周りを見渡すと、右手の方に学校が見える。校門に視線を移せば、『学園祭』の文字。
 賑やかな場所は好きではないのだが、人が多いということは新しい恋が見つかるかもしれない、と。女はそんなことを考え、気が付けば、学校の方へと歩を進めていた。




「……ごめんなさい。いや、マジで俺、そういうのには興味無いから」
 学園祭で校内が賑わう中、俺は体育館裏という王道ド真ん中な場所で告白されていた。
 断りはしたが、相手の見た目に不満があるわけじゃない。さらさらとしたショートヘアーに、整った顔つき。抱くと壊れてしまいそうだと思えるくらいに華奢な体つきは、守ってあげたいという気持ちすら湧き上がる。
 そう、ある一点を除けば、俺に断る理由などないのだ。
「どうして……。やっぱり、僕が男の子だから……?」
「はい、全く以ってその通りです。本当にありがとうございました」
 たとえさらさらヘアーの貧乳ボクっ子だとしても、それが男だというのだから、俺はもう現実に絶望するしかなかった。

 何故こんなにもこの学校は理不尽なのだろうか。
 俺は不機嫌そうに歩調を荒くしながら、廊下を歩く。頭に浮かぶことと言えば、この需要以上に供給がありすぎると言いますか、簡潔に言ってしまえば美少年が多すぎる、ということ。そして何より、その美少年共に俺がモテまくっていることだ。
 つい先日もラブレターをもらってしまい、ぶつけようのないモヤモヤした感情を、そのラブレターを破り捨てることで発散したことは記憶に新しい。……なんで男子校なんかに来てしまったのだろうか。
 そんな青少年のひたむきな感情へ思いを馳せていたからだろう。気付けば、遅れて感じる頭の痛みと共に、俺は尻餅をついていた。
「あ、ごめん。よそ見して……て……」
「いえ……」
 ビックリした。
 いや、何にビックリしたって、目の前で俺と同じように尻餅をついている“女の子”だよ。そう、女の子なんだよ。
 この年にありがちな、声変わりしかけている変に高い声じゃない。見た目は可愛くとも、ちょっとぶつかってみると全体的に硬い感触がするわけじゃない。この女性を感じる柔らかな体つきは間違いない、あぁ、“女の子”だ。
 その答えに到った俺に、もはや理性などというブレーキは意味を成さない。脊髄反射の域で、俺は俗に言うナンパをしていた。
「ぶつかったのになンだけど、よかったら俺が学園祭、案内しようか」
「渡さない・・・・・・」
「へ?」
 いきなり何を言い出すかと思えば、女の子はこれまたいきなり、出刃包丁を取り出した。




 呆けた顔を浮かべる男を他所に、女はロングコートの内ポケットから、新聞紙に包まれた出刃包丁を取り出す。新聞紙を乱暴に外すと、男はいっそう呆けた表情を一瞬浮かべ、次に唇を震わせながら言葉を何とか紡ぐ。
「え、いや、え? 包丁とか何それ。なんか血っぽいのが付いてんだけど。いや、ごめん、なんか知らないけどごめんなさいするから、それしまってくださいお願いします」
「渡さない・・・・・・」
 女の目に映るのは目の前の男、その“左手”。表情を変えずに同じことを呟き続ける様は、どこからどうみても異常な光景。
 男も常識の中で生きてきたのだから、目の前の光景に対してウェルカムな感情は抱かない。
 気付けば辺りは驚きと恐怖の空気で満たされていた。学校の廊下、しかも学園祭。図らずとも、道行く人の視線はこの二人に集中している。
「お、おい! どうしたんだよお前、アブねえし、ちょっと離れろよ!」
 そう言って近付いてきたのは、男の友人。女のほうをチラチラと見ながら、男の“左手”を握り――。
「うおあっ!?」
 女は繋がれた手を狙い、包丁で切りつけた。







「その後、男は奇跡的に助かったという。男は心に新たな傷を刻み、女は新たな恋を捜し求め。今日も“俺の考えてることを童話にしてみた”では、物語が創られてゆく」
「――え? なにそれ? なにその終わり方。途中で切った感がビシビシと伝わってくるんだけど」
「うるせえ黙れビッチ。こう、読者に最後を考えさせるみたいな匂わせるみたいな、そんな感じの終わり方なんだよ」
「はいはいわろすわろす」

「そんなわけで、ファンテキストを書かせていただきました。一話完結型ということで、非常に読みやすく、且つ内容も面白く、と。とても楽しかったです。ノリでFTなんて書いてしまいましたが、気に入らなかったら死ねカス帰れと虐げてください」
「ところであたし脳内彼女だけど、なんか私いらなくね?」
「ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。どうみても作品レイプです、本当にありがとうございました」


つづかない
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