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二回目の戦い

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「なんてこった、馬鹿正直に罠に引っかかっちまったよ」
 日も沈んだ学校の廊下。
 そこで俺が対峙するのは西洋の甲冑に身を包んだ敵だった。
 普通の高校に、なんとも場違いな存在だ。
 あの教室でのカオスを目の当たりにした今では、居たのが甲冑であることがマシに思える。
 ここにガンダムとか、片翼の堕天使とか居た方がおかしいしな。
「罠じゃない。私が呼び出した、お前は呼ばれた……それだけだ」
 距離は教室の一室半くらいだろう。
「見たところ、まだこの戦い始めたばかりなんだろ?」
 甲冑は何処からともなく剣を引き抜くと、それを俺に向けて構えてくる。
 戦う気まんまんってわけらしい。
 上等だ。

「クー!」
 近くに居るクーを力の限り、呼びつけ意思を流す。
「かしこまりました、あなた様」
 するとクーは瞬時に人型から液状に変わり、俺の腕に右腕に溶け込む。
 いや、溶け込むというよりもこれは、装備されたという感じに近かった。
 腕を巻くように縛る黒いジョル状の物体が、実によく馴染んでいる。
「この方が前回より精度、威力が高いです、あなた様」
 戸惑っている俺に、腕からクーの声がした。
 こうやってみると本当に、あの幼女が元は黒い塊だったんだなと思わせる。

「用意はできたみたいだな」
 甲冑は、そんな俺達の遣り取りをただじっと見ていた。
 どうやらわざわざ用意が済むまで待っていてくれたようだ。
 騎士道というのだろうか、なかなか立派な心構えである。
 開始の合図があるまで攻撃しないというらしい。
「だが残念、これは戦いだ」
 敵が構えるより前に、俺は右腕のクーを甲冑目掛けて飛ばす。
「……無粋な奴め」
 対する甲冑は、ゆっくりとした動作で剣を野球のバッターのように構えた。
 剣で迎え撃つ気らしい。
 しかし、その程度では今の俺の敵ではない。
 飛ばした感覚で分かる、攻撃は確かに前回より鋭く早い!
 向かっていくクーの操作も、まるで長くなった右腕を振るように簡単に操作できる。
 結果的に右腕を封じられるが、前回のイメージで動かすのとは違う。
 こちらの方が断然に、動かし易いものがあった。
 速攻に接近させたクーが、早くも敵のまん前にたどり着く。
 あとは前回のように、侵略の力で吸収すれば、勝てる。
「その甲冑ごと、俺色に染まれ!」
 そうして、クーは一気にその食手を広げ、敵を飲み染めんとした。

 が。
 俺の侵略能力は、一切が通らない。
 どころか、甲冑もそんな光景などものともせず、突っ込んでくる。
「な、怯まないのか!?」
 予想では、化け物に襲われることで少しは心が後ずさりすることで、心理的防御力が下がると踏んでいた。
 でも敵はそんな様子を一切見せない。
 引かない心の持ち主だ。
 俺の攻撃は、確かに通った。
 しかし、だからなんだというのだろう。
 甲冑に纏わりつき侵略を始めたクーは一切、進入ができないようだった。
 絶対無敵の装甲と信じられている甲冑は、拡散させた範囲浸食には余りにも厚すぎたのだ。
 邪気眼使いの癖に、見た目が地味だと思ったら……力を防御に回しているとは!

「……これが攻撃か?」
 呆然と敵を観察している俺の目の前には、何時の間にか甲冑の姿。
 こいつ、甲冑の癖になんて足の速さだ。
「必殺・セイントブレード!」
 思いっきり中二病丸出しなネーミングと共に、淡く光り輝く剣が俺の体を薙ぐ。
「っぶふぅ」
 上段からの振り下ろしの一閃に、俺の体は肩口からざっくり切り裂かれてしまった。
 切られたという意識が、幻覚なんだろうが……脳に激痛を送る。
 それでも俺が死なないのは、これが妄想の痛みだと自覚しているからなのか。
 服だって裂けてないし。
「おい、服が切れないぞ!」
 すぐにこの矛盾を指摘すると、自然と痛みが引いていく。

「当然だ。我が聖なる剣は肉体だけを切りつけるからな!」
 そう返すか!
「ぐあああああ、いてぇ」
 痛みがぶり返した。
「続いて、クルセイドブレイド!」
 単純に追撃の剣でも技を叫んで攻撃してくる辺りで、俺にも余裕が戻ってくる。
「クー!!」
 声に意識を乗せ、クーに命令を伝える。
 その内容とは――!
「ぐっふ」
 より、リアルに近い打撃の痛みが腹部を襲う。
 だがこれで良い、これがベストなのだ!
 なにせ、俺の体をクーに全力で突撃させて、後方へ吹き飛んだのだから。
 そのおかげで、相手からの追撃を回避できたし十分な距離もとれた。
 ただその反動に、なかなか痛いのを腹に叩きこまれたが。

「自分の『邪気眼』に攻撃させて緊急回避とは……考えたな」
 そら伊達にJOJO好きじゃないからだ。
「ぅ、痛いのが玉に瑕だがな」
 気づけば切られた所から血が滲んできている。
 自己暗示による傷害、肉体と意識のズレを無くすための作用か。
 改めて思うと、アレが本当の剣であったならすでに勝負はついていた。
 何せ本当の剣であったなら、回避する前に本来のこれ以上だろう痛みに思考は完全に空っぽだったろうし。
 出血もこれ以上で、体の方だってもっと動かなかっただろう。
 正直、目の前の敵は想像以上に強い。
 あの攻撃を通しそうにない甲冑の護りにおいて、守備面は最高。
 分かり易い破壊のイメージである剣は、その威力を否応にも想像させる。
 しかし、切り傷は経験のある打撃以下の威力になってしまうのが斬撃の難点だろう。
 強く切り刻まれた経験がある人にとっては、とても痛いだろうけどさ。

「さて、と」
 反転してこちらの力を検討する。
 こっちにある武器は、侵略して吸収する邪気眼の触手。
 前の敵は質量的に侵略のし易いものであったが、目の前のはどうにも違う。
 外部からの干渉を受け付けない、それが甲冑に練り込まれているような気がした。
 相手を受け入れない鎧で武装して、弾劾するための剣を持っている。
 なんて相手だよ、俺には鎧を壊すほどの攻撃力も、剣をいなすほどの防御力もない。
 それなら、どうにもできないじゃないか。
「あなた様」
 懸念して掠れる希望に絶望が占め始めた時、クーの声が俺を呼ぶ。
「あなた様の力は浸食、蓄え、支配するモノです」
 呼びかける声は何時もの、本当に何時もの声だった。
 だったが、その芯には俺を大きく励ましてくれる何かがあった。
「意味は、すでに理解できているはずです……あなた様の力ですから」
 クーはそれ以上喋ることがないと思ってか、沈黙する。
 俺の力の意味を、俺が理解できていると言った。
 力の、意味。
 その自問を客観的に観測した時、時は動き出す。

「――分かった」
 直感的に、何かが頭の中に流れ込んでくる感覚があった。
 自分の体を確認すると、仕掛けるには十二分の余力は残っている。
 それが分かったなら、次は対象を視界に捉える。
「来るか?」
 甲冑は剣を構え直し、迎撃の形に入る。
「いくぞ、反撃の始まりだ!」
「やれるものなら、やってみろッ!」
 俺は、ただそれに向けて愚直なまでに、突撃した。
 両腕で風を切り、両足は徐々に体を加速させる。
 そして。

「セイントセイバー!!」
 淡い光を纏った甲冑の一撃が放たれた。
「ここだ!」
 この時、ヤツは無防備になり、体中の、まさに隙がアラワになる。
 その隙こそ、間接――甲冑で覆いきれない急所である。
「発動――」
 しかし普通ではそれを弱点として成立させるには、用途に適した武器でなくては意味が無い。
 攻撃のカウンターとして打ち出す技なのだから尚更威力が求めらる。
 一見して、俺は有効打を持っていない。
 だが、つい先日手に入れたのだ。
「多岐眼!」
 幾つにも枝分かれする刃が、クーの姿を借りて出現する。
 そう、これこそが俺の力。
 侵略とは喰らい、己がモノへと支配させる力だ。
 そうして俺のモノになった多岐眼は、見事に敵の甲冑の隙間を狙い襲ってくれた。
「な!?」
 甲冑は突然の能力の発動に、確かに怯んだ。
 振り下ろそうとした攻撃も内側に入ってくる攻撃を前に、止められる。
 攻撃に対して、心が下がってしまった。
 敗因としてはそれで十分であり、それで上等だろう。
「串刺しだ」
 合図を貰った多岐眼の鋭い触手は、一斉に成長を開始し――甲冑の肌を内側から食い破っていく。
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「あああああああああああああああ」
 甲冑は、その鎧の中で悲鳴を木霊させる。
 内側から神経をズタズタにされるような感覚だろうか?
 体を間接から食いつぶされていくのだから、たぶんそんな痛みなのだろう。
 実際のところは、文字通り想像にお任せするしかない。
「クー」
 多岐眼へと変化していたクーを呼び戻すと。
「食事の時間だ。残さずたべろよ」
 ゆっくりとした声で、残酷な命令をする。
 これにクーは素直に頷くと、痛みでその場にぐったりと膝をつく甲冑を捕食し始めた。
 甲冑に抵抗する気力も術はないようで、終わりはあっけないものとなる。
「告白だと思ったのに、騙した罰だ」
 鎧をバリバリと食べ続けるクーを見ながら、俺はそう呟いた。


 フリーバトル
 『侵略 対 甲冑』……勝者、侵略の内藤。
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