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番外-「美術部の部長さん・上」

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「我々は何処から来たのか。 我々は何処へ行くのか」
 物音一つしない部室の中で彼女はポツリ呟いた、
 彼女の視線は本に向かっている、
 しかしその瞳は何処か空ろで
 本を読んでいるというより眺めているに近い。

「誰の言葉ですか?」
 彼女と対するように座っている男が尋ねた、
 
「……忘れた」
 やはり瞳は空ろのままで呟くように彼女は答える、

 髪は腰まで伸びており鴉のように黒い、
 肌は病的なまでに白くそれは上等な磨りガラスを連想させる、、
 そんな何処か浮世を感じさせる彼女は単なる美術部の部長さんだ、
 部員は二名、彼女と彼女と対するように座っている彼だけだ、
 しかし美術部というのは名ばかりで、
 普段はこのように何もせずボーと部室で本を読んだりして過ごしている。

「暇……」
「それなら久々に絵でも描きませんか? ほら、一応美術部ですし」

 そう言って彼は近くに立てかけてある画材道具を手に取った、
 ほとんど使われていないはずなのに何処か薄汚れている。

「いい、今日はそんな気分じゃない……」
「じゃあ何をします?」
「それを考えるのが君の役割だ」

 そんな返答に憤りを感じるわけでもなく、
 彼は薄っすら笑い、そうですね。と答えた、

「ふむ……、では将棋をしませんか?」
「ここには将棋盤もコマもない」
 興味が無い、と言いだけに視線を本から外し、
 彼女は窓からの景色を眺めはじめた、
 窓から見えるグラウンドでは野球部が模擬試合をしているようだ、
 カキーンと当りの良い音が部室までとどく。

「ツーアウト、満塁2失点」
 高揚の無い声で呟いた、今回は後攻を応援するらしい。

「ええ、ですから頭の中でやるんですよ、どうですか?」
 
 長い沈黙、外ではまた一点入ったようだ。

「ハンデ二枚落ち、先攻は私から」
 どうやら乗り気になったらしぃ、
 彼女が思考パズルが好きなことを彼は知っている故の賭けだった。

「二の六、歩」
「五の二、金」
「二の五、歩」
「二の二、銀」

 淡々としたやり取りが部室内に響く、
 彼女の視線は依然と窓にそそがれている、
 その姿は一枚の絵のようにもモノクロ写真の様にも見えた。

「部長は、何故絵を描きはじめたんですか? 歩取り一の六、歩と」
「ちょうどいい暇つぶしだったからだ……、六の一、銀」
「部長らしいですね、一の九、金」
「まあな……思考に没頭したい、話しかけるな。五の二、飛」

 怒られてしまった。
 ゲームは終盤に差し掛かり自分が劣勢、挽回は不可能、
 たぶん積みを考えているんだろう。

「ふむ、これで積みだな」
 そう言って普段の彼女から想像できない様な笑みを浮かべた。
 擬音的に説明するならニヤリだろうか。

「強いですね、惨敗です」
 手を上げ降伏を示す、将棋には多少なりとの自信はあったのだが、
 見事に返り討ちにあってしまった無念也。

「君は歩の動かし方が下手だな歩は盾じゃないんだぞ、
 まぁいい少し疲れた、窓を開けてくれ一服する」
 そう指示して彼女はポケットから箱を取り出した多分でもなくタバコだろう。
「またタバコですか? 先生にバレても知りませんよほんとに」
「これはココアシガレットだ」
 そう言いつつゆったりとした動きで紫の煙をはきだす、
 何処の世界に煙が出るシガレットがあるんだか。

「タバコってうまいって聞きますけどどうなんですか?」
「ん? あぁ……不味いよ、吸ってて何一つ良いことなんて無い」
「それじゃあ吸ってる必要なんてないじゃないですか」
 そう問うと彼女はクツクツと抑えるように笑っていた、
 何か変な事でも言っただろうか?
「たしかに吸っている必要なんて無いさ、ただ意味はある」
「意味、ですか?」
「あぁ、人は一見無意味な行動に見えても何かしら理由はあるものだ、
 私感的に見ればそこには意味がある、たとえそれが一時的な感情でもだ。」
「はぁ……」
 またわけのわからない話になってきた、
 こういう類の話になると彼女は急に饒舌になる、
 聴いてる方は全く意味がわからないが。

「そして、私の場合は……」
 彼女の瞼がスっ…と閉じる、

「……ちっぽけな反抗心だよ」
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文-「網駄目歩」挿絵-「桐霧」 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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