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○月×日 せめて、人間らしく

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『白昼の惨劇! 勇者一行、ルーラで天井に突撃! 頭蓋損傷でまさかの全滅?!』

 そんな珍プレー三面記事に出くわす事もなく、平々凡々。ゆっくりと穏やかに流れてゆく今日このごろ。暇です。せっかくアルバイトお休みなのに。特に予定が無いのです。これどうなんだろ。ティーネイジャーなのに、ちょっと寂しいような。
 でも先日新呪文習得にコケて以来、なーんかまほうつかいとしてのやる気が出てこないんですよねー……。やるぞ! 的な気持ちにちっともなれない。意欲に(1492)燃えないコロンブス。「船酔いキツイわー。インドとかもういいよ」。
 ここはじゃあ、14歳の? 一女の子として? いっちょ何かするべきなんでしょうか。うーん。
 女の子はおしゃれが命、新しいお洋服でも買いに行こう! ……にも、ここのラインナップは、かわのよろいだの、かわのぼうしだの、ケバケバしいのばっかりだもんなぁ。レザーファッションはあまり好みじゃありません。あーでもおばさんならレザーのジャケットにスカートとか似合うかも。性格からして。
 と。ふと。ある事に気が付きました。そういえば今年はあの日をスルーしちゃってたな……。一年に一度やってくるあの日。メッセージカードやプレゼントを贈る、あの日。
 これはよろしくありません。私にはいつも大変お世話になっている人が居ます。そう、ルイーダおばさんです。そのおばさんに恩返しするべき大切な日をすっかり忘れ去っていたなんて、よろしく無さ過ぎます。なんたるうっかり。もう大分時間が経ってしまっていますが、今からでもイベントを実行しなければ。おばさんに、感謝と、いたわりを届けましょう!
 ……プレゼントはいいや。今月厳しいし。こういうのは、気持ちの問題。


「どうしたの。今日あなたお休みの日でしょ。また晩ご飯? まだお昼前よ?」

 顔を合わせるなりこれです。午前中に晩ご飯食べるほど根性ひねくれてないもん。何が楽しくてそんなエキセントリックな食事の仕方しなきゃいけないんでしょうか。

「違うよ。おばさんずっと働いてて疲れてるだろうし、肩でも叩こうかなって」
「思いっきり怪しいわ。何を企んでるの」

 あっからさまにいぶかしんでおります。これぞまさに疑惑の眼差し。
 信用無いな、私。なんだか傷つく。

「ただの孝行だよ。いつも私の保護者してもらってるお礼」
「ふーん。どういう風の吹き回しかしら」
「ほら、今年あの日を忘れてたなーって思って。敬老の日」
「……ケイロウノヒ?」
「敬老の日」
「敬ロウの日?」
「のーのー。敬“老”の日」

 そこで、ルイーダおばさんは得心したように一つ二つうなずきました。その顔が 「ははあ。なるほど。する事なくて暇だから遊びに来たって訳ね?」 と語っています。
 なんとまあ末恐ろしいお人なのでしょう。まるで半ズボンの少年探偵ばりに何もかもお見通しです。

「念の為確認するけれど、分かってて言ってるのよね?」
「おばさん三十路でしょ。私とダブルスコアだもん。けーろーけーろー」
「……ふふふふふ。あなた最近妙に挑発的よねぇ」

 ややっ。おばさんが右手を上げました。あれは、デコピンの構え。獲物を狩る肉食獣のオーラが滲み出ています。明らかに臨戦態勢……! またです。またしてもこのパターンです。

「おばさんこそ、最近妙に暴力に訴えがちじゃないかな」

 じり、じりり、と後ずさりしながら、こちらも身構え。
 もう同じ過ちは繰り返しません。おめおめとデコピンされるわけにはいかないのです。冷静に。冷静に。一瞬の判断ミスが命取りになる……。

「うふふ」

 おばさんは不敵に微笑んで、そして――来る!

 ルイーダ のこうげき!

 わたしは ヒラリと みをかわした

「へへー、そう何度も同じ手はくわな……」

 ルイーダ のこうげき!

 ぺちっ

「いた」

 ええええーー。なにそれー。
 二回攻撃って。とうとうキラーマシンになっちゃったの?

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