「ンホオォー! 尊すぎて青いゲバゲバ出そう! 青ゲバ尊死!!」
双眼鏡で三人をのぞく者がいる。
しかし双眼鏡でピントを合わせるとそこに映るのは、少年三人ではなく妖精コゥルンのケモ耳、しっぽの生えたお尻。
「オー、シット! これ以上拡大倍率が上がらない。もっと近づいてよく観察しなくては」
大きな声で独り言を言いながらズゥは木陰からひょっこり顔を出した。ずれた帽子からオレンジ髪のショートヘアがのぞいている。
四つんばいになって花咲く茂みに隠れながら、はいはいして近づいていった。半そで短パンヘソ出し探検服のせいで、あちこち虫に刺されているが動物大好きなズゥはひるまない。
「虫も動物のうち。いつか巨大動物園をつくろうと思っている動物学者はこんなことにはめげないのだ。そうだ私は今大地と一体化している! 自然の中に私がいるのではない。私の中に自然が内包されていると思え!!」
双眼鏡は飛び回る蝶に目移りしもしたが、再びコゥルンの姿を捉えた。
近づいたおかげで細部まではっきりと見える。まるで双眼鏡ごしでなく、片眼鏡ごしでなく、裸眼で見るような鮮やかさだ。
「美しい。すばらしいぞこれは。今にも手に届きそう……届いた! 奇跡だ!!」
どういうわけかズゥはコゥルンのケモ耳の生えたピンク髪の頭をガシガシなでていた。
どうしたものか急に双眼鏡からコゥルンの姿が消える。双眼鏡の反対側から緑色の両の目がのぞいていた。
妖精をのぞいているとき妖精もまたのぞいているのだ。
驚いて双眼鏡から目を離すと、三人の少年と妖精コゥルンがズゥを取り巻いていた。知らず知らず近づきすぎていたらしい。
「お姉さんはどういう人? 変質者?」
リッターが職質すると変質者は身分を明かした。
「怪シイモノジャナイデスヨ。私は動物学者のズゥ・ルマニア。動物のことならなんでも知ってるよ」
片目鏡がきらりと光る。
「僕はリッター」
「俺はケーゴ」
「俺フリオ」
「私コゥルン」
自己紹介を終えて、フリオは自分たちが解決できない無理難題を押し付けた。
「じゃあさ、あの果実を取る方法教えてよ」
「動物のことだったら分るんだけど……いやまて。さっきやってた肩車を私とコゥルンちゃんがすれば……私の肩にコゥルンちゃんのお尻が乗っかって、ふかふかの尻尾がさわさわ、ぐへへ 。あ、私が上でもいいな。私の足の間からケモ耳コゥルンちゃんの頭が……」
「おねーさん、おねーさん。全部声に出てるから。そんな邪なおねーさんには肩車はさせられないなー」
ケーゴがコゥルンに近づくズゥの前に割って入る。ズゥは尚も食い下がった。
「イヤダナー。下心なんていっさいないよ。背丈が一番高い私が肩車したら届くかもでしょ」
「それならこうしよう!」
ケーゴの提案にしたがって。一番下にズゥ、二番目にケーゴ、一番上にコゥルンが乗っかった。
ズゥが舌打ちする。
「ちょっと! これじゃコゥルンちゃんとスキンシップできないでしょ!!」
「いや、だから俺が間に入ったんだけど」
「そんなこと言ってケーゴ君、女の子の間に挟まれたいだけでしょ。やーいエッチ!」
ズゥにそんなことを言われてしまうと逆に意識してしまう。確かにコゥルンを守ろうするあまり、自分からラッキースケベ(自作自演)的なことに巻き込まれてしまった。自分の下にいる変質者には何も感じず、おねショタ不成立。だが、上にいるコゥルンのモフモフの尻尾がケーゴの首筋にあたり性癖が歪んでいく。
まずい。
「コゥルン! 早く果実を取るんだ!!」
ケーゴの呼びかけにもコゥルンは応えず、ただニコニコしていた。
それどころか尻尾をくねらせ、内股に力をこめて首をぎゅっとしめつけてくる。
今ならばわかる。おねーさんの言うことにも一理あると。
「もうダメ!!」
三人肩車はまたしても崩れた。
コゥルンのほうを見る。
妖精だからふわふわ浮いていてケガも無いようだった。
それにしても、なんでコゥルンはすぐに果実を取らなかったんだろう。そもそも飛べるならひとりで果実を取れるはずなのにコゥルンはまったく取ろうとしない。いたずらっぽく笑うだけ。
おねーさんのほうはというと、腕を組んでぶつぶつ言っている。
「同じ失敗を繰り返すなんて、これじゃ動物のほうが賢いよ。ここはひとつ万物の霊長らしく道具を使って果実をゲットだ! 私にいい考えがある!!」