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○月×日 エピソードファイナル

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 圧倒的な、力の差だった。

『絶望の淵で朽ち果てるがよい』

 突き出した手から放たれる、イオナズン――!

 どんっ!!
 耳をつんざく爆音。
 
「……っ!」

 自分が壁に叩きつけられる音さえ聞こえない。
 私は、私達は、もはや成す術を持たなかった。
 モンスターを統べる魔王・バラモス。その強大な力を前にした時、あまりにも無力だった。
 全滅。頭から最悪の言葉が拭えない。戦士も、武闘家も、そして勇者も満身創痍。とうに戦える状態ではなかった。そこへ今の一撃……。
 私がなんとかしなければ。せっかく賢者になったのだから。長い、長い、旅の果て。ようやく辿りついた最後の戦い。今役に立たず、いつ役に立てというのか。あの頃とは違うんだ。ルイーダおばさんや、いろんな人に、ただ守られて生きていたあの頃とは、違う。
 しかし……。ベホマラーで体制を立て直す事はおろか、いまやべホイミの一度さえ唱えられるか怪しい。MPが、たりない。もうとっくに底を尽きかけているのだ。どうすればいい……?

『人間の勇者よ、まずはお前から屠ってやろう』

 バラモスがゆっくりと歩き出す。先ほどから地面に伏したまま動かない勇者に近寄ってゆく。一歩。また一歩。
 いけない。勇者が。何とかして足を止めないと。
 私は感覚を失い始めている身体を何とか奮い立たせ、手に握り締めたいかずちの杖を天に振りかざした。おねがい。止まって!
 杖先から雷がほとばしる! ――が。

『こざかしいわ』

 バラモスはこちらを振り返ることさえせず。わずかにひるがえしたそのマントの中に、電撃は音もなく消えていった。

『ふふ、死に急くこともなかろう。焦らずとも順に送ってやる』

 そして立ち止まることなく勇者に向かってゆく。ダメ、届かない……。
 身体が勝手にずるりと壁にもたれ崩れ落ちる。
 「逃げて」。そんな私の呟きも空しいだけ。勇者はピクリとも動く気配がない。戦士も武闘家も。身体が動かないのか。意識がないのか。どちらにしても死に瀕していることは疑いようがない。
 朦朧と、気を緩めれば途切れそうになる視界の中、動いているのはバラモスただ一人。
 もう、ダメなの? どうする事もできないの? このままみんな死ぬしかないの……?

 ――戦士くん。パーティの大黒柱。みんなが誰より頼りにしてた。一番年下の私を可愛がってくれたよね。知ってるんだよ、戦いの時はいつもさりげなく私を守ってくれてたこと。

 ――武闘家ちゃん。強くて、明るくて、優しくて。どんなに辛い時でも笑ってた。宿でよく夜更かししたね。女の子だけで秘密のお話たくさんしたね。もし私にお姉ちゃんがいたら、きっとこんな感じなのかな。

 ――勇者くん。小さい頃から一緒だったゆーくん。両親を亡くしたあの頃、寂しくて、どうしていいか分からなくて、泣いてばかりいた私に手を差し伸べてくれた。何も言わず、ずっと傍にいてくれた。

 私は運が良いね。こんな素敵な仲間と冒険してるんだから。 
 それも全部、ここで終わり……?
 ううん。まだ。終わらせちゃいけない。この人たちを死なせちゃいけない。
 私が守るんだ。この人たちを守るんだ。
 ……たとえ命を賭そうとも。

「待ち……なさい……」

 力を振り絞って、自分にホイミ。
 ぼろぼろになった身体を癒すに程遠い。でも今はこれで良い。立ち上がれる。歩く事ができる。バラモスの元へ。

『何をあがく、か弱き人間よ。愚かな。貴様の魔力が尽きていることに気付かぬとでも思ったか』
 
 まだやれることがある。やらなければいけないことがある。
 私の最初で最後の切り札。この身体に残ったなけなしの力、ひとかけらのMPを使って……。

「私はあなたを倒すわ。この命と引き換えに」

 魔物の王。その前に立つ。きっとこの勇気は、勇者がくれた。

『何を……』

 やめろっ!

 バラモスの言葉を遮るように勇者の叫び声が響いた。
 ああ。気がついたんだ。良かった……。
 あなたは必要な人。世界中の人があなたを待ってる。だって世界を救う “勇者” なんだから。
 あはは。でもそんな大声、無口なゆーくんらしくないよ。
 ごめんね。私不器用だから、他に方法思いつかないんだ。
 後悔はしない。……うそ。本当はもうちょっと、みんなで旅したかったな。まだ行った事のない場所、一緒に歩きたかったな。
 けど、みんなには生きていて欲しいから。ためらいはしない。

「バラモス。共に逝きましょう」

 よせ!
 だめよ!
 やめてくれ!

 声。声。声。大切な仲間達の。大好きなみんな。大好きなゆーくん。
 一緒に過ごした全ての時間が。楽しかった。幸せだったよ。
 ありがとう。
 ……ばいばい。

 サヨナラに代える、最期の4文字。

「メガンテ」

 ――カッ!









 きかなかった!


* * * * * *


「 <完> 」
「なに、それ」
「私の未来予想図」
「……このあとは?」
「さぁ、わかんない。私死んじゃったからね。かなり無駄に」
「自分の人生にオチつけてどうするの」
「現実ってゆーのはえてして残酷なものなんだよ」

 魔王にメガンテ効いちゃったらさ、マズイじゃんやっぱり。


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