最近、親父がスマホを買った。
使い方がわからないと俺に使い方を聞いてきたのだ。俺は簡単に電話の掛け方とメールの使い方、そしてカメラの使い方を教えた。
「おー。写真もこんなに綺麗に取れるのか!凄いなスマホは!」
親父は写真の画質の良さにやたら感激していた。教えた後も写真を撮るのが楽しいらしく、パシャパシャとペットの猫を被写体に写真を撮っていた。
「にゃん子ちゃんかわいいねー!こっち向いて!こっちだよー。どこ行くのー?」
「ご飯よー」
ご飯をあげるのを忘れていた母さんの一声にすかさず反応した猫は親父の事などお構い無しに台所へと向かう。
「ニャーン!」
「グホッ!!」
床に寝転がって写真を撮っていた親父は出っ張った腹に猫が飛び乗り、ダメージを受けていた。猫は母さんからご飯を貰いご満悦の様だった。親父はシャッターチャンスを逃した。
側から見ているとなかなかシュールな光景だった。うめきながらお腹を抱える親父とガツガツと飯を食う猫、その奥でパン生地を机に叩き付けている母。
母曰く、パン種は叩けば叩くほど美味くなると言っていたが、叩きつけるにも程があるだろう。見ていると何故か可哀想な気持ちになった。蹲(うずくま)る親父と同じくらい痛々しく哀れに見えたのだ。
親父がスマホを買って数日後、スマホの操作にも慣れてきたのか親父から使い方を聞かれる事はなくなった。親父はまるで最近の若者の様にスマホに夢中になっているらしく、毎日スマホを見ては何かニヤニヤしている。いったい何を見てるんだろう?
俺は、親父がお風呂に入っている間にスマホの画面を覗いて見た。親父め風呂の脱衣所にまで携帯持って行きやがって。脱衣所には洗面台と洗濯機が置いてあり、携帯は洗濯機の上に置いてあった。
ーーまったくこんな所に置くなっつーの!
俺は携帯の画面をつけると、ペットの猫、にゃん子ちゃんの写真がパッと映った。ロックはかかってない。そう、そんな事教えなかったし、暗証番号なんかすぐ忘れるだろうと思ったからだ。俺はロック画面をスライドして解除すると、開いたままの画像に変わった。
「な、なんだこれは!」
裸だ!上半身裸の……女の胸元の写真だ!腕で巧みに隠してピンポイントが見えない様にしているけれど胸元のちょっと際どい写真が現れたのだ。自撮りした様な写真だった。胸元だけの写真なんてどこで手に入れたのだろう?
ーーこれは……もしかして……不倫か?いや、パパ活の可能性もある。
親父、何してんだ!?
良く見ると右の鎖骨の下に黒子があるし、なんかエロい。
ーーはっ!そう言えば最近親父プロテイン飲んで脂肪を気にしてたな!
俺は他の写真を確認するべく画像フォルダを確認した。
そこには若い女の子の写真が数枚残っていた。
雑誌のカラーページを撮った物だろうか?グラビアアイドルの雑誌の切り抜きみたいに気に入ったページを写真に撮って保存していた。
ーーあ、待てよこの子の右の鎖骨の下……
フリルがついたスク水を着たグラドルと自撮りした画像にあった黒子の位置が同じじゃあないか!!
こんなかわいくて胸のでかい子とどこで知り合ったんだ親父!?
俺は携帯を洗濯機の上に置いた。
過去にこう言われた事がある。
「父さんな、本当は大きいおっぱいが好きなんだ。だが見た目で選んじゃいかん。大事なのは中身だ」
親父は酔っ払いながらそんな事を昔は話してた…話していたくせに!
ーー見損なったぞ親父!!
ガチャ。お風呂場の扉が開き湯煙がむわぁと脱衣所に流れ込んできた。洗面台の鏡が曇る。湯煙と一緒に親父がポタポタと水滴を垂らしながら風呂から出て来た。
「あれ?お前何してんの?」
「いや、ちょっと手を洗おうと思って……」
俺は手を洗った。その間に親父がパンツ一丁になって携帯をいじっていた。
すると……
パシャ!パシャ!と自撮りをし始めた。
「何してんの?」
「いやー母さんに太っただのグラビアアイドルみたいだの言われてさー。父さんもダイエットしてるのよ。ほら!母さんよりおっぱい大きいだろ?」
そう言うと親父は片腕で胸を寄せて見せた。
「本当だ。グラビアアイドルみたい……」
ーーあ!
「さーて、プロテイン飲んでダイエットだ!筋肉ムキムキになるぞー!」
親父の鎖骨の下に黒子があった。
あの自撮り写真は親父のダイエットの記録なのだろう。腹まで写っていれば直ぐに解ったものを胸だけ写しやがって。
俺は親父に言った。
「親父、プロテイン飲むだけじゃ筋肉にはならねーよ」