おばさん仲間になってくれないかな?
ルイーダの酒場でルイーダご本人を仲間に引き入れてしまおうという、このかつてなかった新解釈。どうしてこれまで考えつかなかったのでしょう。悪しき魔物たちに蝕まれている町の外も、おばさんと一緒ならば胸を張って闊歩できるではありませんか。ふんぞり返れるじゃーありませんか。
主には戦闘時、その真価を見せつけてくれるはずです。いえ、私も実はあの方の“つよさ”は全く存じていないのですが、でもちからとか、すばやさとか、そういうのは完全に度外視で活躍を期待できると思うのですよ。
それは、きっとこんな風に――
はぐれメタルA は にげだした!
しかし ルイーダは まわりこんでしまった!
きゃー。おばさんかっこいー。ひどかっこいー。
なんてステキな型破り。神をも恐れぬ逆転の発想。これ、もう根本的な部分をだいぶ覆してますよね。世間の仕組みなどものともせぬ。神あんぐり。さすがに私も少し悩んでしまいます。Which? Which is 悪しき?
いつしか、メタル族の民の間では奇妙な噂が流布するかもしれません。「きゃつにだけは、ゆめゆめエンカウントしてはならん!」。まことしやかに。ルイーダ出没注意。あと、おどるほうせき族も危ないかも。
かくして明らかに頼りにならざるを得ないので即勧誘の意向。いま、会いにゆきます。ついでに晩ご飯、食べにゆきます。
しかし。すんなりオーケーしてくれる気もしないんですよねー。だって、相手はアリアハンの誇る一匹狼ことおばさんですから。おばさんこと一匹狼ですから。仲間にするはたやすい事ではありません。かなり高いハードル。天空のハードル。「いやー さがしましたよ」 のお人のケースとはワケが違うのです。一筋縄では、絶対にいかないことでありましょう……。
あえて言うならば、そう、やっつけたのちムクリと起き上がらせた方が手っ取り早そうな。それとなくモンスターじいさんに取り扱わせたい、と言いましょうか。もしくは。デルパ! って唱えると飛び出してきそう、とも言いましょうか。
という事は、すなわち? 私の持てる全かしこさを駆使して導かれし結論。すなわち、今回のイベント攻略のキーアイテムはしもふりにくとなります。鼻息荒れ狂う魔獣もころりと寝返らせてしまうという、しもふりにくとなります。
私お肉あげる。おばさんお肉食べる。お肉おいしい。おばさんおいしい。もりもり食べる。ユー キャント ストップ。キャント ストップ フォーリン お肉。そうしてキレイに平らげた頃? おばさんなつく。子犬のように足にじゃれつく。しめしめ。こういった寸法です。とどのつまりテリーお得意の手口です。これ以外には、考えられません。
この結論は? 妥当です。
早速臨床試験に移りました。
「はい! おばさんパス!」
酒場に入るやいなや私は肉の入ったビニール袋をおばさん目掛けて放り投げてみたのです。くらえー。って。こころなしか強め。こころなしか日頃の恨みつらみを乗せ。
「きゃっ」 と、そんなちょっと似合わない可愛げのある悲鳴を上げながら、しかしおばさんはばっちりがっちりキャッチしてみせます。さながらS.G.G.K。さながらペナルティエリア外からは決して通さない。
「おー、ナイスキーパー」
「なんのマネ。いきなりおそいかかってくるんじゃないわよ」
「それ、あげるー」
「何よこれ」
「豚コマ」
「豚肉?」
「うん。こま切れ」
牛は、高いからね。霜降りは、たいそうお高いからね。
願わくはどうか廉価版で我慢なさってください。
「……どういうこと?」
「食べていいよ。遠慮なく。がぶりと。いっちゃっていっちゃって」
そして思う存分仲間になりたそうな目でこちらを見て!
「……時々ね。あなたの挙動はほとほと理解しがたいのよね」
あれま、疲れた目をしていなさる。
人生に疲労困ぱいでしょうか? うーん。この店基本は年中無休で営業してますしね……。見た目以上にガタが来ているのか。日々押し寄せる怒涛の年波に、そろそろ負けそうなのかもしれません。おばさんがんばれ。肩とか、腰とか、がんばれ。
それはさておき、残念。惜しくも実験はあと一歩というところで失敗してしまったようです。大方の予想を裏切って、おばさんは魔物ではなく人間の皮を被った人間だったのです。
いやはやわりと驚くべき実験結果となりましたので、学会なりしかるべき場所に一報を入れておいたほうがよいでしょうか。
お肉も無駄になっちゃいましたね……。当座の生活費削いだのになぁ。
でもまぁ。ルイーダベスとか、ぶちルイーダとか、そういう似て非なる別カラーに続々出て来られても困りますしね。ちょっと仲良くなれる自信が無いですし。ね。
「もうなんでもいいわ。ちょうどいいからこれ晩御飯にしましょ」
あ、無駄にならなかった。瓢箪から豚コマ。豚コマディナー。人生ってこんなものです。
「はい。異論ありません」
「何作ろうかしら。リクエスト、ある?」
「んー……。じゃ、牛丼」
「……そういうバカを言う子、私嫌いよ。種族の壁はあなたが思っている以上に、厚いの」
「えー、ダメ?」
「ダメ、じゃない、無理。作れる人がもしいたら、その人は天才ね。天才的な、料理音痴」
再び残念。おばさんの包丁さばきにかすかな期待を寄せたんですけれども。
しかしながらお料理の可能性はけっこう無限です。まだまだ開拓の余地は残っていると思うんですよ。例えば……あばれうしどり料理なんていかがでしょうか。うしどりですよ。牛鳥。それは牛肉なの。はたまた鳥肉なの。どっちなの。どっち料理になるの? ……よもや。私たちの予想を上回るまさかのビーフにしてチッキン? 二つの特性を併せ持つ、お肉界の賢者とうたわれし?
ただならぬポテンシャルです。牛丼を頂いていたはずなのに卵をひとつ落としたその刹那、なんと! いきなり親子丼にへんげ。すごい。軽くミラクル。