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学校爆破

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 暗黒の空に沈む邪悪な館。そこはシェディムの棲家。
 シェディムの少年はお母様に呼び出され玉座の間に居た。布ごしにお母様のシルエットが浮かび上がる。
 しゃがれたお母様の声が居間に響いた。

「まだ成果をあげられないのですか?」
 
「申し訳ありません。シュガールと名乗る魔法少女達に邪魔をされました」

「言い訳は結構。だが、この前の使い魔がなかなか役に立って計画は進行している。魔力の無いお前達に新しい道具を授けよう……」

「ありがとうございます」

 空間が割れ黒い穴が開くと、そこから箱が現れた。少年はその箱を手に取り中を開けるとギターのピックの用なものが何枚も入っていた。

「行け!子供たち蛇に鉄槌を降すのだ!」

「はっ!」

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

 町の人達が鷹に襲われた翌日、人々は何事も無かったように日常を過ごしていた。
 朝の通学路で、きび、あらせ、しろの3人が行き交う人々を眺めていた。

「昨日あんな事があったのに、みんな普通に過ごしてるよな」

「だって、今日・・はまだ何も起きてないもの」

「町の人達元に戻って良かったよね」

「「「…………」」」

「……学校行こっか」

 きび達は他の小学生と共に学校へと向かった。

「私、授業飽きちゃった」
 
 昇降口の前でしろが言った。

「同じ内容の繰り返しだもんね」
 
 きびが靴を脱ぎ上履きに履き替える。
 すると下駄箱の前であらせが何かに気付いた。

「何だこれ?」

 あらせは下駄箱とすのこの間に手紙が落ちているのを見つけた。

「なぁに? あら、ラブレターじゃない!」

 しろがあらせの手元を覗き込んだ。

「ラブレター? 誰、誰、誰の?!」

 きびが興味津々に手紙を見つめる。
 あらせは手紙の表と裏を見て差出人を確認するも何も名前は書いていない。封をするのに可愛らしい花のシールが貼ってあるだけだった。

「やる」

 あらせは面倒臭そうに手紙をきびに渡した。

「女子が書いたやつだろ。後は任せた」

 そう言ってあらせは先に教室へ歩いて行った。

「えー。あらせー! ……うーん。どうしようしろちゃん……」

「中に名前書いてあるかもしれないけど、中を見るのは可哀想よね」

「ラブレターを落とし物箱に入れたらきっと誰かに中見られちゃうよ」

「誰かの下駄箱に入れた手紙が下に落ちたのね。今日落としたなら明日になれば差出人がわかるかも」

「明日まで待つのか~」

「中を見るのが手っ取り早いけど…… 見る?」

「見たい。けど、人の手紙を勝手に見るなんて~!」

 きびは頭を抱えて悩み込んだ。

「やっぱり明日の朝、誰が落としたか見てみましょう」

「うん。そうする」

 次の日、きびとしろは早めに学校に行って下駄箱の向かい側にある女子トイレのドアの隙間から下駄箱を監視した。

「きっと、誰も側にいなくて1人で登校して来た女の子よ」

「……。ダメだよしろちゃん…… みんな間を開けて1人で登校してるよ。これじゃあ誰が手紙出したかわからないよ……」

「うーん。もうちょっと正面からだったら見えるのに……」

「お前ら何やってんだ?」

「わあ!」

 きびがビックリしてバランスを崩し前に倒れるとトイレの扉が開いた。

「あら、あらせくん」

「また落ちてたぞ」

 あらせが昨日と同じ手紙を差し出した。
 しろときびが顔を見合う。

「なんだ……。もう来ちゃったんだね……」

 あらせが男子トイレに入って行った。

「トランスホールミ!」

 ガチャっと隣りのドアが開くとシュガール群青に変身したあらせが、手紙にステッキを向ける。

「手紙の時間よ、巻き戻れ!」

 ふわっと手紙が空中に浮き下駄箱の方へ飛んで行く。

「きびちゃん追いましょう!」

 下駄箱の前に行くと手紙は下駄箱とすのこの間だに挟まり、下から上へ向かって誰かの下駄箱の中へ入った。

「ストップ!」

 群青が手紙を止める。
 
「この下駄箱は……」

 しろは下駄箱に貼ってあるシールの番号を見た。シールの番号はクラスの出席番号になっている。

「29番って誰だったけ?」

 3人とも記憶を巡らせて考えるも29番の名前は思い出せなかった。

「教室の名簿見ようぜ」

 教室へ向かう群青をしろが呼び止める。

「あなたその格好で行くの? 群青」

「あ、ちょっとトイレ!」

 自分の服を確認すると群青は男子トイレへ駆け出して行った。
 きびとしろは教室の教卓の上に置いてある出席番号表を見る。

「29…… 六十里都秋むそりとあきくん 」
 
「誰だった?29…… 都秋じゃん」

 遅れてやって来たあらせが名簿を確認した。都秋はあらせと仲のいい友達だった。

「何?どうかしたのあらせ?」

 近くでクラスメイトと話をしていた都秋が気付いてあらせの所に来た。

「やあ、なんつーか…… その」

「六十里くんの下駄箱に何か入ってたわよ」

「下駄箱? なんで?」

「さあ? あなたが確認しなくちゃわからないわ」

 しろがそう言うと、授業開始のチャイムが鳴った。

「後で見てみるよ。ありがとう」

 都秋はそう言って自分の席に戻った。

「後で差出人聞こうか?」

「ヤボね。男の子は」

「私、わかっちゃったかも……」

 教室を見渡していたきびが言った。
 先生が教室に入って来るときび達は自分の席に着いた。

 
 休み時間、下駄箱を見て来たのだろう教室に戻ってきた都秋を廊下の窓ぎわであらせが呼び止めた。下駄箱の事を聞くと都秋が不思議そうな顔をした。

「下駄箱見て来たけど何も無かったぜ?」

「そんなはず……」

「あらせー!」

「今日は女子とよく一緒にいるなお前」

「オレ今パシられてんの」

「?」

 きびとしろが、階段の踊り場から顔を出しあらせを呼んだ。

「何だよ」

「六十里むそりくんが好きな女の子がわかったの」

「へー。で、誰だったの?」

「恩田桜ちゃん」

「どうやってわかったんだよ」

「クラスを眺めてたらね都秋くんを気にしてる子がいたの。あらせと都秋くんが喋ってる時、目があって逸らしたから今日手紙を出した子だろうなって」

「そんで?」

「これ……」

 きびは昨日の手紙をスカートのポケットから取り出した。

「あー!! 告白してるーー!!」

 同じクラスの男子が階段の下からきび達を指差してきびを揶揄からかい出した。

「ち、違う!!」

 きびが顔を赤くして否定する。

「おい、あらせ~手紙受け取らないのかよ~」

「やめろよ! 違うって言ってるだろ!」

「下田くん。下田くんの事好きな女の子がいるのにそんな反応するの?」

 しろが言った。クラスメイトの下田は驚きと戸惑いで言葉を詰まらせる。

「え……」

「残念だなぁ。下田くんを好きな子にこの事報告しないと……。今みたいに揶揄われたら可哀想……」

「だ、誰なの? オレの事好きな子って?」

 下田は少し照れた様にしろに尋たずねた。

「あら、教えられないわ。こんな事されたら告白なんて出来ないでしょう?」

「その子には言わないよ」

「ダメよ。それより、きびちゃんに謝って!」

「あ、や、その……」

「下田、本当に勘違い何だよ。これはオレ宛の手紙じゃないんだ」

「ご、ごめん」

 顔を真っ赤にして少し涙目のきびが声を振り絞った。

「もう、行っていいから!」

「ごめんな!」

 下田は走って教室へ戻って行った。
 きびはポロポロと涙を零した。あらせの腕を掴み服の袖で勝手に涙を拭う。

「うっ…… うっ…… ふぐぅ~」

「きびちゃん。また揶揄われるからこっちいらっしゃい」

 しろはきびの背中を撫であらせの袖からきびを離すと、しろは肩を貸した。

「しろちゃぁ~ん~」

 しろの肩に顔を乗せ泣いているきびを抱きしめ、しろはあらせに向かってこう言った。

「引き分けね。あらせくん」

 うふふ。としろが笑う。

「何のだよ……」
 
「恥ずがじがったよぉ~」

「とりあえず、この手紙都秋に渡せばいーの?」

「ええ。きっと私達が番号を確認したから回収したと思うの。答えを待ったまま、もしかしたらこれが永遠続くかもしれないじゃない」

「でも、それってヤボなんじゃないの?」

「明日が来ないんだもの。私達で彼女の未来を見せてあげてもいいでしょう?」

 あらせは小さい溜め息を吐いた。

「オレが関わるのは今だけだからな」

 あらせはきびが持っている手紙を取り、教室に居る都秋の所へ向かった。
 都秋は自分の席に着いて鉛筆を削っている。あらせは何も言わずに都秋の机に手紙を置いた。あらせは斜め前の自分の席に座る。
 都秋は手紙を読むと手を伸ばし肩を叩くとあらせに尋ねた。

「なあ、これ名前無いんだけど誰から?」

 下田がその会話を聞き手紙を見ると、大きな声で言った。

「あー。それ佐桃さとうからのラブレターだよ!」

 クラスメイト全員が一斉に下田の方を向いた。
 教室のドアを開けるとしろの後ろにきびがいてクラスメイトのほとんどがきびに注目する。

「ええ~~~~!!!!」

 と言う声が何度も教室内を飛び交った。

「最っ悪ね!」

 しろがぼそっと言った。

「ひぃ~~!!」

 きびは今すぐ学校から駆け出したい気分だった。
 都秋はきびを見ると顔を赤くしてきびを見つめて口を開いた。

「みたの?」

「え……」

 都秋の質問にきびはきょとんとした。
 それから、きびは手紙の事でクラスメイトから好奇の目を向けられる様になった。
 給食を食べた後の掃除の時間になると数人の男子達が手紙の事できびを揶揄い。笑ったりして、女子達は都秋のどこが好きとかいつ好きになったのか聞かれていた。

「あれは私のじゃないよ! 私のじゃないから!」

 囃はやし立てる周りの子達にきびが説明しても聞く耳を持たず信じてはもらえなかった。

 きびは手紙を書いたと思われる恩田桜おんださくらと目が合った。彼女は少し悲しそうな顔をして桜は目を逸らし、ほうきで床を掃く。
 
 桜は埃を集め教室のゴミをゴミ捨て場へと持って行く。
 ゴミ捨て場は一階の用具室の隣の部屋に溜められる。溜まったゴミは業者さんが回収してくれるので外からでも入れる様になっている。
 桜は近道するために上履きのまま外に出た。立ち止まって誰もいないか確認すると、ゴミ袋の口を開く。
 ポケットにしまっていた手紙を取り出しゴミ袋の中に入れようとした。

(こんなの書かないほうが、よかったかな……)

「やあ、どうしたの? こんな所で」

「え?」

 桜はびっりして振り返ると、学校内では見た事が無い異国の顔立ちをした少年が桜に声をかけた。

「あの……。わたし……」

 少年は口角を上げ笑う仕草をした。その顔は妖しく僅かに恐ろしさを帯びていた。

「この町の人間は、空気中の魔力を吸い込んでいる。蛇もどき同士ぶつけてみるか」

「え?」

 少年は魚の鱗の様な500円玉程の大きさの物が少年の手の平から浮き上がった。

「これは人間のわずかな魔力を吸収し、さらに空気中の魔力をかき集める。一枚君にあげよう」

 少年はそれを桜に向かって投げた。鱗の様な物は桜の胸に突き刺さった。その瞬間、邪悪な黒い煙が鱗の様な物から解き放たれ桜を覆い隠す様に包み込んだ。

「きゃぁあああ!!」

「さあ、魔力を集めこの町の蛇を討て!」

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

 掃除が終わった後の昼休み、きびとしろは校庭のベンチに座っていた。

「うへぇー。みんなにしつこく質問される~」

「今日が過ぎればみんな無かった事になるわよ。それより、何で昨日の手紙をきびちゃんが持ってたの?」

「うん……。なんかねランドセルに入れると翌日に持ち越せるみたい。前にルシアンをその中に入れてループを無効化する様に魔法をかけた事があったから」

「なるほど、それで……」
 
「……余計な事しちゃった」

 きびは俯いてスカートを握りしめた。

「私も1日を変えたくて、人の事情に首を突っ込んで嫌な思いさせちゃった」

「手紙の内容知らないのにね」

「うん……」

 突然ガラスが割れる音が響いた。
 生徒達の悲鳴が、外にいるきびとしろにも聞こえた。

「なに?」

「行ってみましょう!」

 音がした場所に行ってみると地面に窓ガラスの破片が散乱していた。
 3階の窓ガラスが全部破られている。きびの教室の側の窓ガラスだった。きびとしろは教室へ走り出した。

 階段を駆け上がると、あらせとバッタリ会った。

「あらせ!何があったの?」

「わからない。オレも図書室にいたから」

 廊下の曲がり角からあらせが顔を出すと、四角い何かが飛び出して来た。
 あらせの頬を掠かすめるとその後ろの窓ガラスが割れた。

「きび!出るな!」

「うぇ?」

 あらせが後ろを駆けてくるきびを引き止める。

「どうしたの?」

 しろが後からやって来た。

「あらせ、血が……」

 あらせの頬に切り傷が出来、傷口から血が滲み出ていた。きびに言われて血が出ているのに気付くと、あらせが手の甲で頬の血を拭った。

 しろがポケットからコンパクトを取り出し、しゃがんで廊下の曲がり角から鏡で向こうの様子をうかがう。

「何かしら。不審者?」

 廊下には小学生と変わらない背丈で全身蛍光ピンク色の奇抜なファッションをした人物がいた。まるで戦隊モノの怪人の様だ。

「ループから外れてる。シェディムの仕業かも!」

 きびはあらせの頬に持っていた絆創膏を貼った。

「……じゃぁ、変身だな」

「「うん!」」

 魔女の水晶玉である、あらせのペンダント、きびのブローチ、しろの髪飾りがそれぞれ輝き出した。

「「「トランスホールミ!!!」」」

「来たか。蛇もどき共」

 廊下で待ち伏せていた怪人が言った。

「もも色の空より降り立つはエデンの御使みつかい。トキメキウィッチ!シュガール!ルヂェータ!」

「青い大地より降り立つはエデンの御使い。トキメキウィッチ!シュガール!群青ぐんじょう!」

「白い海より降り立つはエデンの御使い。トキメキウィッチ!シュガール!シロン!」

「「「我らシュガールただ今参上!!!」」」

「きゃー!かぁわいい~!」

 怪人は両手を頬に当てとろけた目でシュガールを眺めた。

「あぇ?」

 思いも寄らぬ言葉にきびは気を緩める。

「でも、私好きな物ほど壊したくなるのよ……。ね!」

 怪人は手に持っていた複数の手紙封筒を扇状に広げ。シュガール達に向かって投げつけた。

「わ、バリア!」

 ルヂェータが魔法で透明なドーム状の壁を作り攻撃を弾いた。
 周りにバラバラと手紙封筒が散らばっている。シロンは一枚広い中を見て読み上げた。

「都秋君へ……。私はあなたに謝らなければなりません。都秋君が描いていたノートを掃除の時間に落としてしまいました。その時、都秋君が描いていたマンガ魔女っ子ミラクルを、いけない事だと知りながら読んでしまったのです。ごめんなさい。都秋君が描いた魔女っ子ミラクルとても可愛くて面白かったです。私はとても感動しました。良かったら続きを見せてもらえないでしょうか?あなたのファンより……。名前が無いわ。でも封筒のこのシールよく見たら桜になってる……」

「じゃああの変な奴は……」

「桜ちゃんなの!?」

「何をごちゃごちゃ言っているの? ……あー!! 私の手紙読むなー!!」

 更に刃物の様な手紙を投げ付ける。

「わ、わ!」

「強風よ吹け!」

 群青がかけた魔法で、飛んで来た手紙を押し返した。手紙は怪人に向かってナイフの様に飛んでいった。

「きゃあ! や、ちょ、危ない!」

 怪人はなんとか跳ね返って来た攻撃を避けると廊下にいたはずのシュガール3人組みが消えていた。

「もう! なんなのあの子達!」

 怪人は悔しそうに怒鳴った。
9, 8

  

 怪人の隙を見て逃げて来たシュガール達は一つ上の階に移動していた。
 あの怪人が、クラスメイトの桜かも知れないと言う疑問があるので下手に攻撃出来ないのだ。

「手紙投げつけて来ただけで、アレが桜とは限らねぇんじゃねーの?」

「でも、彼女は私の手紙と言ってたわ」

「桜ちゃんがあんなヘンテコに変えられたらどうやって助ければいいの?」

「とりあえず攻撃」

「「却下!!」」

 群青はルヂェータとシロンに一喝されてしまった。

「じゃ、どうすんだよ」

 きびは考えた。

「うー。……あ、お姉さんに相談しよう!」

「お姉さんって、魔女の?」

「そう言えば名前聞いてなかったな。お姉さん」

「お姉さんに通信!」

 ルヂェータの胸のブローチが点滅すると、この前のお姉さんの携帯に電話をかけた。

『あぃ~。もしもし』

「お姉さん、大変なんだよー!」

『おー。魔法少女。どないしたん?』

 電話の向こうのお姉さんは疲れている様な気怠い声をしていた。

「あのね、小学校で大変な事が起こっててクラスメイトが」

「見てこれ!」

 シロンが教室のドアを開けるとそのクラスの生徒たちや先生が倒れていた。体のどこかには怪人が投げた手紙が刺さっていた。

「何で倒れてんだ?」

『どうしたんや?』

「クラスメイトが敵に変身させられて、学校中の生徒達も攻撃されて倒れてるの」

『それでシェディムは?』

「今日はまだ見てないよ。どうしよう……」

『しゃーない。魔法で戦うしかないで』

「そんな……」

『ジジッ……ザァーーーー』

 突然、通信にノイズが走った。

『見つけたぞ蛇共』

 シェディムの少年の声が突然通信に入ってきた。

「助けに来て!お姉……」

『こいつらの命が惜しければ小学校へ来い魔女・・』

 通信が途切れた。
 教室で物音がした。ガタガタと机や椅子の引きずる音だろう。まるで授業でも始まる様に廊下に音が響き渡る。

 廊下に居た3人が警戒してシュガール群青が廊下の窓を開けた。

「逃げよう!」

 群青がそう言った瞬間、壁やドアを叩く音が一斉に鳴った。ドアの窓ガラスからさっきまで倒れていた生徒達の姿が見えた。生徒達はまるでゾンビの様にゆらゆらとシュガール達に向かって来る。
 シュガール達がほうきに乗って窓から脱出し、校庭の真上から学校を見下ろすと昇降口からぞろぞろと人が出て来た。みんな校庭の真ん中に集まって人が折り重なって1か所に密集している。よく見るとそれは人間の皮膚と皮膚がくっ付き粘土の様な物体となって人でない物へと変貌していった。

「今度は何をする気なのかしら?」

 シロンが校庭を見下ろして言った。

「みんな怪物になっちゃったぞ!」

「お姉さんはまだ来ないの?」

 塊はグニャグニャと動き、2本の手・が生えた。それは文字通り生徒達の手を集め触手の様に直線状に伸び、鞭の様に振り上げられた。

 ほうきで空を飛んでいたシュガール達を襲い、シロンと群青の体を触手が巻き付き無数の手が離れない様にシロンと群青の体を掴んだ。

「はやく! はやく来てお姉さん!」

 ルヂェータは触手が届かない様、空高く飛び上がって町を見渡した。
 見渡しても何か飛んで来る様子はない。真下を見下ろしてルヂェータはどうするか考えるも、どうするか思いつかない。

「お困りの様やね。お嬢ちゃん」

 いきなり背後から声がすると魔女のお姉さんがいつの間にかルヂェータのほうきに乗っていた。

「けったいな敵やな。大ピンチやん!」

 お姉さんが下を見て心にも無さそうさそうに言った。

「助けてお姉さん!」

「んー。うち、戦いはなぁ。どないしよなぁー」

「とりあえず下がるね」

「ああ、作戦も無しに!」

 触手の射程距離に入ったのか触手がルヂェータ達の後を追跡して動き出した。

「逃げるのうまいやん」

「今誉められても嬉しくない!」

 ルヂェータとお姉さんの間に何か飛んできた。

「電話で言ってた敵ってあいつか? ジャングルジムの上に立ってんで」

「え゛」

 怪人化した桜が次々と手紙ナイフをルヂェータ達向けて飛ばすと、ルヂェータはバランスを崩しほうきから墜落してしまった。
 粘土の様な塊は木の根の様に触手を生やし、それを動かして地面を移動すると、粘土になった人間の骨の部分が外に現れ針状に飛びで来た。骨は魔女を包み込み檻となった。檻となった骨に肉付けする様に人の手や足、顔など沢山の肉体が骨に移動する。
 お姉さんは抵抗する事も無く鳥籠の様な檻の中へ閉じ込められてしまった。
 塊はもうお団子状ではなく、まるでお化けの木の様な形となっていた。檻は吊り上げられ、捕まった2人も掲げられている状態で魔女狩りの様な光景だった。

「随分と盛大にやってるじゃないか」

 シェディムの少年がどこからか現れて言った。隣には怪人となった桜が立っている。
 地面から立ち上がるとルヂェータがシェディムと木の間で杖を構える。

「逃げろきび!」

「逃げて! きびちゃん!」

「ここまでやるとは。僕は君を見くびっていたよ」

「魔女を連れて来たよ。ルシアンを返して」

「何言ってるの?」

 シロンがルヂェータに問いかける。ルヂェータはシェディムの少年だけを見て言った。
 
「ごめんね。お姉さん。次に敵が来たらこうするって決めてたの。私はルシアンを取り戻したいから……魔力の低いお姉さんは犠牲になってもらう。でも、私ちゃんと助けるから、石になってる魔女達みんな助けるから!」

 お姉さんは冷静に言った。

「アホやなぁ。あんた魔女向いてないわ。こいつらが大人しく人質返すと思っとんのか?」

「ルシアンはどこ? ルシアンを返して!」

「よう考えてみぃ。ルシアンを返したとして敵になんの特がある? またルシアンを餌にして魔女取りするに決まってるやろ。それに他の魔女達を助けるために魔女減らすなんて戦力削ってどないすんねん」

「ルシアンは? ルシアンはどこなの?!」

「こいつは驚いたな。仲間を裏切ってここまでするとは。さすが蛇。やる事が残虐だな」

「残虐?」

 群青が聞き返すとシェディムがお姉さんの檻を見上げた。

「さすがの僕もここまではしないさ」

「まさか……それじゃ、生徒達を操っているのは……」

「きびなのか……?」

「どうせ……明日になればみんな元に戻るんだから、どうなったて……」

「何言ってんだ!魔法少女がそんな事していいと思ってんのか!」

 群青が言った。

「だって! 誰に任せたって助けてくれるなんて思えないんだもん! だったら、何かを犠牲にしてでも助け出すしか……」
 
 ルヂェータの目から赤い涙がこぼれた。

「きび!!」

「きびちゃん?!」

「なに……これ……ゴホッ!」

 ルヂェータは口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちた。

「時間切れか。蛇を連れて来ただけよしとするか。やれ!」

「はーい!」

 シェディムの少年は怪人化した桜に命令すると桜がシュガール達や魔女のお姉さんに立ち向かった
 桜が便箋に文字を書くと、桜はその文字を指で摘んでシールの様に紙から剥がした。その文字には〝燃える〟と書かれている。

「魔女にピッタリの攻撃よ!」

 剥がした文字をナイフの様に飛ばすと生徒達の塊に張り付き、文字から炎が燃え上がった。

「おほほ! 焼き殺してやるわ!」

 炎はどんどん上へ上へと上がって来る。シロンと群青が慌てるもそこから逃げ出すなど到底不可能だった。

「やれやれ、困ったガキんちょ共やわ。そっちのクソガキ! なぜ魔女を狙う!」

 お姉さんはシェディムを指差した。

「全ては我が母イブの為に……お前たち蛇に鉄槌を降す」

「イブ? イブやと!!」

「イブって前に言ってた……」

「そんな事どーだっていいだろ! きび! 起きろ! きび!!」

 ルヂェータは血を吐いたまま動かなかった。

「フィカス。戦闘モード」

「いいのか? 魔法使って」

「後ろにいるんがイブなら話は別や」

「あと7回だ。忘れるな」

 お姉さんのメガネが流れる煙の様に消えていった。
 その奥の糸目がゆっくりと開かれる。

 ーーごく稀に魔力の強い者が生まれる時がある。魔力の強い者は蛇の眼を持ち蛇眼の魔女と呼ばれる。

 その鋭い眼光は蛇のものだった。

「これが蛇眼の魔女か。初めて見たな」

「detruu ĉionデトゥルーチィーオン!〝全てをぶち壊せ〟」

 お姉さんが青白い光りに包まれると校庭の地面がひび割れ、魔女を囲んでいた肉片の檻も腐り落ち学校一体は瓦礫と化した。

「ゲホッゲホッ! ……しもた、煙で周りがよう見えん。敵を見失ってしもた!」

 巻き上げられた砂煙でお姉さんは袖で口元を押さえ砂を吸い込まないようにした。

「おーい。カガチー! こっち、こっち」

「フィカス。どこにおるんやー?」

「ここだよー」

 砂煙の中を声がする方へ進むとシュガールの3人がルヂェータを守る様に倒れていた。手の平サイズの空飛ぶ妖精が魔法のバリアで3人を守っていた。

「まさかこの子の魔法にうちの力を出す羽目になるとはな~」

「あと6回だね」

「この先思いやられるわ」

「これからどうするの?」

「敵は……下手したら消えてもうたな。しゃーない秘密基地に連れてくわ」

 お姉さんは魔法で片手で引けるキャリーワゴン《荷車》を出すとその中に気絶した3人を乗せて砂煙の中へ消えて行った。
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