(つづいた)
目の前に広がる未知なる大地。見たことも聞いたことも無い風景。そうです。やって来ましたるはエジンベアの国!
すっごい。私、今、凄いとこ居る。アリアハンから出ちゃってる。うわ。エジンベアとか。どうしよ。うわー。
えせトレジャーハンターのおじさんと共に。キメラの翼をぽいぽいっと放り投げ。びゅーんびゅーんと世界を一閃。ついに、ついにやったのです。この世に生を受け早十数年、まほうつかいになって苦節数ヶ月、ようやっと、たびびとチックな事を成し遂げました……! 今日から私は、いっぱしの冒険者!
「ほら、あそこだ。門番が見えるだろ。あいつがずっと通せんぼしてるんだ」
……もう。この盗っ人は。人がせっかく人生初海外旅行の感動に浸ってるってゆーのに。少しは心中察して欲しいなぁ。
まぁでもさっさと約束のお仕事を済ませてしまいましょう。周辺探索は後からゆっくりと出来ます。盗賊のおじさんと二人旅とか、ちょっとアレですし。あんまり仲間だと思われたくないもん。
見れば確かに鎧で身を固めた兵士が入り口にでんと立ちはだかっています。あれが例の門番なのでしょう。一人、無言で、仁王像のようにじっと前方を見据えています。動かざること山の如し。……正直、あの仕事にだけは就きたくないですよね。あんなの絶対暇過ぎて心にステータス異常をきたしますよ。慢性メダパニとか。挙句死後は地縛霊にでもなっちゃいそうな感じです。
なんにしても、なるほど。門番がずっとあんな調子だとすれば、おじさんの言った通り厄介かもしれません。あの様子では、ちょっとよそ見をしている隙にせこせこ忍び込むなんていうせこい芸当はとても出来そうにないです。ましておじさんでは“力ずく”も不可能に近いと思われます。屈強な兵士(フル装備)VS あやしい商人(ややメタボリック)。まず間違いなく、訃報が届く事でしょう。闘技場なら倍率 ×1.1 と ×30.0 くらいなんじゃないでしょうか。
となればやはり、私があの方法でおじさんを中へ……。
「それじゃあ早速始めますけど、覚悟はいいですか?」
「ああ、しかし一体どうするつもりだ?」
「名づけて、さくせん 『私のいのちをだいじに』」
「?? 危険なことなのか?」
もうやだ、この人。ノリが悪いったら。真面目に返されると困っちゃいます。
「冗談です。とにかく私に全部任せてください。おじさんはここに立っててくれるだけで良いですから」
「……分かった。本当に頼むぞ、お嬢ちゃん」
「じゃ、行きますよー」
――作戦、スタート。
スーッと息を吸い込んで。せーの。
「きゃああああああっ!」
ダダッと城門に向かい駆け出して。もう一声。
「た、助けてください! 痴漢です!」
ギュッと門番さんの腕にすがりついて。ダメ押し。
「極めて悪質な手口! 高確率で常習犯です!」
ビシッとおじさんの方を――しかし おじさんは おどろき とまどっている!――指差せば。
慌てふためくおじさん。
あえなく捕まるおじさん。
そして連行されてゆくおじさん……。
かな~しそ~なひ~と~み~で~ み~て~い~る~よ~
ドナドナド~ナ~ド~ナ~
あ、城の中入った。
ミッションコンプリート。いえい。
* * * * *
「ただいま帰りました」
「どうだった?」
「思ってたより全然つまんなかった。あそこ街ないんだもん。それとじごくのよろいに追っかけられた。こわー」
「そうじゃなくて。上手くいったの?」
「うん、ばっちり。私こういうの得意だもん」
☆⌒(*^ー゚)b
「…………」
「なんですか」
「別に。ただこれ以上詳しく聞かない方が良いと判断しただけよ」
「ちゃんと約束果たしたよ? おじさん今頃城の奥の、そのまた奥の方にいるんじゃないかな」
仄暗い城の底から。
おじさんの戦いはこれからだ!