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あとがき

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自作語りというのはあまりしないのですがマンガと違って書き終わっても放精後の鮭みたいに死に体になってないし、たまにはやってみたくなったのであとがきという形で語らせてもらいます。

何かしら他山の石なり反面教師にでもして頂けると幸いです。

まずはガンダムの外伝では有名の割には、あまり内容が知られていないガンダム・センチネル(以下センチネル)の二次創作という微妙極まりない立ち位置の本作をご覧頂きありがとうございました。

◯元ネタについて

もはや三次創作で元ネタをどこから説明すればよいのか……

ガンダムって何?って人は義務教育では無いので置いて行きます。

そもそもセンチネル履修済みの人なんていらしたんでしょうか?

ちなみにセンチネルとは模型雑誌『モデルグラフィックス』発のフォトストーリー(挿絵の代わりのジオラマ写真+小説)で、登場キャラ全員男で臭そうという現代のオタクにはおそらく受けいれられない作品です。

正確には人工知能ALICEが女性的性格であったり主人公の母親がちょっと登場するのですが、ブヒる要素ゼロのキャラ配置は今ではちょっと考えられないですね。

既にお気づきの方も多いと思いますが、本作はALICEのその後を描くお話なので『鏡の国のアリス』(『不思議の国のアリス』の続編)を下敷きにしました。

『鏡の国の〜』と言えば赤の女王。

ミラリスの語る内容は「赤の女王仮説」(生物学における進化的軍拡競走と有性生殖の優位性の仮説の一つ)が元ネタです。

簡単に説明すると、生物は外敵との生存競争の他に体内では細菌やウィルス等と免疫との戦いで絶えず変化し続けていて、たとえ外面的に変化は無くても分子生物学的には進化し続けている……これが進化的軍拡競走の赤の女王仮説。

有性生殖優位の赤の女王仮説というのは、細菌やウィルス等が無性生殖故に凄まじい速度で進化するのに対抗して有性生殖は雄雌の遺伝子を混ぜ合わせる事でそれを凌駕しているという内容……だったと思います(もし間違ってたらご指摘お願いします)。

新型コロナと免疫やワクチンなんかの報道を思い出すと理解しやすいかもしれません。

因みになぜ赤の女王仮説と名付けられたかと言うと、赤の女王の有名なセリフ「この場に留まるには全速力で走り続けなければならない」を絶えず進化にさらされる生命の本質になぞらえているからなのだそうです。

以前その仮説を解説したマット・リドレーの『赤の女王 性とヒトの進化』 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)という本を読みながら「この仮説をニュータイプに置き換えると面白そうと考え……

→赤の女王とは『鏡の国のアリス』から取られているのか→そういやガンダムでアリスと言えばセンチネル!→ピロリロリン Σ閃いたわ!!

というのが本作を思いついた切っ掛けです。

センチネルはムック本は持っていて内容は知っていたのですが、これを機に小説版『ALICEの懺悔』を購読。

本作の冒頭のセリフやALICEを菩薩と評した箇所など引用しました。

内容もさることながら、カトキハジメ氏の挿絵が素晴らしいのでぜひ機会があれば読んでみて下さい。

ついでに『鏡の国のアリス』も読み直しました。

もともと角川文庫版を持っていたのですが、どうもアリス・シリーズのような筋の無い話は苦手でイマイチ頭に入らないので子供向けの挿絵がいっぱいある『100年後も読まれる名作』シリーズで再読(訳者は同じ河合祥一郎氏)。

okama先生の超可愛いイラストが満載です! ぜひ買ってブヒ狂って下さい。


◯タイトルについて

タイトルは最初はそのまま『赤の女王』にしようとしていたのですが、これではあまりにも地味だし分かり易すぎるし『レッド・クイーン』では何だか安っぽい。

しょうがないので一時期『ガンダム・テールエンド』にしようとしました。

センチネル(斥候)に対してテールエンド(しんがり)……あまり意味が無いし、うーんと悩んであれこれ調べてみるとアリスの作者ルイス・キャロルはアイルランド系との事でアイルランド語を当ってみると赤=ジャルグ、女王=バンリオン、何だか不思議な響きでカッコイイ。

ただしアイルランド語の構成は英語と真逆で、英語だとレッド(赤)・クイーン(女王)となるところアイルランド語だとバンリオン(女王)・ジャルグ(赤)となるようです。

それよりジャルグ・バンリオンの方が語感が好ましいのであえてこちらにしました。

英語が公用語になっている宇宙世紀ではアイルランド語は既に話者も少ないはずなので多少おかしな使い方になってても矛盾はないかなと自分を納得させました。

まぁあと鏡の国なのでひっくり返ったとも考えられ。


◯ストーリーについて

鏡の国なのでセンチネルとは真逆にして、登場人物は全員女性で人工知能は男性的性格にしてみました。

当初は『鏡の国の〜』のストーリーに沿って、ジャルグ・バンリオンが次々とモビルスーツを乗っ取り、無人機軍団を率いて人類に牙を剥く デデーン!という壮大なストーリーを作ろうとしたのですが、ALICEシステムが他のモビルスーツを乗っ取るという理屈が思いつかず、仮に思いついても宇宙世紀の世界観と合わないしで端折って端折って今の形になりました。

シナリオ形式で絵にする必要が無いので大規模な戦闘とかを入れたかったのですけど。

ただ最後、赤の女王がワケの判らない問答をしかけアリス(エシラ)がキレて終わるというのは踏襲出来たと思うのでそこは満足です。


◯ニュータイプについて

ニュータイプというのは作劇において凄い発明だと思うのですが、Z以降の続編では明らかに持て余し気味になっています。

そもそもファースト・ガンダムでストーリーを上手く畳むために導入されたものですから、その後を描くとなると邪魔な存在ですし「人の革新」なんてものをおいそれと提示できる訳もない。

それにニュータイプという曖昧模糊とした概念を規定してしまうと作品にかかっていたある種の魔法が解けるという恐れがあります。

作者の富野由悠季監督もニュータイプの導入は「失敗だった」と言う始末(まぁ富野監督は大体のことは失敗扱いするである種の芸な気も)で、最近だと藤井聡太や大谷翔平のような存在という語り口になっています。

何だすごい才能がありゃいいのか?ファースト・ガンダムのラストでそれぞれにニュータイプの萌芽が現れるというラストはどうなったんだドン!と反発したくなります。

あれこそSFらしい美しいラストだったのに。

太古のオタク界隈ではガンダムはSFか論争なんてものがあったそうですが、個人的にはニュータイプの設定を入れたからこそSFになったと考えています。

SFとはなんらかの発明や発見、既存とは違う状況の変化等によって人間や社会がどう変わるのか、何が変わらないのかを思考実験するものだと思います。

もちろん人それぞれSFの捉え方があっていいと思います。

未来を取り扱えばSFという考えもありですし、SFが高尚と言うつもりはありません。

単なる分類上の問題です。

だからニュータイプという要素を抜けばガンダムは他ジャンルに置き換え可能な物語だと思います。

で、あくまでもSFとしてZガンダム以降におけるニュータイプとは一体どういう存在であったのかを考えると、結局は超個体としての人間社会の維持という進化に取り込まれたのではないかと考えました。

結局、相争って離合集散するのが本質で、それが克服された瞬間に人間社会という種は自滅に向かうのではないかと想像してます。

あまり救いのない考えですけど、昨今の状況を見ているとそんな風に考えてしまいます。


◯モビルスーツについて

登場するモビルスーツの主要機は簡易変形(変形機構を有しないロボットが姿勢を変化させる事で変形したように見せる。なんちゃって変形とも)にしました。

マクロス・シリーズの可変戦闘機みたいな本格複雑変形も大好物なのですが、簡易変形も大好きなんです。

簡易変形は「手抜きだ」「安直だ」「ダサい」「おもちゃ屋主導デザイン」と言われたりしますけどデザインも理屈付もまたまだ発展の余地があると思います。

センチネルではEX-Sガンダムやゼータ・プラスなど本格変形機が使われていたのであえて簡易変形だらけにしてみました。

登場するモビルスーツの名前はヤマハのバイクから借用しました(ただしエグザップは排気デバイスの名称)。

特にヤマハ党というワケではないのですがアクロニムを組みやすかったのが最大の理由(ヤマハのバイクは何台か乗ってたんで好きですが)。

かつてモビルスーツの名前にバイクや車名を付けるという流派があって、昔は嫌っていたのですけど絶えてみるとこれはこれでオツなものだったなと思い返してやってみました。


◯キャラクターについて

主人公エシラの名前は単純にALICEの綴りをひっくり返しただけで苗字は加賀美(鏡)という呆れるほどの単純ネーミング。

ただ語感が良かったので採用。

外見は当初、白人女性だったのですがセンチネルの主人公が白人とたぶん日本人のハーフなのを思い出し、ここもひっくり返して(何でもひっくり返すといいと思ってる)黒人種とのハーフにしました。

黒人系の女性主人公というのは初めてで新鮮なので即採用。

ストーリーを考えていくと黒人系というのにも意味が与えられて満足していたのですが、どういう訳だかキャラが勝手に動いてくれない。

彼女の一挙手一投足の心理は説明出来るのに、どうにも生きている感じがしないキャラになってしまいました。

いわゆる劇的欲求が無いのが原因と思うけど、こういうのは時間をかけて考えれば答えが見つかるという類のものではないので、早々に諦めました。

長官のキャラデザインは気にいって、中盤にも出番を作るために宙域保安隊の副部長と双子という事にしました。

ちょうど『鏡の国の〜』にトゥイードルダムとトゥイードルディーという双子キャラが出るので、それにあやかってダムアとディーアと女性名風にしました。

他キャラはアイルランド人名で固めました。

因みに艦船の名称もアイルランドの都市名にしました。

アイルランド由来の名前はカッコいいのが多くて良いですぞ!


◯シナリオ形式について

本作をマンガにしなかったのは膨大なセリフを処理できそうになかったからで、その分存分に喋らす事が出来て満足です。

マンガだとセリフを一文字でも削ろうと絶えず悩んでましたので、そこから解放されたのは楽で長台詞を書けるのは楽しかったですね。

ただシナリオ形式というのは初めてなので、何をどこまで書いて良いのかまったく掴めずかなり苦労しました。

あと昨年末、色々あってゆっくり連載をするわけにいかず、途中挿絵も無く生焼け状態でバタバタと更新する結果になりました。

読みにくかったりしたら誠にごめんなさい。

というワケで散々書いてお腹いっぱいなのでここまで。

ではまた何か書(描)いた際にはご覧頂けると嬉しいです。
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