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○月×日 時をかけなかった魔女

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 何度か声高らかに主張してきた事なんですが。

「つえ欲しいなぁ」

 この際ですので、いかずちでなくとも。
 そろそろ私はまほうつかいだって真実を世間に知らしめとかないといけませんよ。このままだと、私の中のですね、自信とか誇りとかそういった類のものがですね……。

「あるわよ。つえ。ずっと前にお客さんが忘れてったの」
「うそ。ほんとに? それちょうだい!」

 そんなのあるなら早く言ってください。もう。気が利かないんだから。
 するとおばさんは酒場のすみっちょのほうを何やらごそごそ。
 へー。あんなところにお客様忘れ物ボックスがあったんですね。全然知りませんでした。もしや他にも面白げなどうぐたちがあるかも……。いずれ近い内おばさんの目を盗んでしらべたりましょう。

「あったあった。これこれ。はい」

 手渡される一本の棒。
 わあい。とうとう手に入れましたー。って。いやいやいや。
 これつえじゃん。本当に。真っ向から。つえじゃん。ご老体の三本目の足じゃん。明らかに歩行補助器具。福祉すんなー。

「つえがちがいます」
「同じつえじゃないの」
「それはそうだけれどもさ……。私が欲しいのは、なんていうか、もっと、こう、ぶきだよ。ふりかざしてしかるべきファンタジックだよ」

 判ってくださいましよ。
 こんなの装備したら私ただのお婆じゃないですか。まほうおばばより一回り酷くなってるじゃないですか。

「贅沢言わないで、これにしときなさい」
「だめ。やだ。もっとつよいやつがいい」
「つえだけに?」
「んー……? あ。そか。つえだけにつえー、とかゆったりして?」
「……」
「……」
「……」

 ええー。
 これはおばさんでしょ。8:2でおばさんでしょ。なによこの空気。なにこのサイレンス。なんだって私が 「やってしまったね……」 的な方向性になっているのです? これおかしい。ぜったいに。おかしい。これ。世にも奇妙なこれ。
 待って。お待ちになって。ウェイトウェイト。
 今回私は言わされた格好ですよ。おばさんにもてあそばれ、たぶらかされ、浅はか極まりない駄ジョークを余儀なくされたのです。言うなれば、おばさんが殺人幇助犯でありまして、私が実行犯であります。どちらが悪いか是非を問うならばそれはもう誰の目に見ても……あれ。私ですか? どう考えても殺すヒトが悪いですね。あれれ。これ。私? クロ?
 いやいやそんなわけないですってば。騙されませんよ。この一件に関しましては一歩たりとて譲りません。なんら私側の過失ではなき物語。シロです。シロシロ。おばさんが真っクロなのです。ドスグロなのです。やつこそが、真犯人ミスターレッドラムですよ。(ミスター? うん。ミスターでいいや)
 ……なのに。それなのに。なぜ。貴女はしれっとしているの。先程から、どこまでもお澄まし顔をなさっているの。まるでそうすることで、この恥辱を全て私のものにしてしまおうとでもいうように!
 この。魔女おばさんめがー。それが貴女のマホカンタか。

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