-だから女なんて信用できないんだ
今でもはっきりと憶えている。
小雪の舞う12月。
待ち合わせの場所に指定した新幹線のプラットホームで
僕はただボンヤリと線路越しに見える看板に視線を泳がせていた。
口紅を軽く口唇にあてながら、流行の女優がハニカムような笑顔でこちらを見つめている。
「最終が出るまで待ってるから」
そう彼女に告げて家を飛び出したのは何時間前だっただろう。
時刻表どおりにホームに滑り込んでくる列車を誘導しに出てくるたびに
駅員が怪訝そうな視線を送ってくる。
そりゃそうだろう。
改札に向かうわけでもなく、列車に乗るわけでもなく何時間もただベンチに腰を降ろしているだけ。
しかも目の焦点が定まってないときてる。そんな人間がいれば不審に思わない訳がない。
警察に通報されても仕方ないだけの状況は整っていた筈だ。
それでも声一つかけて来なかったのは、それほど危ないオーラでも出てたんだろうか。
居座っていたのがベンチでなく黄色い線の手前とかだったら間違いなく飛び込むと思われただろうし、
実際、そんな心境になっていないこともない自分がそこにいた。
「会いたいよ」
受話器の向こうで泣きながらそう呟いた彼女の声が耳の奥に残る。
きっと来てくれると信じていた。
離れていてもお互い信じあってると思ってた。
だから大丈夫だと思っていた。
それらは全て僕の一方的な思い込みや甘えだったんだろうか。
「間もなく1番線にひかり16号が入ります。黄色い線の内側まで下がって暫くお待ち下さい。」
無機質な駅員の声と、最終便の到着を告げるベル音が構内に木霊する。
そしてそれは、僕の恋の終わりを告げているに他ならなかった。
社会人になって2度目の冬のことだった。