1・不人気作家オフ会に行く
18時30分。
新都社の大規模オフ会の会場、『居酒屋いち丸』に僕はたどり着いた。
オフ会主催者の一堂一丸先生が経営しているお店だ。
「作家も読者も飛び入り参加OK!誰でも気楽に参加しようぜ!」と告知にあったものの、最後まで参加するかどうか迷ってしまい30分遅れになってしまった。
ガラガラ
お店の戸を開ける。
するとカウンターの中で割烹着姿の人が
「ぃらっしゃい、新都社オフ会参加の方?」と調理をしながら笑顔で尋ねる。
きっと一堂先生なのだろう僕は、はいと答えた。
「会場は二階だよ。空いた席に座ってね」と一堂先生に促され座敷に上がる。
座敷には4つほどのテーブルの島があり、各テーブルに数人ずつ座っている。
「こっちどうぞ」の声に誘われて、僕はお辞儀をして空いている席に座った。
隣はどちらも女性で、左隣は巨乳ほんわか系、右隣は標準乳ながらも色気たっぷり系。
もう場は暖まっている。
「どうも今晩は~」と右隣から挨拶を受ける。「ヤングで『ゲリベンうどん』を連載しているオマーン国債です」
僕は
「え! あ、ども。オマーン国債先生って女性だったんですか!あんなお下劣ギャグの作者さんがこんな美人!?」とビックリして言った。
「いや~正直にありがとう。嬉しいな、読んでくれてるんだ!」
「はい、そりゃもう。ヤングの看板作品ですから!」
「新都社だと本当の自分をさらけ出せれるつーか、表現のギリまで攻められるからついやり過ぎるんだよねー」
「そこにしびれます憧れてます!」
左隣の女性が言う。
「あたし、コニーで『ちょちょちゃん』を連載している長野ちょちょちょです」
僕は
「ちょちょちょ先生、絵の雰囲気のままですね。先生の世界観と絵が好きで大ファンなんです!」と思いをぶつけた。
「ありがとうございま~す!」
「FAもみんな凄くクオリティ高くてずっと憧れなんですよ!」
「いや~、やっぱ新都社はファミリーなんでなるべくいろんな方にFAを贈らせて貰っているんですよ~」
向かいの席の30代半ばくらいの眼鏡をかけた男性が自己紹介を始めた。
「俺はニーノベで『兄が騙されて雑魚モンスターになった件とニートの俺が最強のJCになった話どっちが聞きたい? 』を連載している諸岡シュポポです」
「シュポポ先生ですか!『巨乳に生まれたら社会最底辺層に落とされる異世界で差別撤廃を訴えたら俺モテモテに!』買いました!凄いです!プロの方にお目にかかれるなんて!」
「いや、全然大した事ないよ。ラノベ業界も規模が縮小してて今あまり売れないからね。でも二巻からは新展開になるから安定してくると思うけど」
「あの後の展開、ファンとして楽しみです!」
皆さんが僕の方を見て、「「「で、君は?」」」
うぐっ!
僕は
「ぶ……文藝で『雲海のフーガ』を書いている牧野ヒツジです。不人気ですけどお邪魔させてもらいました」と自己紹介をした。
「「「…ピキ…」」」
場の空気が凍る音がした。ふ……不人気どころか……恐らく、いや確実に誰も読んでいない。
皆さん反応に困ってらっしゃる。
こんな事なら読み専と言っておけば良かった……
死にたい……
そう思うと急に自分がいたたまれなくなってきた。
ヤバい、おなか痛い。
それにちょっと涙がこぼれそう。
そこでドっと笑いが上がった。