VOL.6 哀れ、いたいけな少女
幼さの残る微かに桃色の頬が幾度となく左右に揺れる。強烈な張り手で殴打されるたび、若葉は苦悶に表情を変え、眼鏡がずるりと垂れ下がる。スクール水着姿の少女は、相変わらず結束バンドで後ろ手に結わかれたままだ。無防備無抵抗の小学生女児へのリンチが幕を開けてしまう。
「おらおらおらアァ――—ッ!!」
喜び勇んで、この美少女をいたぶる二人の男。その素性についても明らかにしておこう。一人はコバヤシ、30代半ばの派遣社員にしてネットカフェ難民。柳原が起こした暴走事故当日、車がバックで激突したネットカフェに滞在していた。直接的な被害にこそ遭わなかったものの、ネット世論信望者の彼は上級国民柳原の断罪を求めて決起したわけだ。もう一人は、イチハシ。それなりに金持ちの出身階層に生まれたが、劣等感が強い。医者の長男として生まれながら、学業的な才覚に恵まれなかったことに加え、女性に強い嫌悪感、いや、劣等感を抱いた過去がある。親から落伍者として扱われ、すさんだ日々を送る彼もまた、日雇い労働者として事故当時はネットカフェにいた。二人にとって、人生を謳歌する若葉は憎悪かつ、支配下に置くことの悦びに満ち溢れた標的だった。
「うぅ…」
スクール水着姿の快活だった美少女は、男二人からの暴挙に晒されその身を床に投げ出された時には、既に年齢相応の生意気さも気丈さも失われていた。
「よし、その辺で好いだろう」
二人を煽った男は少女に対するリンチを制止した。暴力に晒せば、少女の生意気な態度が委縮することを計算づくの様子だ。だからと言って若葉に対する制裁自体を止める気はさらさらない。コレは革命なのだ、闘いなのだという信念があることが、単に世捨て人と化し、‘無敵の人’であることを理由に、欲望を満たさんとする二人とは立ち位置が異なった。それだけに彼の命令はなかなか残酷なものとなる…。
SMホテルだったこの廃屋にはそれなりに如何わしさが漂う。かなりのハード・マニア向けと思わしき、回転する星形の磔台が壁に備え付けられているのを見つめ卑しく笑う彼ら。それを用いて若葉に残酷な処遇を目論んだのだ。
「い、いや…な、なんで縛るの…う、動けない…」
ベルト式拘束具で手首足首を縛められ、四肢を目一杯広げられた若葉の肢体は、壁面に無残な大の字磔絵図を描く。
「ハハハ、あたりめえだろ、若葉ちゃんよ。いいねえ、時代が時代ならお前みたいな悪人の孫娘は、処刑されて当然なんだからさ。江戸時代の罪人よろしくスク水で磔んて、最高だねえ」
コバヤシはかなりのロリコンのケがある様子で若葉への『処刑』を心から愉しんでいる。一方のイチハシは声を震わすほどに、極度の興奮を覚えている様子で、12歳にしていわば極刑に晒された美少女を直視できないほどに動揺している。いずれにせよ、二人が逸脱した性癖を有していることに変わりはなく、暴挙への歯止めはかかりそうになかった。それはどういうことか————。