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2月

数年前に患っていた、書かざるを得ない病気がまた再発したらしい。
あの後僕は入院していたし、その後は日経が3万円を超えたり、そのせいで夕立屋が廃業したりと踏んだり蹴ったりだ。
どろどろとしたベッドの横のナニかと寝ていると、髪はぐちゃぐちゃになるし、窓からゲロを吐くとずっと下の通路にいる物乞いが嫌な顔をする。
たまに空を見れば億千の星と変な魚。
誰かがデッドフィッシュとか、クリスタルフィッシュって言ったやつ。
とりあえず僕はお酒を飲みながら、延々鳴っている遮断機のサイレンに文句をつける。
世界のみんなは今マスクをしている。
コロナとかいう変な風邪みたいなのが、世界中で流行ってるかららしい。
僕はずっと前からマスクをしていた。特別ごっついやつを。
それをしている間は僕は世界から遮断されて、誰でもなくなっていた気がする。
今は誰も垣根がないから、僕も普通のマスク。
でも、マスクをしながらお酒を飲むのは実は大変で。
どうしてかというと、当然マスクをずらす必要があるからだけど、それをすると滅茶苦茶注目を浴びるのだ。
これは竜が変なガスを出していた時にもなかった事だ。
「あの時の方が良かった」なんて老人は言うけど、あの時はあの時で、ガスで目が見えなくなったり声が出なくなったりひどかったらしい。
結果的に今の方が多分マシだろうと思う。
とにかく、今日も無電バスの中は大変だってことだ。
3, 2
数年前にここ(新都社)に日記を書いていた時は、どんな名前を使っていただろうか?
思い出せなかったので、適当にタブレットをポチリポチリとやっていたら「わこう」って名前が目についたので、とりあえず今の僕の名前はわこうだ。
当時は「なんだか中島らもみたい」とか「ブコウスキーみたい」とか、そんな感想を貰っていた気がする。
でも、ただ気がするだけで、そんな感想なんて貰ってなかったのかもしれない。
僕の頭はアルコールと、煙草と、変な薬と、瘴気と、排気ガスと、錆びた水道管の変な水でぐちゃぐちゃで、あんまり何もできないし。
この街では面白いことなんて特になにもないけど、外の街では違うらしい。
魔法使いが爆弾で自殺したり、召喚士が意味もなく床に変な穴を開けたり、とか。
だから僕が面白くしてやろうか、なんて思ったりもするけど、そんなチカラがあったら別の街にもう行ってるはずだ。
結局のところ、面白いことなんて特になにもないから、今日もホコリ混じりのゲロを吐く。
嘔吐するのは僕の得意技だ。一日何回しているだろう? 数えたことはないけど、帝都のマリアにも負けてないはずだ。
でも、路面鉄道に乗ってる時に吐くと他の人たちがすごく嫌な顔をする。だから極力やらないようにしている。
そんなわけで僕は、鉄道に乗る前はなるだけ錆味のウォッカを飲んでおいて、嘔吐してから乗るようにしている。
なるだけ高いところからゲロを吐くと、たまに虹ができて面白い。この能力があれば、今でも雨乞い屋になれるかもしれない、なんて思う。雨乞い屋なんて何十年も前の仕事だけど。
僕が子供の頃は無電電車も路面鉄道もなくって、背負い屋が人を運んでいた。何キロもぴゅんと飛んでいく彼らは一種の見もので、子供心に面白いなあ、なんて思っていた。
だけど科学の誕生で全てが変わった。今やソビエトに行くのも5分くらいだ。それでも街と街の距離はそれ以上に遠い。
これから僕はどうすればいいんだろうか?
5, 4
さっき通り過ぎていったダンゴムシが「ボクは石の下にいるけどキミも自分も部屋にいつもいるね」って言っていた。
ヒトに迷惑かけていないんだし、生きていてもいいじゃないかって思うんだけど、世間ってヤツはそれを許さないらしい。
生きていること自体が災厄でうんぬんかんぬんなんて言った哲学者がいた。ミラン・クンデラか誰かだったと思う。
僕が思うに、存在なんてのは存在に対する存在に対しての戦いだ。難しく言うと、現存在というのは本質的に世界内存在として存在し、間主観的に他の現存在にたいしてうんぬんかんぬん。
簡単に言うと、ヒトとヒトとは迷惑を掛け合わないと生きていけない。それはヒト以外も同様で、ムシさんとかお水とか海とかゴミとか魔晄とかパソコンとかサビとか何に対しても同様だろう。
だからって無闇な振る舞いをして、他者に迷惑をかけてもいいってワケじゃあない。そのへんくらいはわきまえるのが人間ってヤツだ。
近頃廃業を予定していた知り合いの独書屋が、今日の日経の暴落の影響で売上が伸びて一生遊んで暮らせるようになったらしい。人生何があるかわからないものだ。
一方で僕は消毒用アルコールを飲んで不満のウサ晴らし。こんなことしたって何も変わるワケじゃないけど、何かを変えるために、何かを待つために飲むんだろう。
お酒は飲んでる間は幸せだけど、その後がとてもひどくなる。ただ僕は、二日酔いこそがお酒の華だと思っているフシがある。
二日酔いは最悪だ。絶対に次からは飲まないようにしよう、なんて思うんだけど、頭痛と吐き気をガマンして、吐いたあとはスッキリしてまた飲んじゃう。僕は大馬鹿なのか?
その繰り返しを経て、今の僕がここにいる。大馬鹿な。
朝酒を繰り返して、ついでに昼酒も飲んで、夜酒も飲む。体にイイわけはないけど、精神は高揚してくる。僕が大好きな小説からの引用。

『ひんやりとした空気の中を突っ切る。僕にしては珍しく、体に力が溢れている。まずコンビニへ入ると酒を購入。ワイン、ビール、ウイスキー、それからコーラを買うのも忘れなかった。コンビニの駐車場で早くも飲み始める。チェイサー代わりのコーラでガブ飲みだ。もっとだな。精神にオーバードライブをかける必要がある。』

そう、精神にオーバードライブをかけるんだ。とろけるような夜の中をぬかるみに逆らって走れるくらいに。
電飾の美しい光に溢れた街をすべて真っ黒に染め上げられるような。
ねじれた朝日の中で動けるように。
7, 6
目が覚めただけで何もやることはないけれど、書くことくらいはできる。起き上がる気力はないけど、近年の科学の発達で枕元にはタブレットがある。何かを考えるだけでそのまま文章にしてくれるんだからとっても便利。果たしてこれは本当に書いてるのか、って疑念は放っておこう。
僕が子供の頃はまだ魔法が盛んだった。よく空き地に行くと浮浪者の魔法使いが朧げにビルを生やしていた。懐かしいけど、今だと迷惑だなあ、なんて思う。
そういえば昔は、五月雨屋か想念屋に僕はなりたかったはずだ。あの頃は純粋で、今はそんな気力ももうないけれど。
ただ最近、「黒い囲いの羊」とか名乗ってる掃除屋に、空のどろどろを溶かす仕事しないか、なんて誘われてる。空のどろどろを溶かすのは結構だけど、それしたら落ちてくるんじゃねえの、だから誰も見て見ないフリしてたと思うんだけど、なんて考える。
だけど、お金が入ってお酒が飲めるんならいいような気もする。空のどろどろが地面のどろどろになったって、誰も気にしないだろうし。
今日は久々にシラフで起きている。お金がなくてお酒が買えないのと、お酒を買いに行くのすら億劫なくらい動くのが面倒くさいから。
とりあえず布団の中で丸まって、やる気が出るのを待って起き上がるつもりだけど、朝の4時からこうしてる。たぶん今日は一日動けないんじゃないだろうか。こうして携帯液晶を付ける気力が湧いたのがついさっきの事だし。
ただ、そろそろ吐き気もしてきたし、起きるしかないかもしれない。僕の言うことなんてすぐ翻る。窓から吐瀉物を落として、通路のホームレスに嫌がらせをして、喧嘩をふっかけて、無理やりやる気を出すんだ。そうしようか。
9, 8

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