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4・何だか知らないけど人気者に?

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僕は本格的に気分が悪くなって、せっかくのオフ会を途中で退出してしまった。

陰の者としてなるべく目立たないように生きて来ただけに超スピード展開に処理速度が追い付かなくて知恵熱が出たのだ。

トボトボ

電車を乗り継ぎ、駅からアパートまで20分も歩くと流石に気持ちは落ち着いてきた。

築40年のアパートの錆びた外階段をあがり、部屋のドアを開ける。

電気をつけるとテーブルにメモが乗っているのに気がついた。

『今夜はお出掛けでしたか?
冷蔵庫にトンカツとおひたしを入れてます。
朝食にどうぞ。
お母さんより』

お母さん、と言っても本当の母親ではなく下の階にすんでいる大家さんだ。

「独り暮らしは大変だろうからお母さんと思って頼ってね」と言って毎日夕食を作って下さる。

しまった!

出掛ける前に今晩は外食すると言うのを忘れていた。

結局オフ会では何も飲食しなかったが、まだ胸がザワついて食欲が湧かない。

悪い事をしたな、と思い床に向かって手を合わせた。

歯を磨いてベッドに潜り込んだ。

眠るのが怖かった。

目が覚めてしまえば全て嘘になってしまう……そんな恐怖があった。

あれから皆の祝福の言葉をもらい、Twitterを相互フォローしてLINEを交換した。

あんなに男女問わずモテモテになったのは生まれて初めての経験だ。

とにかく新都社で連載して、そしてオフ会に行って良かった……

Zzz

目覚めると10時。

スマホを見るとオマーン国債先生はじめオフ会参加した人たちのメッセージが沢山届いていた。

「受賞、それから初ホット左おめでとう!」

僕は急いで新都社を覗いてみた。

最新コメント一覧が僕の作品で文字通り埋め尽くされていた。

コメントは全て好意的かつ作品内容に言及されていてキチンと読まれているのが分かる。

「ひぇ」と思わず変な声がでた。

昨日までコメント総数が84だったのが一気に4745までに伸びている。

「な……なんなの、これ?」

最新コメント一覧に戻ってhot itemを見ると左に『雲海のフーガ』が!

思わずスクリーンショットで保存して記念にツイッターにあげようとしたが、い……いや、やっぱり夢かもしれないと思い直して下書きを削除。

ツイッターのプロフィール欄に戻るとフォロワー数が1万を越えている。

なにこれ……おかしくなる……

僕はベッドを這い出し、冷蔵庫からトンカツとおひたしを取り出して食べる。

うーん、やっぱり冷めてても美味しい……

そうだ夢じゃない。

そうだった……

スマホを掴み取って電話をかける。

「はいカミナリマガジン編集部です」

電話の向こうで涼やかな女性の声が響く。

昨晩の女性ではない。

「あ、あのーすみません、田所さんいらっしゃいますか?」

「どちら様でしょう?」

「あ、スミマセン。えっと、カミナリ大賞に応募した牧野ヒツジと申します」

「ま、ま、牧野さんですか!!」

相手は電流に打たれたように大声を上げた。

「す、すぐに田所からかけ直させますので、しばらくお待ち下さい!」

そう言って電話は切れた。

と同時に着信音。

出ると昨晩のあの凛とした声だ。

「カミナリマガジンの田所です!
牧野先生でらっしゃいますか!」

「は、はぃ……らっしゃいます」

「いま、先生のお宅のすぐ近くにおりまして、伺ってもよろしいですか? 今すぐ!」

有無を言わせない声圧に押され
「ぇ、ぇぇ」と言うのが精一杯。

電話が切れるとアパートの外階段をかけ上がる音。

カンカンカン!

そしてピンポンの音と同時に

ドンドンドン!

「田所です! 牧野先生開けて下さい!」

「えっ、早すぎ!
ちょっ! 待って下さい!」

僕は大急ぎて着替えてドアを開けた。
4

牧野羊 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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