お肉屋さんは闘牛士(マタドール)
ここは現代の日本。
あるところに精肉店を経営している男がいた。
肉屋はがっちりとした体形で、おいしい肉を毎日食べていた。
肉屋はいつも強くなりたいと思っていた。
ある日、テレビでスペインの闘牛のショーを見て興奮し、「俺も牛と闘ってみてえ」と思った。
次の日、肉屋は車で配達の途中に事故にあった。
肉屋は死んだかと思ったら、気が付いたらヨーロッパ風の異世界にいた。
肉屋は闘牛士に転生していた。
闘牛士になった肉屋は、明日の闘牛の試合についてエージェント(代理人)と打ち合わせしていた。
肉屋は前世の記憶が少し残っていた。
彼は「ついに念願の闘牛ができる」とワクワクしながら眠りについた。
翌日、闘牛会場では、貧しい子どもたちがこっそり潜り込もうとしていた。
子どもたちはお金を払っていたなかったので、エージェントは子どもたちを追い出そうとした。
しかし子どもたちの目は好奇心と憧れでキラキラしていた。
見かねた肉屋は子どもたちに見せてやるようにエージェントに頼んだ。
子どもたちは大喜びだった。
闘牛の試合では肉屋は華麗に闘った。
肉屋には闘牛士としての記憶が残っていたからである。
肉屋は見事に牛を倒し、ショーは成功した。
ショーの終了後、屠られた牛はその日のうちに解体され、ステーキとして食べることができた。
肉屋は美味しいステーキを食べながら、ふと貧しい子どもたちのことを思い出した。
「子どもたちはステーキすら食べられないのだろうな…」とため息をついた。
肉屋は闘牛士の記憶を思い出していた。
闘牛士もまた子どもの頃貧乏だったため、闘牛士を目指すことを決意していたのだった。
肉屋はエージェントに頼んで、子どもたちに牛の肉の残った部位を食べさせてあげるように頼んだ。
残った部位は牛の腸、「ホルモン」だった。
エージェントは肉屋の提案を受け入れてくれた。
肉屋は心から満足して眠りについた。
夢の中で不思議な声が聞こえた。
(私の名はミトラス。牛を屠る神である。
お前の望みを叶えて転生してやった。しかしお前の行いに感動した。現世でもその力を発揮してくれ…)
翌朝、肉屋は現代日本のいつもの肉屋に戻っていた。
肉屋は肉を見ていてアイデアを思い付いた。
肉屋はいつもは捨てていた牛の部位を、「こども食堂」の子どもたちに食べてもらうようにしたのだった。
完