とうとう最後の二人になってしまった。たくさんいたきょうだいたちはもういない。誰もが誰かの腹の中におさまってしまった。僕らはきょうだいを食べて命を延ばした。身体を大きくしていった。みんなみんな大好きだった。みんなみんなおいしかった。
そして僕の歯が最後のきょうだいの腹を食い破ると、きょうだいはこう言った。
「最後に、俺の形見を持っていってくれないか。肌身離さず、おまえの身体につけていてくれないか」
「わかったよ。君の歯かい? それとも目玉かい?」
「俺の、ちんちんだ」
僕は彼のちんちんの周りを丁寧に齧り取り、元からある僕のちんちんの隣にくっつけた。
「あばよ、相棒」彼の最後の言葉は、僕と彼のちんちんの両方にかけられたものだった。
そうして僕は二本のちんちんをぶら下げて、出口へと向かった。生まれた時に比べると僕は随分と大きくなっていた。まだ孵化する前のきょうだいたちの卵を食べ、孵化した後のきょうだいたちと争い合い、食らい合った。全てはこの日のために。母の胎内から出ていくために。
二本のちんちんぶら下げて、僕は大海原へと旅に出る。シロワニ、と呼ばれる僕らだが、名前はワニでもサメである。僕らは主にサメを食べる。母親の胎内で味わった、きょうだいたちの味を求めて。メスの同族に出会った時に交尾に使うのは、一本のちんちんだけである。もうどっちが僕のちんちんで、どっちが最後のきょうだいのちんちんだったかは分からない。
どちらでもいい。僕は全てのきょうだいの一人でありつつ、きょうだい全員でもある。命を背負った僕らは、新たな命を求めて海をさまよう。
※シロワニは大型のサメの一種。母体の胎内で孵化した卵のうち、生き残るのは一匹だけである。孵化しなかった卵や、孵化した同族を食らって生き延びる。大型のサメは二本のちんちんを持っている種が多く、その理由については諸説あるが、この話では「最後に食らった同族の形見をくっつける」説を採用した。最後に生き残ったのがメスの場合は、くっつけずに食べる。